92時限目 本懐
「…………てことで……かなちゃんと話をしてきました……」
おずおずと話す御霊は、またも今にも泣き出しそうな表情でこちらを見ていた。
正直、呆れてしまう。
あれほどまでに自我を出して動いていた娘がまたもこう戻るとは……。本質は変わらないということか。
「……了解。それで、問題になってたことは解決したのか?」
「っ、はい! ちゃんと話し合って、お互い無理しないれようにしようって。――――でも、これまでの部分でもう出来上がってるから、ほぼこれ以上の難しいとこはないんですけど……」
頬をかきつつ情けなく笑う御霊は、尻すぼみになって話す。
実際、俺の眼から見てもそれは同意見ではあった。
手遅れと表現するとかはさておき、三曲あるダンスの中、全てのパートを今の御霊は綺麗にこなすことができている。残りの数日はミスを無くせるようにキレを上げるだけだ。
「つまりは、これ以上は難しく改変する部分は現れないんだな?」
「はい、そう話し合って、受け入れてくれました」
あの気が強いお転婆娘を、よくこの気弱少女が丸め込むことができたな……と思いつつ、頷く。
詳細は分からないが、御霊が相当な努力をしたのだろう。舌戦で桜音祇を打ち負かすほど。
改めて、そういった度胸とメンタルを持ち合わせていることに感心した。
御霊はほんの少し口角を上げて、喜びを漏らしている。衣装も今日中には届くそうだ。本当によく頑張ったと思う。…………と言ってもまだこれからなのだが。
あと懸念すべきことは、一つしかない。
「それで、ゲームの方も順調なのか?」
「ッッッ!!!!」
「ミミ〜! ようやく衣装が届いたんだ――――に゛ゃ゛っ!?!?」
御霊が息を呑んだ瞬間、部室棟の扉が勢いよく開かれる。
2つの驚きで魂が抜けた御霊は、固まってしまった。俺が何故いるのか理解不明な桜音祇は、頭にロード中のマークを浮かべていた。
タイミングが良いのか悪いのか……。
「にゃ、にゃ。にゃんでここにカミサンが!?」
「あー……話すと面倒だな……」
「はぇ……? ぇえ……?」
暫く放心状態の御霊をそっとしておいて、俺はこれまでの経緯を述べた。
御霊に師事を頼まれたこと、部室棟の一室で練習に付き合うこと、桜音祇と上手く行っていないこと、ゲームの存在を知ってしまったこと……。
話し出したら桜音祇は様々な表情をしていたが、総括して後悔の表情を作った。
口にするべきかと迷ったが、御霊の口から言えないこともあると思い喋る。すると、桜音祇は改まって俺へ深々と頭を下げた。
「本当に、すみませんでした。もっと早くわちが相談できてれば、わちが最初からカミサンを頼っていれば……っ」
「いや、それはいい。俺が勝手に始めたことだ。遅かれ早かれ御霊と桜音祇はぶつかってなんとかしてたろうさ」
「でも、それは必ずしもダンスの前とは限らないにゃ。機会をくれて、ありがとうにゃ」
「――――あぁ、そうか」
桜音祇は頭を下げながら、そう言った。
放心していた御霊はようやく平静を取り戻した。俺と桜音祇を交互に見て、ロード中のマークを浮かべる。
――――割愛。
「先生は、ミミ達が文化祭の有志に乗じてゲームをすることを知ってたんですか……?」
「いや? 全く。ゲームやるだなんて知ってたら、もっと上手く本気で立ち回ってたろうさ。
気付いたのも昨日のこと。御霊が出ていった直後に、片付け忘れていた機材が目に入ってな」
部室棟で練習するくらいなら実際の壇上や外でやればいい。だが、そんなものを常に持ち運んでいたら俺にバレてしまうとでも考えたのだろう。
簡易版のものなら部室棟の一室でも事足りる。
音漏れも少なく安心して練習できる場所だ。
俺は目端でその機材を見ると、隠し事がバレた子供のように二人はバツの悪い表情をする。
「別に怒るつもりはない。だが、やるなら万パワーでやれってだけだよ」
「「……はい!!」」
曇り顔の表情は一転、勇気と希望に満ちた顔。
俺としてはこのレベルの奴が二人同時にトップランカーとして入ってくれるのはとてもありがたい話だ。
これ以上指導することはないが、折角面倒を見るのなら、最後までやってやろうと思う。
「音響や照明はアテがあるのか?」
「とりあえず簡単な作業なら咲夜となるっちに頼むつもりにゃ」
「き、機材は校長先生に頼んでたので……」
「あぁ、了解した。衣装も問題ないと来れば、他は無さそうか?」
「あとは……」
「客入りの問題かにゃぁ……」
億劫そうに桜音祇が零す。
俺はあまり音ゲーの部類でダンスをやっていないため、知識が浅い。
桜音祇と御霊がやろうとしているダンスゲームにおいて、改めて説明された。
「一つは絶対評価にゃ。
自分たちで設定したノーツをなぞって精度を競う部分にゃ。これはこれまでやっていた練習で賄える部分で、今ここでの問題は特に無いにゃ」
「ふむ」
「えと、もう一つが相対評価で……。
これはミミ達の行うダンスゲームに対して、『評価』をする人が必要なんです。
『評価』には10段階の良し悪しがあって、それぞれの端末で一人辺り一回だけ回答できるシステムがあるんです。
それぞれの評価点×人数の合計を相対評価として算出されるので、『評価』をしてくれる人数が多ければ多いほどトップを狙える仕組みなんです」
「……要は?」
「たくさん人集めて完璧なダンスをすれば良いってワケにゃ!!!」
雑にまとめたなぁ…………。
言っていることは正しいとして、概ね二人の説明で理解ができた。
足元ばかり見ている稚拙なモノだけじゃ、上は目指せず、どれだけ人気者であっても既存の技術だけではゲームの趣旨には叶っていないらしい。
「てことは集客力が大事になってくる訳か……。確かにそこは難しいな」
「特に、外部の人が来ると言っても知り合い未満の人は来ないんです」
「招待状さえにゃければ……」
いかに大きな学校と言えど、ドームを埋め尽くすほどの人数は集められないし、そもそもそんなに来てしまえば御霊が泡吹いて死ぬ。
「そこは少し考えないとな……」
苦い顔で、そちらの担当を請け負った。




