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天才様の唯物論  作者: 上海X
御伽奏子と譜祇遊戯
84/116

80時限目 思案

「やっぱりこの曲にせんか?!」

『っ! で、でも‼ これだと踊るのもっと難しくなるよ……?』


 通話相手がとても怯えた様子で。けれど自分の意思は曲げずに主張を突っぱねる。

 体勢を変えて、寝っ転がりながらスマホを側に置いた。タブレットで色々な曲を調べる。

 やはり夏ごろの夜はルームウェアで涼むに限るにゃ。


『か、かなちゃん。本当に先生に言わないの……?』

「んにゃぁ。やっぱりこういうのは隠れて自慢したいんにゃあ。ミミはどうにゃ?」


 わち――――桜音祇おとぎ かなでは通話相手で幼馴染の御霊みたま 美麗みれいに向かって、少し誇らしげにそう言い切った。

 文化祭で有志発表として出場することが決定して、わちとミミ(「ミ」タマ 「ミ」レイでミミだそうだ)でダンスをすることにした。

 ダンスと言っても普通のダンスではない。ゲームセンターなどにあるパネルを踏んで遊ぶ、いわゆる踏みゲーの機材を使った大仰なものだ。

 ゲームの一環としてそれを使い、ランキングで高い評価を出そうという試みである。


『み、ミミは先生に教えてもらうのが一番だと思う……よ……?』

「ぬーん……」


 ミミの冷静な判断に少し渋面を作ってしまう。その唸り声にまたも怯えた様子で言葉を綴っていた。

 当然ながらわちとミミは遊戯クラスの一員。期末試験は咲夜たちと一緒に戦って、悪くない戦績を残している。わちは【共感覚】、ミミは【スコープ】だ。

 咲夜やその彼氏と友人とは仲が良く、割と友好な関係である。期末試験終わりにも、まとまってカラオケに行っていた。

 だからこそ、わちとミミは遊戯の生徒としては少し劣っているのを自覚していた。


「咲夜や彼氏どもは直々に先生に教えを受けてる生徒たち――――カミサン組にゃ。それらと一緒にいるのに、違う括り(劣等生)にされてるのは嫌じゃにゃいか?」

『それは分かるけども……。上位入りなんて、ミミたちじゃ流石に知識ゼロからだとキツイよ……』


 この音ゲーでわち等の実力を見せつけてやろうと思ったのだが、ミミはあまり現実的には考えれていない様子。

 かくいうわちも音ゲーは少し齧った程度。上位入りには程遠い成績。

 けど、わちは拳を掲げ改めて通話相手のミミに意気込んで話す。


「だからこそこ色々細部まで練って一泡吹かせるんじゃにゃいか!」

『うぅ……』


 か細い声が聞こえる。ミミが渋面を作っているのが容易に想像できる。

 そして今は選曲中。難易度の高そうな曲を選んで一世を風靡しようという曲と、安全でミスの少なさそうな曲とで対立していた。

 音ゲーの評価は技巧による絶対評価と観客に依る相対評価の二つがある。観客は多ければ多いほど評価が上がるため、文化祭はうってつけだ。ダンスとして名目を立てて機会をもらえるのだから、当然それらを完遂せねばならない。


