81時限目 奇縁
文化祭の準備が始まって数日。俺はどこも行く宛がなく校内を歩き回っていた。
学生には俺が遊戯の教師であることがバレているため、人目についてもさほど問題にはならないそう。
あくびをしながら廊下から見える各教室の風景を見ていると、見覚えのある生徒たちが目に留まった。
立ち止まって見ていると、すぐにも向こうの方から声をかけてきた。
窓越しに顔を出してきたリルクが、軽快な挨拶をする。
「あ、先生」
「どうしタんですカ?」
「リルク達じゃねぇか。お前たちこそ、五人で何してるんだ?」
中の様子を見てみる。置かれていたのは――――ドラムにギターにベースにマイク。
おおよそ教室にあるべきではない物たちがそろい踏みだった。
軽音楽部かここは。
しかも見た所、教室の中にいたメンバーは既視感のある五人だ。期末試験でグループにした館石や風岡。後方ではチューニングを行っている甲と橘がいた。
「お前ら、もしかして」
「そうでス! ワタシたち文化祭でバンド組むんですヨ!!」
「あはは……なんとなく、成り行きで」
「俺は不本意なんだが」「それを言うなら私もよ!」
小言をぶつくさ言っていた二人だったが、リルクの豪胆さに負けたのだろう。
渋い表情を向けているも意に介さないリルクの笑みたるや。
なんだかんだ仲が良くなって結構だ。普段ならば絡むことのない五人だったろうから、結果的に良いことだろう。
教室の中に入って様子を見てみる。防音室だったということもあり、確かにここなら練習にはうってつけだった。
「ドラムは甲で、ベースが館石か。なんか印象通りだな」
「僕は前ドラムやったことがあったから……」
甲が少し照れた様子で返す。周囲の調和を保つ甲は口数の少ないの印象があった。
会話の機会が少なかったため、こうしてバンドをやるというのは意外性がある。
加えて、館石のベースというのはなんというか……予想通りすぎた。
荘厳な雰囲気が合っているような気がしている。あくまでバンドをやる上で、の話だが。
冷静に感想を述べていると、傍で目に映ったのはギターが二つとマイクが二つ。
五人ならば通常、ギターが二つでマイクは一つ。その他ドラムとベースという風潮がある。それゆえマイクは一つで充分じゃないかと思っていたが――――
それを言うより先に、風岡から俺へ言葉が飛んできた。
「せっかくなんで先生からも一言言ってください」
「……?」
「いやいヤ。ボーカルはやっぱリ二人欲しいですヨ!」
「だから私はやらないの! 恥ずかしいし……」
「ええと、実は…………」
橘の説明によると、リルクは始め一人でボーカルを行う予定だったのだが、急遽二人にしたいとのこと。もともとギターの予定だった風岡をギターボーカルとして立てようとしており、風岡は反対中らしい。
因みに橘はギターのみで歌う気がないらしい。「男声は二人も要らないでしょ」とのこと。
「そもそモ! 皆ワタシに楽器持たせてくれないじゃないですカ!」
「「「「それは弾けないからでしょ」」」」
「ウワ~ん! 先生~!!」
「ド正論過ぎて何も言えねぇ」
付け焼刃程度で楽器が弾けるとは到底思えない。リルクは中性的な声ということもあり、ボーカルに抜擢されるのは妥当だと思う。
擁護のしようもない発言で俺に泣き縋るリルクだったが、どうにか引っぺがして肩に手を置いた。
「諦めろ」
「Ooh......no......」
「リルクがついに母国調に!」
「コイツ英語圏だったの?」「さぁ」
リルクはそそくさとマイクを軽音部に返しに行っていた。背中が悲壮を訴えていた。
リルクが去り、四人があっさりした雰囲気で練習に取り掛かる。
なんだかこいつら、仲が良いのか悪いのか……。
「何弾くんだ?」
「流行りの曲を二、三曲ほど」
「おおぉ」
舞台の上で弾いている姿が容易に想像できる。
うん、やっばリルクはセンターでボーカルだ。
顎に手を当てて妄想に耽っていると、チューニングが終わったようで練習を始めようとしていた。
「先生は楽器やるんですか?」
「あー、まぁ少しは。文化祭でバンドやってたそうだし」
「「「……?」」」
「てことハ!? 先生も何か弾けるんですカ!?」
「あー……まぁ譜面さえあれば?」
速攻で戻ってきたリルクと風岡が驚いた顔を見せている中、他の三人は少し引っかかるような顔をしていた。
俺は無視して、輝くリルクの目から視線を外す。
「じゃア何かの間違イで本番に助けてもらウことは……??!」
「ない」
「エェ……」
ただでさえ人目についたら問題だというのに壇上に上げられるわけがない。
裏方としての助力ならできると伝えると、皆は喜んだ表情で信頼の目を向けてくれた。
♪♪♪
「はぁぁ……暇だ」
「だねぇ」
廊下を歩いて手当たり次第に目に飛び込むオブジェクトを眺める。
普段ならば自分のクラスの出し物を手伝わないといけないのだろうが、出し物の手伝いの班分けに入れられておらず、周囲の人間も(どうしよう……)みたいな雰囲気を醸し出していたから、つい抜け出してきてしまった。
「ま、小生に労働は早すぎるからこうしてぶらついてるだけで結構でさ」
「そう言って、次はどこ行くの?」
小生こと葛星夜は行く宛もなく歩いていた。
先生と五人ほど集まっていた生徒たちが見える。バンドかな。
さっきは赤髪の女子が三人くらいに集られてるのも見たけど……まぁあれは関わらない方がいいか。
――――で、問題はそれじゃないんだけど。
嘆息を吐いて、眉間に皺が寄っていたのを露骨に示し、ゆっくりと瞳を開ける。
多分嘘じゃないし、これは現実なのだろう。
またゲームの中に閉じ込められているのなら、まだゲームの中に閉じ込められているのなら、いっそどれだけ安堵したことか分からない。
ただ、やはり視界に入り無垢な表情をしているこの人は、誰の目にも映っていないようだ。目に映っているのなら、こんなふわふわ浮いてる状態の人間を見逃すはずがない。
「なんでいるんですか。世羅 賽花さん」
彼女の瞳を捉えて、小生は質問をした。




