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誰かにプロポーズされちゃってるシリーズ

今、女嫌いとウワサのイケオジ騎士団長に求婚されている・・・のだが

作者: めっちゃ犬

パン屋で働く平凡な町娘のマリー。ある日、女嫌いとウワサの騎士団長に突然プロポーズされます。そのイケオジっぷりに恥じらったりトキめいたりのマリーですが、話をするうちに団長の○○な一面が明らかになって・・・。アルファポリス様など、他のサイトにも投稿させていただいております。


「マリーさんですね?我々とご同行願います」


夕方、いつも通りの時間に勤め先を出たら、騎士の男性2人に両脇をかためられた。身にまとう制服は王宮騎士団のものだし、物腰や言葉使いからも彼らが王宮につとめる本物の騎士だと分かる。


「え!?どういうことですか?」


あせる私に、騎士のひとりが事務的な声で言った。


「あなたと内密に話したいという方がおられるのです」


いや、いないだろう。私は町のパン屋につとめる平民の娘だ。27歳でそろそろ独身が板につき始めているけど、これでもポコペンベーカリーの看板娘と呼ばれている。王宮だとか騎士だとかには何の縁もないはず。


「お連れします!」


「ひょぇええええええ!!」


戸惑いで動けないでいる私に業を煮やしたのか、騎士2人に強引に馬車に乗せられてしまった。目立だたせないためだろう、紋章もなにもない簡素な馬車は、行先も分からないまま静かに走り出す。


こういうの拉致って言うんじゃないですか!?!?


なんでこうなったのかにはもちろん身に覚えがないし、頭のなかは疑問と不安でいっぱいだ。あり得ない状況のせいか心が現実逃避を始めてしまい、最近読んだ小説のアレコレが浮んでは消える。


も、もしかして、コレはアレだ。私は偶然にも王女様にそっくりで、身代わりとして隣国のバカ王子のもとへ嫁がされるとか?隣国にバカ王子がいるかどうかは知らんけど。


いやいや、私は髪も目の色も平民に多い茶色だし、容姿も平凡だ。間違ってもそんなわけないよね?


あっ!もしかして私、実はどこかの貴族の隠し子だったとか?子供の頃からお父さんに似てないってよく言われてたし。だから腹違いのご令嬢の代わりに、女嫌いの冷徹公爵に嫁がされて、お飾り妻にされるのかもしれない。そして初夜の晩に、「きみを愛することはない」って宣言されるのよ。


いや、どれもありそうにないアホみたいな妄想だけど、なにせ王宮騎士団に拉致(?)されているこの状況こそがありそうにない話なのだから、どうか許して欲しい。



******


そして今、私は殺風景な会議室のような部屋で、椅子に座らされていた。馬車が着いたのは王宮騎士団の庁舎のようなところで、騎士たちに丁重かつ有無を言わせぬ態度でここへ連れてこられたのだ。部屋の内にも外にも見張りはいないけど、騎士団の建物から逃げ出せる気がしないのでおとなしくしている。


ふいに部屋のドアが開いて、ひとりの騎士が入ってきた。年のころは40歳前後、濃い金髪に精悍で整った顔立ち。身長が高く、筋肉は制服のうえからでも分かるほどに鍛えあげられていた。あまりのイケオジっぷりに思わず見とれてしまう。


「君がポコペンベーカリーのマリーだね?」


耳に心地良いバリトンボイスが響く。


「さようでございます」


状況が分からないので、とりあえず丁寧にこたえた。


「急に呼び出してすまない。私はガスコン・マーレーだ」


そう言ってイケオジは手を差し出した。私は困惑しながらその手を握る。剣をにぎる騎士らしく、皮の厚いゴツゴツした手のひらだった。


「マーレーさま?王宮騎士団長の?」


彼は少し照れたような顔でうなずく。その笑顔に、「ちょっと可愛い」と思ってしまう。


しかし、マーレー騎士団長と言えば王都では有名人だ。王家への忠誠心あつい最強の騎士。そしてめっちゃ男前で、王都では若い娘から奥様方までフアンが多いと聞く。私は彼の顔を知らなかったけれど、今日会って納得した。こりゃあ女性が騒ぐのも無理ないわ。でも、彼には浮いた話がなく、現在まで独身をつらぬいているそう。身辺があまりにきれいなので、「騎士団長は女嫌い」とのウワサが広まっているほどだ。


そんな有名人が私に何の用があるのだろう?さらにワケが分からなくなってドキマギしていると、相手が口を開いた。


「急にこんなところに呼び出してすまなかった。本来はこちらから出向くべきなんだが・・・その、仕事が忙しくてな」


テーブルをまわって私の正面に腰かけながら、団長さまはそう言った。いや、あの狭くて散らかったアパートに、いきなり王宮騎士団長が訪問してくるとか、それはそれで困るんですけど。


「あの、私にお話しとは?」


強引に連れてこられたのには怒ってるし怖いけど、こうして来たからには早く用件を言ってほしい。


「ああ、そうだな。マリー、結婚してもらえないだろうか?」


・・・・・・?


