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天才様の唯物論  作者: 上海X
夏之御霊と■■遊戯
80/116

77時限目 夏之御霊と幽覧遊戯

 世羅賽花は、遺体で見つかった。


「家の中に地下室への扉があったそうで、その中で遺体として見つかったらしい」

「…………そう、ですか」


 なんとなく嫌な予感はしていた。

 母親が亡くなっているため、薄々本人もそうではないかと、感じていた。

 水瀬校長から聞いた話では、母親は亡くなってから数か月が経過しており、遺体が腐敗していたらしい。だが、賽花の方は、亡くなってからそんなに日数が経っていなかったそうだ。包丁で自身の喉元を刺したらしい。


「原因は父方の失踪。それによる鬱病の悪化と、悪化によって招かれた事件だそうだ」


 近隣住民から聞いた話では、家庭内でのDVが激しく問題となっていたらしい。

 賽花はそれに耐えられず、父親の失踪がトリガーとなって母親を――――。

 母親の死亡時期は推測は困難らしいが、少なくとも鬱病の診断書を発行していた時は存命だったため、四か月以内の犯行だそうだ。

 本人は、死して一日か二日と言ったところらしい。


「一日か、二日…………」


 ちょうど、おかしな声や通話が来ていた日と合致する。

 まさか、な…………。


 もしあれが、世羅賽花だとしたら。俺は何かできただろうか。

 もっと早く彼女に意識を割いていれば、どうにかなったのだろうか。

 分からない。今更どれだけ思案しても、亡くなってしまったことは覆せない。

 生きているときに手を差し伸べないと、手遅れになってしまうのだ。


「あいつには、手を差し伸べてくれる人が――――」

「…………」


 拳をきゅっと握りしめ、歯噛みする。

 校長も俺に背を向けて、天を仰いでいた。

 生徒が死んだのだ。もう一生話すことはできない。もう一生、笑顔を見ることができない。幻想じゃない、仮想でない。

 紛れもない、現実の出来事だ。


「――――このことは」

「…………もちろん、今は他言無用だ。然るべき場所で、然るべき時に、僕の口から生徒と教員に言わせてもらう」


 冷静に、目元を腫らした沈着な表情で、水瀬校長は告げた。

 思うところは校長の方こそあるだろう。俺みたいなのよりも、ずっと。

 俺が落ち込んでいる様子を見ると、校長は別の話題に切り替えた。


「そいえば、葛星夜の件はどうだい」

「あぁ……あいつですか。あいつはあいつで、また塞ぎこんでます。今は家や保健室で少しメンタルの回復中です」


 あの一件以来、また引きこもってしまうようになった。

 俺が殺されてから、()()があって恐慌状態に陥り、強制的にゲーム世界から追い出されたみたいだ。これまでのネット中毒者のようではなく、死に怯えるようになって、刃物を見ると錯乱するようになってしまったらしい。

