88時限目 回顧
「ここっす」
雷斗が案内してくれた部室棟、の更に端の端にあたる部屋。半開きになっていた扉からこっそりと覗き見て神サマがいることを視認する。
小生と雷斗氏は隠れてみているが、世羅さんだけは部屋の中にすーっと入っていき、中の様子を覗いていった。
「神サマ以外に誰かいるのか……?」
「なんか女の子がいたよ」
僅かに見える様子は、白銀髪色の女子生徒がダンスのような何かを練習しているようだった。
「あれはミミさんっす。御霊美麗、同じ遊戯の生徒で、有志のダンスの練習らしいっすよ」
「ダンスの練習……。でも、神サマが付き合ってるのは……?」
「さぁ……そればっかりはよくわからないんすよね……」
悩んだ末に結論が出なかったのか、雷斗氏は困った顔をしていた。
どうやら神サマは隠れて練習に付き合っているらしく、雷斗氏にもこのことは伝えていないそう。
何か隠さないといけない理由でもあるのだろうか。
「ただいまー。あのコ、超可愛い」
「…………」
一通り中の様子を見て満足したのか、世羅さんは帰ってきた。満足げな顔で御霊氏のことを教えてくれる。こくこくと頷いておく。
頃合いを見て偶然を装い話しかけに行きたいのだが……やはりタイミングを迷う始末。雷斗氏は楽しそうに中の様子を見つめながら、中の二人に聞こえないように喋り出す。
「ミミさんはオレらと一緒の遊戯の履修者っすけど、あんまり成績が伸びなくて。奏さんと一緒にダンスゲームでトップランカーを目指そうとしてるんす。あぁ、これは先生には内緒っすよ?」
「……ランカーって、ゲームのトップにってこと?」
「はい。オレの他にもゲームのランキング上位者は割と増えてるんすよ。オレの友人たちとか、赤い髪の鬼灯さんとか」
全く以て知らなかった。見知ったゲームしかやらないため、不慣れなジャンルのランカーなんて見ることもなかったからだ。
言われて調べると、いくつかのゲームに名前が連なっているのが見て取れた。
「す、すご」
「星夜はどうなんすか? 夏休みに先に会ってたってことは、もしかして何かあったり?」
「小生は――――」
ホラーゲームを強制参加させられたが、あれは順位も何もないまま有耶無耶になってしまっていた。改めて、あれの結末を思い出すと、つい世羅さんの顔を見てしまう。
「……?」
世羅さんは何も関係ないというのに、アバターが本人と酷似していたというだけで、トラウマを植え付けられていた。思考を振り払って、質問に答える。
「小生はまだまだです。神サマに何も教えてもらってない身ですし、それに何より、これから楽しみたいので」
「……なるほど。応援してるっす♪」
雷斗氏は穏やかな眼で、そう言ってくれた。
このヒトだって神サマから教わったのだろう。扉の奥にいる御霊氏だって、現在進行形で教わっている最中だ。遠目で見たってキレの良いダンスで十二分にトップを目指せる技量を培っていると思う。
「今のとこ、もう少し早くできたりするか? 足を踏み出すのが音に対して遅れてる」
「わ、わかりました……!」
「ダンスは上手くできるようになってるが、やっぱり桜音祇と話し合いをしないとな……」
「ぅ、うぅ……」
中で何を話しているのかは少し聞きづらいが、神サマは真摯に生徒に向き合っていた。小生のときだってほぼ毎日、メンタルケアに来てくれていたのだ。ここまで良い教師なんていただろうか。
そんなことを考えつつ、いつ行こうかと決めあぐねていると、部屋の中から「ぴゃっ……!?」とおかしな声が聞こえた。直後に、「あ、まずった……」と雷斗氏が小さく呟く。
「? 何が?」
「いやぁ……あのー。バレちまって」
「誰かいるのか? ――――――――って、雷斗と星夜じゃないか」
足音が近づいてきて、扉が開かれる。
聞きなじみのある声、怪訝な様相で小生と雷斗氏を見ていた。
