表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天才様の唯物論  作者: 上海X
夏之御霊と■■遊戯
78/116

75時限目 星月夜の景色

 ¿¿¿¿¿


「おいおいどーすんだよこれ」


 想定通り神サマはゲームの中のプレイヤーであって、すぐに消滅してしまった。

 だが、あの神サマのことだ。いつこの階層に戻ってくるか分からない。

 おおよそここが最終階層なのは変わらない。だからこそ、もう早く終わってしまおう。そして、この怨嗟から抜け出そう。


 血の型だけ切り取られた無残な痕だけ残して、去ってしまった神サマ。

 このまま棒立ちしていては明らかに殺人犯として捕まってしまう。

 ひとまず去るために血痕から背を向けてゆっくりと歩き始めた。


 さて、これからどうするか。



 ゲームの中だということは確認できた。

 けれどそれ以上のことは何も聞けなかった。

 携帯が無ければ殺人対象も探索対象も分からない。ひたすらにプレイヤーかもわからない人間を殺しまくる愉快犯になってしまうではないか。

 いや、今更か。


 そうこうしながら道を歩いていると、曲がり角で誰かとぶつかった。


「きゃっ!!!!」

「っ!!???!」


 図らずも尻もちして、気を失いかける。思ったよりも身体が疲弊しているようだ。

 ぶつかった相手の方を見やる。それはまだ一度たりとも殺していないプレイヤーだった。

 それが何故分かるのか? それは当然分かるとも。


「おっと――――久しぶりだね」

「……!? あの時の」


 小生にゲームの概要を教えてくれた女性だったからだ。

 ドジっ子のように軽薄な笑みを見せてくる。

 人形のように整った顔と白磁の肌。汚れ一つない服と完璧な体型。

 相変わらず栗色の髪を一つに束ねていて、ポニーテールを作っていた。

 まるでここまで来るのに苦労一つしていないような。純然とただの通学路を歩いてきたかのような平然とした顔でここに来ていた。


「なんで……?」

「そりゃ、私もここの住人だからね」


 手元に落ちた包丁を無意識につかみかけたのを、その女性は冷静な面持ちで遮った。

 お互いがお互いを視認できている限り、この女性は殺人対象でも探索対象でもないようだ。


「酷い顔だね」

「――――何言ってるんですか。そりゃそうでしょう」

「――――――――へぇ」


 小生の悪意の籠った声を、軽々に受け流した。

 この人だって人を殺してきているんだ。当事者でないこともない。

 被害者でもあり加害者でもある人間だ。

 でなければ――――殺さないと。


 殺さないといけないのに、止められた手が強く固められて動けない。

 苦しい表情をすると、まじまじと目を合わせてきた女性が、瞳の奥を覗いてくる。

 小生に覆いかぶさるようにして、身動きが封じられる。


「随分と変わったね。最初に会ったときは変な挙動してたのに。今じゃまるで殺人鬼の目だ」

「それがどうしタって言うんですか?? このゲームはこういうモノでしょ?」

「そうだね。そう作ってあるからね――――」


 意味ありげな発言をして、澄んだ瞳がじわじわと真っ黒に染まる。

 通常の人間らしくない。ハイライトも翳りも一切ない異様な眼。

 真っ黒に染め上げられた。冷徹さも情熱も感じられない、恐怖を与えるような眼が。小生の視界いっぱいに写っていた。


「ねぇ」

「――――――――ッ」

「君は何人、殺したの?」



 ■■■■■



「ダメでした……すみません」

「君にしては思わぬ失態だったね。流石の僕も驚いたよ」


 VR用のヘルメットを外して、横になっていた身体を起こす。

 校長室のソファでVRをするとは夢にも思わなかった。まぁそんなことはどうでもいい。

 視界の端の机では、ディスプレイをじっと見つめている校長が簡素に感想を放っていた。


 まさかあそこまで殺人に糸目をつけていないなんて。二連続でアーツを使っていた分、反動が大きかった。対処できなかったのが悔やまれる。

 深いため息を吐くと、校長が俺の前に紅茶を置いてくれた。珍しく思いながら、一口もらう。


「彼は相当手に負えない存在になってしまったな……」

「すみません……俺の監督不行き届きです」

「まぁそう卑下しないでいい。元は強制的に参加させた僕のせいでもある」

「でも……」


 うつむいていると、繕った笑いが飛んできた。内心では到底思ってもない行動だというのに。水瀬校長は視線を別のディスプレイに移すと、咳ばらいを一つ。


「葛星夜の件はさておき。――――世羅賽花の件だ」

「っ――――世羅の家は」

「ある程度はその場で聞いたね。生気の感じられない空間で、当該生徒すら観測できなかった。で、合ってるかい?」

「…………はい」


 人形ばかりの家で、呼吸一つない無音の空間が広がっていた。

 それに加え、普段嗅がないような死臭がした。

 校長は喉につかえた言葉を、まるで勇気を振り絞るかように吐き出した。


「実は君からその報告を受けた直後、僕は警察に彼女の家へと出向いてもらったんだ」

「っ警察!?」

「あぁ、流石におかしいと思ってね」


 まさか警察まで導入する事態になっているとは思いもしなかった。

 校長はそれから更に苦しい表情を見せてくる。


「それで分かったことなんだが……あそこの家には、既に誰も住んでいなかったんだよ」

「…………は?」

「言わんとすることは分かる。だが、人はいたんだ」

「? 余計に意味が分かりませんよ。人がいたのに誰も住んでないって―――――――――」



 俺がその言葉を完全に発しきる前に――――頭が理解した。

 校長は、眼を閉じてそれが正しいことを示した。

 勿論これはゲームではない。生き返るということは存在しない。

 だからこそ。おかしかったんだ。

 一つだけ鍵のかかった部屋。一切生活臭のない家。

 それどころか――――死臭のする部屋。


「ッ! ――――う、嘘でしょ」

「嘘じゃない。だが――――見つかったのは、絞殺された母親の遺体のみだった」

「!? じゃあ世羅はどこに」

「分からない。ただ、母親の遺体は君の言っていた鍵のかかった部屋にあり、世羅賽花はどこにも見当たらなかったそうだ。警察は事件と事故の両方から捜査しつつ、引き続き、世羅賽花の捜索を続けてくれている」


 淡々と喋る校長の話に、俺は理解が追い付かなかった。

 あの部屋で、もしかしたら世羅が母親を殺していたのかもしれない。

 それに、最悪の場合――――世羅自身も。



「…………俺は、どうすれば」

「世羅の捜索は警察に任せていはいる。ゲームへの参加なんぞは二の次だ。君も可能な限りは捜索に協力してあげて欲しい。葛星夜については――――彼が現実に戻ってきたら対応しよう」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