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きっと、そばに  作者: ミソラ


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バルティ②5

 だんだんと空が濃紺から漆黒へと移り変わり、細い月だけが夜空に浮かんでいる。その月も、度々薄く黒い雲に隠れる。

 

 ベルジュラック公爵邸から王宮は近いが、ラウリーヌの気は逸る。胸の前で祈るように手を合わせて目を閉じる。


(どうか何事もなく。きっと行けばなんでもないようにジョスランが笑顔で迎えてくれるわ。)


 そう思い込もうとしても言いようのない不安が胸に広がる。急にあの夢のジョスランが瞼の裏に甦った。

 黒い鎖に囚われ固く目を閉じているジョスラン。口の端から流れる赤い血が鮮烈に蘇る。

 ラウリーヌは目を開けて頭を振った。


 角を曲がれば王宮の門が見えてくるという場所で、事は起きた。


 馬車を曳いている馬がいななき、がくんと大きな振動と共に止まったと思ったら、外から怒声が聞こえ馬車が倒された。

「つっ……!」


 突然の衝撃にラウリーヌがぶつけた腕を押さえながら頭上にある扉をなんとか開けて様子を見ようとすると、腕を掴まれて引きずり出された。


 驚きのあまり声も出ずにいると、黒い馬に乗り、黒いマントを纏った男がラウリーヌの腕を掴む男を弾き飛ばし、下から掬い上げるようにラウリーヌを抱き上げてそのまま走り出した。


「……やっ、放して!」

「しーっ、静かにしていて。」

「誰よ、どこに行くの!? 私は行かなきゃいけないところが……!」

「もう、まったく気が強いなあ。」


 男は器用に胸元から小さな布を出してラウリーヌの鼻先にかすめさせた。


 急激に眠気に襲われたラウリーヌが最後に見たのは、マントのフードから流れ星のように煌めく一筋の銀色の髪の毛と、楽しげに微笑む口元だった。


 *


 街の灯りも届かない暗闇の中、黒いマントの男は気を失ったラウリーヌを抱き上げ、颯爽と廃墟のような大きな建物の中に入った。


 薄暗くじっとりとした空気の中、ところどころ松明に照らされた廊下を歩いていくと、うずくまっている男や酒盛りをしている男たちから声をかけられる。


「よう、若。獲物かい?」

「えらい別嬪さんだな。高く売れそうだ。」


「これは俺の宝物だ。触れたら手足を切り落とすぞ。」

 男は言葉とは裏腹の美しい笑みを浮かべる。

「それよりお前ら、警戒を怠ると酒を取り上げる。わかったな。」


 『夜の城』と呼ばれる廃墟の最奥にある長い螺旋階段を登り、いくつものランプで照らされた部屋に入った。

 部屋の中は貴族の令嬢が住まうのに相応しく整えられている。男は奥にある天蓋付きのゆったりとしたベッドにラウリーヌを横たえた。


「あーあ、アザになってる。」

 馬車から引きずり出された時にできたであろう腕のアザを見て男は眉間に皺を寄せた。

「手荒な真似はするなと言ってあったのに。このアザをつけた奴は処分しなきゃな。……それに、君に危険な思いをさせるような奴らもね、ラウリーヌ。」


 男は眠るラウリーヌの頬をするりと撫でた。

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