表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
きっと、そばに  作者: ミソラ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/70

ベルジュラック①9

 穏やかな日々が過ぎて行く中、王都に視察に行く日がやってきた。


「あ、ラウリーヌさま。」

 慌てたようにレノーが駆け寄ってくる。

「申し訳ありません、ただいま来客がありまして……。少々お待ちくださいますか?」

「来客……? わかったわ。」


 レノーはそう言うと、踵を返して戻って行った。仕事関係の緊急な要件だろうか。

「ジーナ、庭で待ちましょう。」

「かしこまりました。」


 南部は秋の終わりといっても陽がさすと暖かく、庭では咲き残った秋の薔薇が目を楽しませてくれる。


「その話は終わったはずだ、侯爵。」

 庭に面した応接室からジョスランの低い声が聞こえる。仕事ならば執務室の横にある部屋を使うと思っていたので、ラウリーヌは慌てて身を隠した。


「婚約者には我が娘をと先代公爵に申し入れをしておりましたし、ジョスラン殿とて……。」

(え……?)


 薔薇の植え込みの陰から応接室を見やると、ジョスランと初老の男性、そして若い女性が対峙していた。


「父がどう思っていようと私は断ったはずだ。それをあのような……。私が忌避しないとでも思ったのか。」

「それでもわたくしがあなたの子を身籠ったのは事実です!」


 ラウリーヌの頭が真っ白になり、体がぐらりと揺れ、ジーナに支えられた。


「流産したと聞いた。医師からは媚薬など怪しげな薬の影響もあっただろうと。」

 ジョスランはぎろりと目の前の親子を睨んだ。


「……でも、あなたは責任を取るべきですわ。」

「なんの? 体の動かない私にさらに媚薬を盛り、部屋に侵入してきたことか?」

「先代公爵さまの了承は得ていた!」


 父親が鋭い視線でジョスランを見やる。

「現公爵は私だ。」

 ジョスランの静かながらも圧のある声が響く。

「それに亡き父を侮辱するのは看過できぬ。」


「しかし事実です。マデリンはもう他に嫁ぐことはできない。……あの婚約者殿は子爵家の娘でしょう? 愛妾にでもすればよいではないですか。」


 ジョスランの右手の人差し指がぴくりと動く。

「確かにその方は北部諸侯の縁戚に当たる。父もそのことを考慮していたのだろう。……しかし、私の妻は私が決める。相応の賠償金を支払おう。話はそれで終わりだ。」

「ジョスラン!」

「呼び捨てにする許可を出した覚えはない。」


 マデリンはびくっと体を震わせ、項垂れた。

「わたくしは……、あなたを。」

「聞きたくないな。よければ結婚相手を探してやってもいいだろう。幸い、子が流れたことは知られていない。侯爵家にふさわしい相手を……。」

「公爵!」

「くどい。」

 なおも食い下がる侯爵にジョスランは冷たく言い放った。

「譲歩している。」


 青い顔をした侯爵は娘のマデリンの腕を掴み、優雅さもない早足で部屋を出て行った。


「お疲れ。」

「ラウリーヌを待たせているな。」

「それがさ……。」


 レノーが向けた視線に目を向けると、植え込みの向こうから黄金の髪の毛が煌めいている。

「ごめん、この部屋を使っていると伝え忘れていた。」

 ジョスランは大きくため息をついた。


 *


「ラウリーヌ。」

 ラウリーヌが今にも涙が溢れそうな瞳でジョスランを見上げると、ジョスランの心に庇護欲が溢れる。

 さらりと黄金色の髪の毛を撫でた。


「すまぬ、心配させたか。ジーナもそう睨むな。」


 レノーがそっと怒れるジーナを後ろに下がらせ、二人だけで話ができるように配慮した。

 

 ジョスランは、俯くラウリーヌにゆっくりと話し出した。


「父が私を後継者と決めた後、私は結婚するつもりがなかったのだが、あのように私へ娘を差し向ける貴族は多かった。……あからさまな実力行使に出たのは稀だったが。あの侯爵は父に申し入れたが私に断られ、その上で父の了承を得て既成事実を作ろうとした。

 父の急逝により揉み消したがね。」

「……あなたのお父さまが許したということは、ベルジュラックのためになると判断したからでしょう。」

「北部諸侯であるヴァリエ公爵は王太子派であったから、中立の南部と、という政略的な意味ももちろんあった。しかしそれは私にとって意味のないものだ。」


 ジョスランは髪の毛を撫でていた手を頬に滑らせた。

「私の妻は私が決める。それに、私の子を産むのは君だけだ。」


 まっすぐな視線と思わぬ発言を受けてラウリーヌは頬を赤らめながら、それを見られないように下を向いた。するとジョスランが右手でラウリーヌの手を取った。


「ラウリーヌ、私と結婚してもよいと、決心ができたら言ってくれ。私が愛しているのは君だけだ。誰にも文句を言わせないよう、君を守ると誓う。」

 ラウリーヌの頬に涙が一筋流れた。


「私は……。私が結婚するのはあなたしかいないわ、ジョスラン。」

 ラウリーヌは顔を上げ、わずかに目を見張るジョスランをまっすぐに見た。

 

「あなたが好き……。あなたの隣に立つのに相応しくなると、あなたを守ると誓うわ。」


 ジョスランはぎゅっとラウリーヌの背中を抱き寄せ、二人は唇を合わせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