「その日のために校長にこっそり言って機材を用意してもらってるんだから、やっぱりこっちにするべきにゃ!」

『えぇぇ~…………』


 あまり折れたくはない様子だったが、ミミはわちの熱弁で最終的に折れてくれた。

 ミミは乗り気ではなくなったようだが、その分色々とわちが頑張らねばならない。

 振り付けを考える時間や練習時間をたっぷり用意しているため、カミサンにバレないようにしつつ、どうにかしよう。


『ミミ達のアーツはどうにか使えないかな……?』

「ぬーん……。わちの【共感覚】は使えても、ミミの【スコープ】はにゃあ……」

『うぅ…………。どうにか使えたら良いんだけど』

「まぁそこまで無理しにゃくてええ。わちがどうにかしてやるにゃ!」


 その発言に、遅れて返事が返ってくる。【共感覚】の使いどころはおいおい考えるとしても、【スコープ】はたかだかスコアの表示程度だ。使う必要がない。

 選曲も済んだとこで、その日の通話は終了した。



 ♪♪♪♪♪



「なるほどなるほど。かなでんもまた難しいの選んだねぇ~」


 翌日、いつもの様子で教室で固まって昼食を摂っていると、咲夜からそんな言葉が飛んできた。

 パンを一口かじりつつ、ジト目で咲夜の方を見やる。

 わちの隣には勿論、ミミがいた。


「咲夜は上位に食い込んでるから言えるんだにゃあ」

「えぇ~。あれはたまたまやりこんでたゲームに良いパートナーが見つかっただけだよ。ね♪ レーくん」

「…………? うん?」


 咲夜の彼氏が、会話の中身も知らずに肯定を示す。この彼氏、咲夜と付き合うまでは堅物な雰囲気を醸し出していたくせに、いざ付き合うとただただ咲夜に甘いだけのスパダリみたいになっていた。その証拠に付き合って以降、咲夜は男装を止めている。

 そして隣でそれの友人が「あはは~」と笑いこけている。その友人も、最近はトップランカーの集団に入って猛威を奮っているそうだ。噂では最近そのクランは他のクランに潰されかかっていると聞いたが……本人は無関心の様子。

 ――――――控えめに言ってこの三人は化け物。並みの高校生でここまでの戦績を出せることは滅多にない。


「ウチのクラスの生徒だって上位入りしてるのはすくにゃいってのに……」

「で、でも! それほど凄いってことだし! 先生の教え方も上手かったんだよね……?」

「「「あー……」」」


 ミミの尊敬の籠った言葉に、三人は目を泳がせて言葉を濁す。

 まるで尊敬の念が籠っていない。本当に師事していたのだろうか。

 それも含めて、わちはカミサンに教鞭をとってもらうのに訝しんでいた。

 すると、焦ったように三人は口を開けた。


「ま、まぁ……? あの人自体の性格はアレっすけど。良い指南役は紹介してもらえるっすよ」

「うんうんうん! 修学旅行で会ったあの満弦さんみたいなね!」

「少なくともまともな師範ではないのは認めるけど」

「めっちゃ庇うにゃんね」


 冷や汗を垂らして最低限の顔を立てている様子に、余計に疑念が湧く。

 あの人の考えていることは分からにゃいが、技量は確かだそうだ。

 ミミは興味深そうに聞いていたが、結局は教師には向いていなさそうな人間ということは感じ取れた。

 嘆息交じりに感想を述べる。


「それにゃらわち等は個人でやるにゃ」

「えっ……。でもそれだと…………」

「大丈夫にゃ~! 作戦は十分! あとは有志の会場にどれだけ人が集まるか次第にゃ!」


 ミミに近づき、改めて意気込んで決意を見せる。

 それにたじろいではいたが、口を噤んでこくりと頷いてくれた。


「――――あっ。聞いた話じゃ剣道部と弓道部の主将コンビがブラスバンドの一員として有志をやるらしいっすよ」

「「「……!?」」」


 その言葉に、思わず驚きを見せてしまう。

 確か名前は館石と風岡と言っただろうか。校内で噂になるほど犬猿の仲が何故。

 それを説明してくれたのが、咲夜の彼の方だった。


「なんか期末試験でグループになった残りの三人に誘われて、館石がベース。風岡さんとリルクがボーカルで。残り二人がドラムとギターだそうで」

「よくやるよな」

「凄い凄い! え、絶対見に行こ!」

「だからわち等は出場するからあんまり見れにゃいんだって」


 眼を輝かせて誘ってくる咲夜に対して、冷静に断りを入れる。ミミも困った顔をしていた。

 その反応に少し残念がっていた様子だったが、彼氏が行くと言ったことで再度ウキウキになっていた。にゃんだコイツら。


「じゃあ一層負けないようにしないとね!」

「う、うん……!」


 それから、わちとミミの練習が始まった。




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