雷斗氏は「あはは……」と笑ってごまかそうとしている。
「どうしたんだ? 俺に何か用か?」
「一応……そうなんですけどー……。今時間大丈夫そうですか?」
「少しなら大丈夫だが……ちょっとコイツの練習に付き合っててな。因みにこのことは他言無用な」
「えーカミドー先生が女子生徒と密会してることっすか?」
「だ~か~らぁッ」
どうやら他の生徒にはバレるとまずいらしい。
呆れたように指摘しつつ、神サマも笑って流していた。良いな、こういう関係。
奥では女子生徒が縮こまっている。部外者二人(一応三人だが)が居ればそれもそうだろう。
まぁ体裁は当然ながら守るべきだから、言われたことは遵守するつもりだ。
「二人して出し物の準備を逃げてきてのか?」
「人聞きが悪いっす! そうっすけど!!」
「小生は少し話があって」
「――――ここでいいか?」
神サマを見つめる。神サマは雷斗氏を一瞥すると、瞬時に何かを察したようで御霊氏と雷斗氏を部屋から追い出して小生のみを部屋にあげてくれた。
当然ながら、世羅さんも部屋に入ってくる。軽く背中を押してくれた雷斗氏に感謝しつつ、御霊氏に少し謝って神サマに相談した。
「世羅賽花さんの件で、聞きたいことが」
「……なんで今更?」
「それは…………」
とても毅然とした表情で聞いてくる神サマに対して、動機を聞かれしどろもどろになる。幽霊になった世羅さんが今隣に居て~なんて絶対言える訳がない。そもそも言ったとて信じてもらえる訳がない。
しばし黙っていると、世羅さんが口を開き始めた。
「サイカが、お母さんを殺してから死ぬまでの四か月、何をしていたのか知りたいの」
神サマには当然聞こえていない。
伝えて、と告げられそのまま小生が届ける。
「四か月? いや、まぁ確かに……その四か月の記録は何もないが……」
「部屋の中の何かが消えてたりしなかった? 本来あるはずのものとか、お父さんの何かが増えてたりは?」
「部屋のモノ……? 元が分からないからどうしようもないからなぁ……」
「じゃあ、今あそこの家の鍵はどこにあるの?」
「鍵? それは今警察が保管してると思うぞ。そもそも今は雨だし。にしても、なんでそんなこと――――今から家にあがるのは無理だろうから、諦めな」
「じゃ、じゃあ!! 部屋に入った時に何か変なことはなかったの!?」
「変なこと――――」
その言葉に、神サマはぴくりと眉を揺らした。
世羅さんと目を合わせ、何かがあることを推察する。
「何があったんですか?」
「いや、これは……言っても信じられないことだろうが」
「「大丈夫です!」」
聞こえてもないのに世羅さんまでもが大声を張る。
信じられない度合いで言うならこちらの方が大勝してる。
酷く悩んだ末に、神サマはことの全容を伝えてくれた。
「靴が、いつの間にか一つ増えてた……?」
「あぁ、見間違いだと思うし、あとから警察が確認したがそんな靴はなかったと言われたから、本当に見間違いだと思うが……」
怪し気に話す神サマ。だが、それを疑うべくもなく小生たちは信用していた。
神サマが赴いた日は、八月の十日。小生がゲームに入った日は八月の九日。
ゲームに関与していたのは九日から十一日の三日間なのだ。
そして、更に世羅さんの死亡推定日は八月の八日。
つまるところ、その日――――八月九日は世羅宅に出入りする者は誰もいないはずなのだ。
「父親ではないのは分かっている。だが、もしその他に誰かいたとしたらそれは――――」
四か月の間に世羅賽花に接触した誰か、ということだ。
「今更俺はそれらを深追いしようだなんて気はない。死体の墓を掘って何になるって話だ。だから、俺は関与しない。話せることはこれで全部だ。もし何か知りたいのなら――――自分の眼で確かめろ」




