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きっと、そばに  作者: ミソラ


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夜の城②3

『夜の城』はかつて王都を守る壁に設置された砦の一つだった。城下が膨張し、壁を外へ外へと拡張した結果、使用されなくなった砦は打ち壊されたり放置されたりした。

『夜の城』はそうした中残った砦跡である。


 打ち捨てられた砦ではあるが、戦の絶えなかった数百年前の暗黒時代のもので、何百人という兵士が生活できる空間もあり、大勢が一度に食事が摂れる食堂があり作戦会議を開くことができる広間がある。


 その広間にジャンをはじめとして、かつてリオンの父である今は亡き前王弟に仕えていた者たちが集められた。

 部屋の一番奥には玉座のような意匠の一対の椅子が置かれており、その後ろには亡き王弟夫妻とリオンが描かれた肖像画が飾られている。

 

 その玉座にリオンとラウリーヌが座った。

 

 ラウリーヌは艶やかな繻子織の喪服を身につけ、顔は黒いベールで隠れている。肩下に整えられた黄金の髪と右手薬指に嵌めたサファイアとトパーズの指輪が煌めいている。


 ここに来てほぼ初めて姿を現したラウリーヌに、集まった者たちの間に動揺が走ったが、静かに見渡すリオンの視線に黙すことしかできない。

 

 リオンも天井からぶら下がる無骨な鉄のシャンデリアや壁に取り付けられた松明の光で銀色の髪を光らせながら、低く落ち着いた声で静かに話し出した。


「皆の者も知っている通り、現国王の所業には目に余るものがある。罪なき人を陥れ、自身は贅沢をしながら国民の生活は蔑ろにしている。否、見てもいないし、気にもしていない。」


 集められた男たちは固唾を飲んだ。


「私はこれから王権を奪取し、父の遺志を受け継ぎ国のために身を捧げることを宣言する。反対する者は直ちに夜の城から出て行くがいい。」


 男たちは顔を紅潮させて鬨の声を上げた。

 ようやく悲願が叶うのだ。敬愛する王弟殿下を反逆者のままにしてはおけない。そのために盗賊に身を落としながらも後継者たるイーヴ・リオネルを守ってきた。

 広間を包む興奮の中、リオンは隣に座るラウリーヌに視線を移した。


 *


 その少し前。


「え? リオンが亡き王弟殿下のご子息?」

「そう。」

「でもサージェス伯爵は……。それにあなたはここの盗賊に攫われて酷い目に遭っていたのでは?」

「ぶはっ、今までどこをどう見て俺が酷い目に遭っていたと思ってたの? 俺はすでにここの王だよ。」


 リオンは、久しぶりに言葉を交わしたラウリーヌに笑いかけた。


 南部の田舎では、美しいリオンは盗賊たちにどんな酷い目に遭わされているかわからないと噂されていた。当時ラウリーヌは子どもで理解できていなかったが、今なら少し分かる。


「俺はこの小さな世界の王で、それでもいいかと思っていたんだ。俺に希望を見出している奴らの夢を壊さなくて済むならね。だけど……。」


 リオンはラウリーヌに一歩近づき、顔を近づけた。


「君が望むなら、この度の元凶であるローランドを倒し、この国を手に入れて復讐しよう。」

 ラウリーヌは視線を逸らせた。

「君だけの望みじゃない。ローランドは俺の両親の仇でもある。それに俺が国王になるのはこの『夜の城』に住む者たちの願いであり、困窮する民衆を救う手立てでもある。」


 ラウリーヌはあの日、広場で興奮する民衆たちを思い出し複雑な気持ちになる。

 

「ラウリーヌ、なぜローランドが広場でベルジュラックを処刑したのかわかるか?」

 ラウリーヌは目を伏せた。

「民衆のうさを晴らすための生贄にされたんだ。」


 見目のいい大金持ちで大貴族の男が罪を犯し、処刑される。きっと悪人に違いない。悪いことをして金を稼いだのだろう。自分たちは明日の生活もわからないのに。

 それを国王が断罪した。

 

 ジョスランの処刑は民衆にとって憂さ晴らしであり、遠い世界の芝居のような面白い見せ物だったのだ。

 しばらくは貧しさも忘れてその話で盛り上がるだろう。


「……そんな民衆を救うと?」

 ラウリーヌは吐き出すように言った。

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