 外傷は見当たらないが、メンタルが酷くやられているようだったため、毎日俺が葛の家に訪れてケアを行っている。


 それとは別に、水瀬校長はふむ、と顎に手を当てて考え込んだ様子を見せていた。

 ディスプレイを見て頭を悩ませている。


「実は君が殺された後、誰かと話している様子がゲームの中に写っていてね」

「……? 誰かって?」

「それが……わからないんだよ。何も写っていない」

「……???」


 言っていることが良く分からず、疑問符を浮かべる。席を発って、校長の見ていたディスプレイの方へと向かい画面を見ると、そこには葛が写っていた。

 血で染まった身体。まさしく俺と相対していた時と同じ様相だ。

 時系列的には俺を殺した後らしい。急になにかとぶつかって、転んでいた。

 そして、早送りをしていると、急に刃物が葛の手首を切り裂いているのが見て取れた。

 本来、観客視点から見ると本人には見えていないプレイヤーは映るようになっている。が、それがなされていないのだ。


「っ」

「凄惨な現場だろう。だが、本題はここからだ」


 手首が切り落とされて、足がもがれて、次は肩が。

 最期は首が。


 血が過剰なまでに流れ落ちている。そして、殺されれば下の階層に移されるルールのもとだったというのに、葛は現実に戻されたらしい。

 しかもゲームの運営に問うたところ、一個人をゲーム内から追い出したという履歴は一切ないそうだ。


「――――これはちょっと、調べる必要がありそうだな」





 □□□□□



 扉をノックすると、「いいですよ」と安らかな声が聞こえてきた。


「入るぞ~」

「神サマ。また来てくれたんですか?」

「あー。あんな目に合わせちまったからな。俺だって負い目があるんだよ」


 申し訳なさそうにしていると、「頭上げてください!」と堰を切ったように星夜が声をかけてくる。

 今は学校の保健室で体調を見てもらった後らしい。星夜自身が「今は人がいないとこがいいです」と言ったため、病院ではなく夏休みの保健室ということになったのだ。


「にしても、保健室で良かったのか? ほら、学校が嫌だったとかなら――――」

「いいですよ。今はそんなこと全く気にしてないです。それより、小生の方こそ謝らないといけないのに……」


 翳りを見せて、暗い表情を作る。あの時星夜が俺のことを刺し殺したことについて、謝罪してきた。出会う度にこうして互いに悼み合っている。まぁ、しばらくはそういった関係が続くだろう。


「こんな状況で聞くのも悪いが……二つだけ聞いてもいいか?」

「なんでそんなシケた口調なんですか。いつもテレビで見てるサマとは結構違ったりするんですか?」

「ちげぇよ…………。そんだけ軽口言ってられるなら、訊いても構わなさそうだな」

「はい、小生に答えられることなら、なんでも」


 軽口を言うほどには回復してきたのだろう。互いに笑みを浮かべた状態で、俺は最後の形のない敵について質問した。その瞬間、一度は息を詰まらせた様子の星夜だったが、深呼吸して呼吸を整えた後、ゆっくりながら答えてくれた。


「あれは、少なくともプレイヤーじゃないと思います」

「――――――ッ」


 分かりきっていた予想が、悲しくも当たってしまう。

 プレイヤーでも、NPCでもない存在で、運営すら把握していない化け物。


「見た目は……人形みたいに整った顔とまっ白な肌色で、栗色? 茶色? みたいな長い髪でポニーテールでした」

「白い肌で…………茶色の、ポニーテール?」

「はい」

「ほ、他に特徴は?」

「どっかの高校のブレザー着てましたよ」


 …………いや、それはおかしい。おかしいんだ。


「……その女性の、名前は?」

「名前ですか? そいえば……聞いてないや」


 名前を名乗らぬ、誰かに似た、プレイヤーにしか見えない化け物。

 人形ばかりの部屋で、ゲームの主題が――――『メリーさん』

 背筋が凍る。震える。いや、そんなはずはない。もしそれが――――だとしたら。

 そんなファンタジーみたいなことはあり得ない。


「あの人がゲームの概要を教えてくれて、最後に小生を……」

「…………そいつは、最後に何か言ってなかったか?」

「? 何かですか? ……うーんそいえば言ってたかも」

「――――なんて?」

「『傲慢だね。生きている癖に』って」



 ……まるで、自分が死んでいるかのような。死んだ後に生霊として出てきたかのような。

 焦って俺は星夜を外に連れだし、タクシーを使って葬儀場の方へと向かった。


「ちょっ!? 神サマ!? いきなりなんですか――――」

「星夜。お前が見たのって…………この娘か」

「いきなり何言って――――――――ッ‼」



 ご都合主義と言えばいい。自分勝手と言えばいい。

 けど、こんなところでこの二人と同時に会うだなんて。

 この二人が、俺が知るよりも先に出会っていただなんて。


「――――そうです。この女性です」


 自然と涙が伝う。

 ある意味で、星夜を助けてくれた人。

 ある意味で、星夜を殺してくれた人。

 俺が助けられなかった人で、奇しくも、あのゲームに参加していた人。



「お前の教師で、ありたかったよ」


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