その一
献辰時代の時分、雁田村と未野蟆村で出来ている島が有名になった。この二つの村は既に人は居らず、島は家や畑の跡のみになった。では何故この島が有名になったのか。それはこの島に、当時日本を表からも裏からも動かしていた企業が移ったからである。何故移ったか分かったものではないが、巨大な企業であったから、工場等を建てる場所が欲しかったのだろう。しかし更にこの島を有名にした事があった。それはその企業が、一年足らずで潰れてしまった事である。日本がそこまで発展していない時分とはいえ、日本を牛耳る企業がたったの十一ヶ月で潰れてしまうとは考えられない。きっと何か不可解な事があったに違いない、誰しもがそう思った。何が日本一の企業を潰したのか、勇敢《阿呆》な若者数人がその島に乗り込み、確かめようとした。だが結果は散々なものであった。一人は記憶を失い、一人は起きてこず、一人は正気に戻れなかった。残りは皆、帰ってきていない。若者の友人の一人が、自身の住んでいる場所より遠く離れた女を尋ねた。その女は所謂イタコと呼ばれる女である。だがイタコは驚くべき言葉を放った。入れ替われないというのである。イタコが入れ替われない、ということは幾つかの理由が考えられる。一つはまだ生きているということ。一つは呼び寄せられる類の霊になれなかったということ。数日後、そのイタコは亡くなった。
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「お前、今年の正月家来るか?」
大学内の友達である肉亦裕二郎がそう誘ってきた。なんでも毎年正月の時期にお祭りがあるそうだ。しかし奇妙な条件があるという。祭りに参加する際は村外の者を一人誘わねばならないという。誘えなければ、その年に参加する資格がなくなるそうだ。
「マルチとかじゃねぇの?」
「違うって、俺毎年参加してるけどそんなんじゃないよ」
「じゃあ人喰いの村とか」
「俺の村をなんだと思ってんの?まぁ確かに古臭いど田舎村だけど違うよ、怪しい宗教とか変な風習残ってるとかないから」
裕二郎の出身村は酷く田舎であり、村内にコンビニ一つない。隣の家とは田んぼ四つの距離が空いている。そんな閉鎖的な村にあるのは家、田んぼ、多くの老人のみである。学校、病院、役所等は全て別の場所のものを使用しなければならないほどであり、その距離も十キロ以上である。その為なのか裕二郎の苗字も肉亦と聞いたことない苗字であり、読み方もししまたである。全国の苗字辞典やネットで調べてみても出てこないのはおかしいと思ったが、閉鎖的な村ということもあり、まぁ仕方ないのかなと思った。
「まぁ予定ないし、いいよ」
「お、サンキュー!取り敢えず三十一の六時にお前ん家迎え行くわな」
「了解〜、六時な」