夜の城②2
目を閉じている間、覚醒していようがいまいが瞼の裏にはあの広場の光景が焼きつき、耳には怒号が残っている。
目を閉じるのが怖い。
眠るのが怖い。
……あなたなしで、生きるのが怖い。
*
「だめです。食べようとしません……。」
アンヌがため息を吐く。
「ラウリーヌ……。」
ラウリーヌは丸二日眠り続け、目が覚めた今は項垂れたままクッションにもたれている。
長く美しかった黄金の髪の毛は肩につくぐらいに切り揃えられ表情を隠している。
声も出さず、笑うことも泣くこともせず、ただただ存在しているだけだった。
廃墟のような砦に立つ塔には似つかわしくない、豪華で小さな窓しかない部屋。入り口の扉にもその部屋に至る唯一の階段の下にある扉にも錠前がつけられ、常にアンヌかアネットがラウリーヌの側についている。
その中でラウリーヌは、もしかすると目覚めてから眠っていないのではないかと思われるほど、クッションにもたれたまま動かなかった。
部屋を訪れたリオンがため息をつきながらラウリーヌに近づいた。
元々華奢な体がますます痩せ細り、まさかこのまま儚くなってしまうのではないだろうかと不安が募る。
「……ほらラウリーヌ。アンヌが食べやすいようにスープを作ってくれたんだ。少しは食べないと……。」
リオンがスープをすくったスプーンをラウリーヌの口元に寄せたが、ラウリーヌはぴくりとも動かない。
(そんなに公爵のことが……?)
リオンはサイドテーブルに器を置き、ラウリーヌの肩を掴んだ。
「頼むよ、ラウリーヌ。なんでも願いを聞くから。頼むから食べてくれ。でないと君まで……!」
「……。」
ラウリーヌがわずかに身じろぎし、微かに口元を動かした。
「ん? なに? ラウリーヌ。」
「……復讐を……。」
ラウリーヌが顔を上げ、短くなり乱れた髪の毛の間から光る琥珀色の目をリオンに向けた。
「……ジョスランを殺したこの国に……復讐を……!」
リオンは驚いて目を見開いた後、ふふっと笑った。
やっと声を出してくれた。やっとこちらを見てくれた。復讐がラウリーヌの生きる糧になるならば、叶えてやろう。
「いいよ、ラウリーヌ。俺がこの国を君に捧げよう。だから、君はそれを見届けるまで生きるんだ。」
小さく頷いたラウリーヌが少しずつアンヌにスープを食べさせてもらっているのを確認しリオンは部屋を出た。
そして螺旋階段を降りたリオンはジャンを呼んだ。
「ラウリーヌの願いを叶えるついでにお前の望みも叶えよう。皆を集めろ。」
「では、イーヴさま!」
喜びに目を輝かせるジャンにリオンは静かに宣言した。
「ああ。ローランド国王を追い落とし、この国を俺のものにする。」