なんだろう、すごい重大なことをサラッと言われたような気がするけど、聞き間違いだよね?


「え?なんですって?」


少し前かがみになって聞き返す。


「結婚して欲しんだ!」


団長さまはさっきよりも大きな声ではっきりと告げた。


「そ、それって、もしかして身代わり!?」


「は?なんだそれは?」


「いえ、なんでもありません」


ここに来るまで変な妄想をしていたので、ついおかしなことを口走ってしまった。だけど、なんで私、初対面の人にプロポーズされてんの???


「あのぉ、どこかでお会いしたことがありましたっけ?」


「ああ、すまない。どうも女性と話すのは苦手で」


そう言って、イケオジは苦笑いを浮かべておでこをかいた。


「ちゃんと説明しないと分からないよな。実は、私の母が君のいるパン屋の常連なんだよ」


あ~、なるほど。もしかして団長さまも店に来たことがあるのかしら?そこで一目ぼれされたとか?あらやだ、顔が熱くなってきたわ。私は火照る頬を両手で包んだ。照れ隠しにあわてて言葉をつなぐ。


「お母さまはどんな方ですか?」


聞けば、確かに私もその人に覚えがあった。毎日必ずと言っていいほど買い物にくる老婦人。その人はいつもきちんとした服装をしていて、若いときはさぞ美人だったろうと思わせる風貌をしていた。


「母はいつでも愛想よく接してくれる君に好感をもったそうなんだ」


私は頬に手をあてたまま、小さくうーんと唸る。


愛想よくしてるのは、店のお得意さんだからにすぎない。騎士団長のお母さまは、どこに住んでるのかとか恋人はいるのかとか、プライベートなことをグイグイ聞いてくるので私はちょっと苦手だった。でもそうか、あれは息子の嫁にどうかと思っていろいろ知りたかったんだな。


「それは仕事ですから。お客さまには気分よくお買い物していただきたいので」


「うむ、君は働き者らしいな。いまどき感心な娘だと母が褒めていたよ」


「そ、そうですか・・・」


返答に詰まる。実際の私はそんなに働き者ではなく、一人暮らしの部屋はいつも散らかりぎみだ。店でテキパキ働いているのは、ポコペンベーカリーが大好きだから。


うちの店長がつくるパンは美味しいので、私はたくさんの人に食べてもらいと思っている。でも、店長は体が大きくて、熊みたいな見た目。そのうえ人と話すのが苦手なので、不愛想で怖い人だと誤解されやすいのだ。


本当は気が弱いと言っていいほどに穏やかな人だし、そんな誤解でお客が減ってほしくない。だから私は、お客の心象を良くするために頑張って掃除したり、接客にも気を配っているの。


「まあ、従業員のなかでは私が一番の年長ですし、慣れてますので」


思えばあの店で働きだしたのは17歳のときだったから、もう10年も働いてるんだわ。当時からいた娘たちはみんな嫁に行ったのに、私ってば何してるんだろう?もちろん早く結婚したいとは思っているんだけど。


「そうなのか。母が君のように気立ての良い娘はめったにいないって言ってたぞ」


目を細めて笑う団長さま。歳は離れてるけどイケオジだし、王宮騎士団はお給料も良いって聞くし、これって悪い話じゃないかも。そう思っていると、団長さまはさらに続けた。


「君は料理も得意らしいじゃないか」


私は確かに料理が好きで、いろいろ試してオリジナルレシピをつくったりしている。店のパンにあうおすすめレシピを考案して、店で配ってもいた。ちょっとでも店の売り上げに貢献できればと思ってはじめたのだけど、主婦のお客さまになかなか好評だ。そう言えば、団長さまのお母さまにも、レシピ通りつくったら美味しかったと言われたことがあったっけ。


「好きなだけで、自慢するほどのものじゃないですよ」


そう謙遜しつつも、頭のなかにはエプロンをつけた自分の新妻姿が浮かんだ。団長さまは体が大きいし、たくさん食べてくれそうだから、きっと作りがいがあるだろうな。そんなことを考えると、また顔に熱がのぼってくる。


「君が嫁に来てくれれば毎日美味しいご飯が食べられるって、母は楽しみにしているんだよ」


「お、お母さまが?」


「ああ、そうだ」


団長さまがすごくいい笑顔でうなずくのを見たら、顔の熱がスーッと引いていった。妄想のなかの新妻マリーが、エプロンをはぎ取って投げ捨てるのが見える。


「とにかく母が君のことを大変気に入って、嫁にしたいって言ってるんだ」


うーん・・・なんだかお母さまと結婚させられるような気がしてきた。


団長さまがお母さまの意見を尊重しているのは分かったけど、だからって顔も知らない娘を呼びつけていきなり求婚するっておかしくない?さっきは一目ぼれされたかとドキドキしたけど、よく考えたら部屋に入ってきたとき、団長さまは私がマリー本人かを確認していたよね?それって今日まで私の顔も知らなかったってことじゃない?


