夜の城②
暗い闇にいるようだ。頭ががんがん痛い。
「ラウリーヌ、気がついたか?」
朦朧とした意識の中、聞き慣れた声が聞こえる。
なのに一番聞きたい声が聞こえない。
(ジョスラン……。あなたは本当にいなくなったの?)
もう一度、意識は闇の中へ沈んでいった。
*
「アンヌ、お前がラウリーヌにあの紙を渡したのか。」
「イーヴさま! 妻は雑誌を渡しただけだと……!」
「どけジャン。俺に黙って勝手なことをした者には罰を与える。」
机と椅子以外何もない部屋の中、リオンは跪いて懇願するジャンを蹴り飛ばし松明の光に輝く剣をがくがく震えながら床にへたり込んでいるアンヌに向けた。
「待って! 私が拾った号外を雑誌に挟んでアンヌに渡したの!」
リオンは走り込んできたアネットに剣を向けた。
「なぜそんなことをした?」
「……しょ、処刑されたのは、あの女の人の婚約者なんでしょ? 自分の目で見たら諦めもつくじゃない。」
「はっ、ベルジュラックが処刑されたことは後で俺の口から告げるつもりだった。俺は過剰に彼女を苦しめたくないんだ。」
「でもっ!」
「黙れ。俺の計画を台無しにしたお前にはその身をもって償ってもらおう。」
リオンが剣を振り上げる。
「こ、殺さないで! 稼ぐから! もう邪魔はしないから許して!」
「リオンさま、許してやってください! アネットは孤児なんです。二度と裏切らないよう言い聞かせますので!」
リオンは冷ややかな目で三人を見下ろした。
「サージェスの従者を殺したお前がそれを言うか。身内には甘いのだな。」
リオンは未だに許していない。危険を承知で実の両親のように守ってくれたサージェスの人間を殺したジャンのことを。ジャンはぶるぶると震えながら声も出せずに額を床につけた。
リオンは水平にした剣でアネットの顎を掬い上げた。
「ひっ。」
「お前程度が稼ぐぐらいではなんの足しにもならんな。」
「た、助け……。」
「生きたいか。」
アネットは青ざめた顔でリオンを見た。
リオンはしばし思案して口を開いた。
「誓え。俺とラウリーヌに命を預けろ。お前は『夜の城』の中でも数少ない女だ。彼女の奴隷となって仕えろ。少しでも反抗したりラウリーヌの機嫌を損ねるようなことがあれば指を一本ずつ切り落とす。お前たちもだ。逆らおうなど考えるな。」
「ち、誓います!」
三人とも、ここを出れば生きる術はない。リオンはそれでも怒りが収まらないらしく、剣を振り下ろした。
アネットの額から血が噴き出る。
「きゃああぁっ!」
「ふ、その顔では商売もできないだろう? 顔を切り刻まれたくなければこれからは余計なことをするな。……お前たちの誓いなど信じるに足るものか。」
リオンが部屋を出た後、三人は糸が切れたようにへなへなと座り込んだ。
「ご……ごめんね、アンヌ。ごめん。」
アネットは額を押さえ、目から涙が溢れ出した。
『夜の城』をまとめ上げたジャンとアンヌは孤児のアネットにとって親も同然であったのに、自分の軽はずみな行動のせいで命の危機に陥らせてしまった。それに、あんなに恐ろしいリオンは見たことがなかった。
「……だ、大丈夫よアネット。手当てをしましょう。」
青い顔をした二人の横では、ジャンが感動に打ち震えていた。
(あの迫力、まさに王者の風格。イーヴさまならこの国を変えられる……!)
*
リオンは眠り続けるラウリーヌの側に跪き、手を握った。
その顔は血の気が感じられないほど白く、呼吸をしていなければ生きていないのではないかと思われるほど表情がない。
(ラウリーヌ、公爵は死んだんだ。俺は側にいるから一緒に生きていこう。)




