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きっと、そばに  作者: ミソラ


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バルティ⑤

 ばふっという音を立てて大きな布の上にバウンドした。


「ナイスキャッチ〜!」


 後ろでは、次々とボスボスと音を立てて布の上に重いものが落ちる音がして「うっ、重っ!」「尻打った!」と抑えた声が上がる。


 その布は、屈強な男たちが持つ大きな帆布だった。

 帆布の真ん中に沈み込み、ラウリーヌは至近距離で男と目を合わせた。

「ジョスラン……?」


 ジョスランはふっと微笑んだ。

 (夢だ、これは夢だわ。)

「ラウリーヌ、まだ気を失わないでくれ。」


 転がるようにして布から降りると懐かしい顔がいた。

「え……? レノー?」


「こちらに馬の準備がしてあります。」

「とりあえずここから離れる。……イーヴが戻る前にな。」


 馬に乗り後ろから包まれるようにすっぽりと収まる。ラウリーヌは懐かしいシダーウッドの香りと暖かいジョスランのマントの中で気が遠くなっていった。


 *


「起きたか?」


 ラウリーヌが目を覚ますと、頭もとの椅子に座ったジョスランがラウリーヌの頭を撫でていた。


「……まだ夢を見ている?」

「夢じゃない。私は、生きている。生きているよ、ラウリーヌ。」


 ラウリーヌはがばっと起き上がり、ジョスランの胸ぐらを掴んだ。

「……なぜ? なぜ生きてたなら、もっと早く迎えに来てくれなかったの!? なぜ生きてるって……。」


 そこでラウリーヌは頭を上げ、下からジョスランを見上げた。

「……なぜ生きてるの? 私、あなたが処刑されるところを見たのよ。」

「そうか、見ていたのか……。あれは、替え玉だ。」

「替え玉……?」

「レノーとクレマンが監獄の看守たちを買収し、替え玉を囚人の中から連れてきた。」

「なぜ、知らせてくれなかったの?」

「もちろん、ずっと君を探していた。が、君は『夜の城』の奥深くに隠されていた。」

「……!」

 

 そうだった。馬車が襲われた後は部屋から出られず、ジョスランの処刑の後は全ての感情を失ったようになって外に出ることもなかった。

 動き出したのは『スコルピウスの館』を作ってしばらくしてからだった。

 

「私はジスラールに留まることはできなかった。でもずっと探していたよ。……けれど、中途半端な状態で君を迎えにくることはできない。」


 理解できる。中途半端だろうとなんだろうと生きていることを知りたかったけれど。

 ラウリーヌの顔がくしゃりと歪み、涙がぼろぼろとこぼれる。その瞼に、頬に、唇に、ジョスランは唇を落とした。


 ラウリーヌはその存在が実感できるまでジョスランの腕の中に頰を埋めた。

 

「ジョスラン、左腕と足は……?」


 ジョスランはラウリーヌを抱えて走り、飛んだ。今も左手は自然にラウリーヌを包んでいる。


「やあ、気がつかれましたか、ラウリーヌさま。」

「クレマン?」

「はい。お久しぶりです。お薬をお持ちしましたよ。全身筋肉痛でしょ。」


 ジョスランの腕の中にいると忘れていたが、そういえば体が痛い。あんなに飛んだり走ったりしたせいか。

 というかジョスランの腕の中にいる姿を見られて恥ずかしい。


「私の体が動くようになったのはクレマンの薬のおかげだ。まだ少し痺れは残っているが。」

 左手をゆっくりと開いたり握ったりする。 

「体の中にあった毒を完全に解毒できたんだよ。それから、船での生活が過酷だったからかな。」


「船……。」

 目の前にいるジョスランは、記憶の中よりも少し日に焼けて精悍になっている。そして髪の毛が伸びて後ろで緩く結んであり、ますます大人の色気があふれている。

(ああ、でも信じられない。)

 ジョスランの頬に手を添える。

 

「ん?」

 心臓が痛いほど跳ねる。

「生きてた……。」

「気の済むまで確認してくれ。」


 ジョスランも両手でラウリーヌの頬を包むように触れた。その後ろでレノーとクレマンが呆れたように「薬、置いていくよ〜」と囁いて部屋を出て行ったが、それさえも気づかず、ラウリーヌは暖かくて大きな手を感じていた。


 再びラウリーヌの瞳からぽろりぽろりと涙が流れる。


「私が……、この左手と左足が治る手助けをしたかった……。一緒に、いたかった……!」

「……すまない。」


 それからしばらく二人はぴったりと一つになっていた。

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