93時限目 交錯
「それで、お友達とは上手く話せたの?」
「はいにゃ! ちょっと喧嘩はしちゃったけど、やっぱり自分を見つめ直して、できる事をやろうって」
「ふーん、そっか☆」
視界の開けた大きい草原。いつもの練習スペースにゃ。
昨日の雨はすっかり止んで、今は鮮やかな夕暮れが広がっている。
上野さんとの待ち合わせスペースでもあるそこで、わちは制服に身を包んで座って待っていた。
「…………なるほどね、色々あったみたいね」
「はい。でも上野さんが教えてくれた振り付けとかは無くす気はにゃいですし、本当に感謝してるんにゃ」
「あはは、それはありがとう。でも実際の本番を見れないのは残念ね」
「? 上野さんはその日は忙しいんですか?」
「いえ? 全然。でも招待状がないと入れないんでしょう?」
「あっ、確かに」
そいえばそうだ。カミサンも話してたばかりだと言うのに。
招待状が無いと学校に入ることができない。当たり前のことなのに、練習に夢中で忘れてしまっていた。
「良かったら来ませんか?」
「っ? 良いの?」
「是非是非! 上野さんには凄く助けられましたし! 折角なら本番で踊るところを観てもらいたいですし!」
「わぁ! ありがとう、絶対観に行くね」
「はい!」
バッグの中から招待状を一枚取り出し、上野さんに手渡す。その招待状を見つめて翳している様子の上野さんは、少し考え込むようにして更にわちに問うた。
「…………もし良かったらなんだけど、もうあと三枚無理かな? 私のお店の従業員にも、渡しておきたくて」
「三枚ですか?」
従業員、というのは上野さんが経営している喫茶店のことだろう。お店を休めるつもりなのか、はたまた定休日なのかは分からないが、上野さんの知り合いならば問題はない。
「三枚ですね! はい」
「いきなりでごめんね。でも本当にありがとう。
皆で観に行くよ」
「待ってます!」
無垢な笑顔でわちを見つめる上野さんは、四枚の招待状を小さなバッグにしまった。三人とも女性なのだろうか。それとも上野さんの夫がいたりするのだろうか。出会うのが楽しみだ。
少しした後に、手を叩き空気を切り替える。
「さて、じゃあ最後の練習だけしとこっか★」
「っ、はい!」
「と言っても、これ以上は何もしないんだよね」
「そうですね……。勝手しようとするとミミに怒られ――――――じゃなくて、止められるんで」
「そっかそっか。まぁ三曲とも出来は十分良いし、あともしやるとしたらそうだね…………」
「――――?」
唇に手を当てて考え込む様子の上野さんは、一瞬だけ、狂気の片鱗を纏ったように、笑った。
その一瞬で、わちは電気が走るかのように頭から足の爪先まで悪寒に包まれる。
何か今、されたんにゃ……?
「か、上野さん……?」
「? あぁ、ごめんなさい。つい考え事を」
勘違いや気の所為だろう。そう思った。
「な、なら大丈夫にゃ……」
「――――――よしっ。良い事思いついちゃった★」
「?」
「こっち来て。あ、これ相方のコには内緒ね」
上野さんはそう言うと、わちを手招きして耳打ちする。それは至って単純明快な内容だった。
わちはこれを数秒程度で思いつくことの怖さに、心の底から驚愕した。
「どう? これならもっと面白くなると思うよ?」




