82時限目 言霊
時は少し遡る。
「OKぐー〇る、ここって異世界?」
「違うよ?」
小生が復学する直前の日の出来事。夕飯を食べて部屋に戻ると気が付いたらなんかいた。
フラッシュバックする惨殺の記憶。
思い出すだけで吐きかけたのを、ギリギリのところで止めた。
「サイカのことを見た瞬間に吐きかけるのってなかなか酷い性格してない?」
「いやいや。もちつけって」
「餅?」
軽い冗句を一つも受け流してくれず、長らくの間状況の理解に苦しんだ。
なんか浮いてるし、なんか不法侵入してるし。そもそも死んだはずだし。
「死んだよね?」
「わおド直球」
聞いた限りの話では躁鬱と聞いていたのだが……実際見てみると微塵もそんな気配がない。楽観的な女子高生だった。これが本当に躁鬱で、親殺しをした――――小生を殺した女子高生なのか……?
聞きたいことは山ほどあるが、全く以て答える気がない様子。
SFの世界観かよ。と言いたくなるが、まごうことなきこの現実に理解を追い付かせるのに必死だった。
「いきなり問い詰めるって……サイカたち初対面なのに」
「――――っ?」
初対面。という言葉に引っかかる。小生を殺した人と同一人物だと思っていた解釈が、また覆される。
小生は遺体はこの眼で見た。つまりはその時には世羅賽花は小生のことを視認していなかったのだ。
謎が深まるばかりの出来事に混乱していると、今度は世羅賽花の方から質問が飛んできた。
「君が一番最初だから、名前聞かせて? あとなんでサイカのこと見えるのか。なんでサイカのこと知ってるのか」
「えぇ……」
逆に質問攻めにあい、本来の就寝時間をとっくに過ぎて、その日は幽霊少女を部屋にあげたまま、寝た。
♪♪♪
そして、学校についてきていた。
隣で小言を喋りながら今もふわふわ浮いている。
周囲の生徒には全く見えていないようだった。カミサマにも真正面から話しかけてみたものの、やはり無返答。見えていないようだ。
「なんで小生だけ……」
「なんでだろうね?」
動機も目的も不明なまま、付き纏われてる恐怖。
ものに触れることはできず、食欲も湧かないらしい。
小生としてはいつまた殺されるかはわかったものじゃないから、内心気が気でならない。あと女子だし。
逆に、この幽霊少女のおかげでコミュニケーションのリハビリにはなっているのだが、リスクとリターンがバグっている。
小生は改めて、目的を聞く。
「なんでって言われても……サイカにもあんまり分かってないよ?」
「何かやり残したこととかはないの?」
「やり残しかぁ……特にはないけど―――――あ」
「?」
素っ頓狂な声で何かを思い出した様子だが、やはりまた唸るような声で渋い顔を作る。
「何かを取り戻さないといけなかったんだけど……」
「何かって? 取り戻す?」
「うーん……何だったか忘れちゃった★」
「元も子もねぇ」
会話を試みることのできる相手は小生のみだから、しばらくは付き纏うことは確定しているらしい。背中を刺されることはないのだが、それでも恐怖には変わりない。
廊下で空虚に話しかけている不審者になっているが、もうそんなことはお構いなしだった。
「とりあえずそれ見つけてジョーブズしてくれ」
「だからなんでジョーブズ?」
「あぁクソこれだからもう」
少なくとも、それを見つけるまでは一緒にいるらしい。
♪♪♪
「で、何なの? 噛ませ犬」
「辛辣な返しですね☆ わたしに負けておいて☆」
「話すことがないならすぐに戻るけど。アンタに構ってる暇はないの」
つくづく癇に障る話し方をする金剛に、私は怒りを収めて上に出る。
今更ながら何を話すことがあるというのだろうか。
「話すことは特にないのですが、このままの現状で満足しているようではあなたは恐らく、凄惨な未来を迎えるので警告をと☆」
「凄惨な未来? 飛んだ妄言で気を引こうとしてるならもう少しマシな言葉を選んだら?」
「あははははは☆ あなた自身が一番気付いてきているでしょうに☆」
一体何を言っているのかまるで分らない。こんな中二病患者と話している暇なんてないというのに。
少なくとも、眼前のコイツよりはマシな戦績だろう。
「私はチェスなら誰にだって負けるつもりはないし、他にも最近は成長して――――」
「そうやって慢心してるから、わたしに呆気なく倒されたんでしょう☆?」
いちいち私を苛立たせる言葉を。
「そういうアンタはマシな戦績でも残してるの? 結局期末では負けた癖に」
「わたしの得意は技術ではなく駆け引きなので☆ またその時にお見せしますよ☆」
「あぁそう。見る気はないけど勝手にしたらどう?」
「やはり随分と嫌われているようだ☆」
「逆に、あんなことしておいて好感を持たれてると思ってるのならとんだ気狂いよ」
「貪欲な勝利を潔く褒めてくれれば良いだけなのに☆」
「アンタと話してると頭が痛くなってくる」
額に手を当て疲れ切った様子を作る。そんなことなぞまるで気にしていないと言わんばかりに、道化のような笑みを作っていた。
溜め息を吐いて、両隣に抱えている女子二人に視線を移す。
「で、なんで貴女たちはこんなナルシストに付いてるの?」
「「?」」
「期末で一緒に居て痛い目を見たのに、なんで一緒にいるか聞いてるの」
「あー」「そんなこと」
銀杏こよりとてまり。顔がそっくりな双子だ。
期末の前から金剛とつるんでいる様子が度々伺えた。
二人はさも当然と言った顔で私の質問に答える。
「「なんとなく」」
「……は?」
「誰でも良かったんだよねぇ」「まぁ私たちより強ければって条件だけど」
「コイツが……強い?」
「あぁめっちゃ疑ってるぅ」「ホントだよ。期末負けたけど」
「耳が痛いですね☆」
純粋そうな瞳で返す少女たちに困惑してしまう。
言いたいことだけ言えたのか、少女たちは「もういこー」と勝手宣って去っていった。