「ええっと、もしかして、お飾りの妻をご所望ですか?」


おずおずと尋ねる。騎士団長の女嫌いのウワサはガチで、取りあえず誰でもいいから結婚して、うるさい外野をシャットアウトしたいのだろうか?たぶん結婚しろと一番うるさいのは親だろうから、なら母親の気に入った娘にしとくかって感じで。


「・・・なんでそうなる」


団長さまが困惑した顔でつぶやく。


「違うんですか?」


「当たり前だろう!」


あ、ちょっと怒ったっぽい。


「母はちゃんと君のことを大事にする。お飾りの妻なんかにはしない!」


「す、すみません」


あわてて謝罪する。だけど、今の場合の主語は「母」ではなく「私」じゃないの?


「でも、いくらお母さまが気に入ったからって、よく知りもしない娘と結婚しようと思えるんですか?」


私は疑問をそのままぶつけてみた。


「なに言ってるんだ。母が気に入るかどうかが一番大事なんだ。私の結婚にそれ以外の条件などない」


・・・・・・はぇ?


「ええっと、ご自分の好みとか結婚生活のご希望とかは?」


「だから、私の好みは母に気に入られる女性で、妻に望むのは母と仲良く暮らすことだ!!」


胸を張って宣言する団長さま。彼が身にまとう風格と、発せられた言葉の内容とがちぐはぐすぎて悲しい。


「これまで母のお眼鏡にかなう娘がいなくてな。いつの間にかこんな歳になってしまった」


そう言って両手を広げ、ため息をついた。


「お母さまの気に入る女性を探していたんですね」


「もしかして女嫌いのウワサを信じてたのか?そんなワケないだろ、はっはっはっ!」


高らかに笑う彼。見た目だけなら豪快でさわやかなイケオジである。


「だからマリー」


団長さまは立ち上がって私の前までくると、床にひざまずいた。さすがは騎士、さまになっている。そして私の手をとると、自信たっぷりのイケオジスマイルを浮かべたのだ。


「私と結婚して欲しい!」


「・・・・・・お断りします」


私は彼から目をそらし、にぎられた手をそっと引いた。


******


あのあと団長さまに「帰ります」と言ったら、案外あっさりと帰してもらえ、来たときと同じく馬車で送ってくれた。ポコペンベーカリーの前で降りたとたん、店長が店から飛び出してくる。


「マリー!無事だったか!?」


どうやら私が騎士に連れていかれるのを目撃して、ずっと心配していたらしい。誘拐だと憲兵に訴えても、相手が王宮騎士だと聞くと知らんぷりされたのだとか。店長はどうしていいか分からずに、汚れた作業着のまま店内をウロウロ歩き回っていたそうだ。熊みたいに。


「別にひどいことはされてないけど、疲れたわ」


そう言って厨房の椅子に座り込むと、店長があたたかなお茶をいれてくれた。


「いったい何があったんだ?」


「ふふふ、ある人にプロポーズされたのよ」


団長さまの名誉のためにも、名前はふせておくことにする。なんせ断っちゃったのだから。


「は!?もしかして騎士にか?」


「まあそうね」


お茶を飲みながら答える。店長のいれてくれるお茶は、いつも優しい味がして心が安らぐ。


「だっ、ダメだ!!騎士なんて危ない仕事だし、乱暴なヤツも多いし、汗臭いし!」


いや、なに言ってんの?それって職業差別ですよ、店長。


「でもお給料はなかなか良いらしいよ。それに彼、けっこうイケメンなの」


なぜかあせっているらしい店長をからかってみる。


「な!?ダメだ、絶対にダメ!!マリー、そんなヤツと結婚しないでくれ!!!」


店長が泣きそうな顔ですがりついてきた。


「やだ、どうしたの?」


ビックリしてちょっと体を引くけど、毎日パンをこねている太い腕にとらえられ、ひしと抱きしめられてしまった。


「嫌われるのが怖くて言えなかったけど、俺はおまえがずっと好きだったんだ。たのむ、ほかの男と結婚するなんて言わないでくれー!」


・・・まったく、この人はしょうがないなぁ。熊のような大きな体をしているくせに、気が小さいんだから。たくましい腕のなかで小麦粉とバターの香りをかぎながら、私は気づいた。


ああ、私もずっと、この人のことが好きだったんだわ。



最後までお読みいただきありがとうございました。ちょっと笑えるハッピーエンドの短編をほかにもUPしています。お気に召しましたら幸いです。

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― 新着の感想 ―
運命のお相手は、側にいたんですね。 結婚するのは、自身が決めた人なのが幸せのもとです。
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