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きっと、そばに  作者: ミソラ


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ベルジュラック①3

 ラウリーヌを居間に案内をさせた後、ジョスランたちは執務室に移動した。

 中に入ると、机に向かっていたクリフが立ち上がってにこりと笑う。

「おかえりなさい。ジョスラン、レノー。」

 

「なにか変わったことは?」

「いえ、特に。」

「これらの仕事は明日以降でも大丈夫か?」

 積み上げられた書類の束を指でとんとんと叩く。

「今日みたいな日にしなきゃいけないような仕事はありませんよ。」


「で、ジョスラン。ラウリーヌさまに体のことは話したのか?」

 レノーが話を向けるとクリフが再び動かし始めていたペンを止めてこちらを見た。

 

「幼少期の病気の後遺症だと話してある。それにしてもお前があのような爆弾を投下するとは思わなかったぞ。」

「幼少期の病気って……。こっちだっていきなり婚約するなんて爆弾を投下されたんだ、このぐらいの意趣返しはしたいよ。」

「本当のことは言わないのですか? ジョスラン。」

「まだ時期尚早だ。信頼関係を築いてからでも遅くないだろう。」


 レノーとクリフが情けないものを見るように眉を下げた。

 

「で、レノー。君から見てラウリーヌさまはどうだったの?」

「報告書通り美しいお嬢さんだよ。今日はまだしおらしいけどね。しかしまあ我が主を救ってくれた方ですし?」


 ジョスランはふっと笑みをこぼした。

「なんだ、レノーはラウリーヌが気に入らぬのか。」

「気に入らないということではないけど……。」

「レノーは嫉妬しているんでしょう。一番近い立場を取られそうなんですから。」

 クリフがくすくす笑いながら言うと、レノーがキッとクリフを睨んだ。

 

「は、気持ち悪い奴だな。お前たちがどのように思おうとも私はラウリーヌを愛しく思っているし大切にするつもりだ。そのつもりで接するように。」

「……はいはい、わかりましたよ。」


「さあ、そろそろ落ち着いた頃でしょう。ジョスランさま、居間に行かれた方がいいのではないですか?」


 クリフに追いたてられるような形で三人は居間に向かった。


 *


 居間に戻るとラウリーヌがブノア夫人から色々と話を聞いているようだった。


「すまぬ、待たせた。」

「いえ。」

「旦那さま、今日ぐらいは仕事を忘れてもいいと思いますよ。やっと来てくださった婚約者さまを放っておいて……。」

 ブノア夫人の苦言にジョスランは眉を下げた。

 

「すまぬな。少し仕事の確認をしただけだ。しかしもう夕刻も近いゆえ疲れただろう。部屋も整った頃だ。夕食を摂って早めに休むとよい。ブノア夫人、明日は屋敷の中を案内してやってくれ。」

「かしこまりました。」


「その前に、僕たちを紹介してくださいよ、ジョスラン。」

 クリフが不服そうに言うと、並んでいた使用人たちが前に出た。

 

「あー、そうだったな。徐々に覚えてくれたらいいが。こちらから家令のドニ・ブノア。ブノア夫人の夫だ。息子のレノーは私の執事兼従者。その横のクリフは仕事の面での側近。……クレマンはどうした?」

「クレマンはまだ小屋かなあ。呼びに行ってこよう。」

 

「クレマンというのは公爵家専属の薬師だ。後で紹介しよう。それから、ラウリーヌ付きの侍女は誰だったか? ブノア夫人。」

「はい、こちらのメイとサラでございます。」

 ブノア夫人の横に立った二人の少女がお辞儀をした。


 二人も付けてくれるのか、とラウリーヌは驚いた。子爵家ではラウリーヌの侍女はジーナだけで、ジーナは母の侍女の補助のようなこともしていた。


「ふ、ラウリーヌ。声をかけねば二人は頭を下げたままだぞ。」

「えっ、あ。メイ、サラ、顔を上げて。」


 二人ともまだ若く、可愛らしい。ジーナとも上手くやっていけそうだ。

 そこでラウリーヌは気がついた。ベテランの侍女だと子爵家から連れてきたジーナが侮られることがあるかもしれない。

 あえての人選なのだ。細かい気遣いに感謝の気持ちが起こる。


 そうこうしているうちに薬師のクレマンが来た。

「遅くなってごめん。」

「『申し訳ありません』だろう、クレマン。」

 レノーがクレマンの後頭部をぱしっと叩くとクレマンがそのまま頭を下げた。

「遅くなって申し訳ありません、ラウリーヌさま。」

「い、いえ。」


 ゴーチェ領を出てからラウリーヌは驚いてばかりだ。

 公爵家と気構えていたが、意外が過ぎる。それに、ジョスランは人嫌いの変わり者と聞いていたので、印象の差に驚く。

 本当のジョスランは側近たちに敬称なしで呼ばせるほどフランクな人らしい。

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