73時限目 夏休まなかった
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えっと……これで、一〇人目? かな。
小生天才だから気付いちまったんだよ。これ全員殺せばモーマンタイって、コト!
流石にプレイヤーのみだけどね。小生のこと気付いた瞬間に皆逃げ出すんだもの。
見つけるのが容易い容易い。
普段なら階層が上がればプレイヤーが見つけるのが難しくなるんだろうけどね。
なんで皆こういう結論に至らないんだろう。
だって人を殺してきたプレイヤー達でしょ? 一人くらい小生と同じ考え持っててもおかしくなくない?
「まっ、小生が最前線ってことで♪」
ここまでやってるのにまだ携帯に赤い点が残ってるって何かの皮肉かよ。
逃げるの上手すぎなのか小生の無差別殺人が知能低いのか。
――――前者だな。
「さて、あと何人で済むかなぁ~♪」
■■■■■
「…………マジっすか」
『大マジだとも。今の彼は精神が完全に崩壊しきっていて、プレイヤー全員を殺戮せんとする化け物になってしまった』
校長の通信画面越しに、ゲームの中にいる今の葛の状況を見る。
他人の血を恐れもせず、他人の不幸を軽んじて、他人を殺すことに悦楽を感じている。若干中二チックとはいえ、ここまで化けるとは思っても居なかった。
葛のポテンシャルを甘く見ていた、と言えばそれまでだが、結果は想定の遥か上を行っている。このままだとゲームから帰還したとしても結局数日から数週間の自宅隔離が最善だろう。そうなってしまっては、元も子もない。元からこの二人には外に、学校に出てもらうという名目の元大会に参加させんとしていたのだから。
それが、台無しになってしまう前に、対策を講じなければならない。
だけれども、今はそれどころでもなかった。
今目の前にある扉の先の、もう一人の不登校児をどうにかしないと。問題は先送りにしたままになってしまう。
相変わらず扉は開かない。そのことを含めてこれまでの経緯を水瀬校長に伝えると、唸る声で長考に耽った。
正直に言うところ、今すぐにでも帰りたい。いつ足元に転がっている人形が動くか分からないし、何より生活臭一つしない異様な空間だ。自分自身が狂ってしまいそうになる。
『了解した。とりあえず…………はこちらにもど……きてくれ』
「……? ちょっと電波が悪くて――――」
『何やら様子が…………ようだ。でき…………早くこ……に…………』
ザザッ、とノイズが響く。直後、通話が終了された。不気味な薄暗い空間で一人取り残され、無音に襲われる。
寒気がして、すぐに階段を駆け下りた。可能な限り早く、息が切れるほどに、玄関まで一目散に向かう。そして玄関の靴を履こうとして、すぐに戦慄が走った。
玄関に置いてあった靴が、一つ増えていたのだ。
「ッ!!!」
まずい。これは、まずい。形容できないけど、嫌な予感がする。
焦って靴を履き、玄関の扉を勢いよく開けた。
先ほどまでとは打って変わってうだるような快晴。昼過ぎの傾いた太陽。
道路には散歩している飼い主と犬が元気よく歩いていた。
ひとまずは窮地からは脱却できたようだ。
「はぁっ……はぁっ……」
深呼吸して身体を鎮める。
まだ心拍が激しい。爆発してしまうんじゃないかと思うほどに高鳴る拍動に手をあてて落ち着かせながら、学校の方へとゆっくり歩いて行った。
■■■■■
扉を、見ていた。
扉の先に居た人物が、サイカにとって何者だったのか、もう分からない。
ただ、大事な何かだったのだけは分かる。
サイカがとてもあこがれていて、サイカがとても好きだったものだ。
扉に手をかけようとすると、その手を遮る人がいた。
やさしくて、温かい手だった。
けど、サイカにはそれと同じくらい、あれが好きだった。
声を出す。サイカはサイカがなんて言っているのか分からない。
もがく。もがく。もガく。もがク。
振りほどこうとしてもその手が押さえつけてきて、どんどん引きずり込まれる。
奥に、遠くに、はてしなく、はてしなく。
サイカはちょっと怒って、
引きはがしたその手を、何度も押さえつけてきた手を
ブチッと。引き裂いた。
¿?¿??
床……ではなく道路。
白線。樹木。塀、家、電柱
電線
道路標識
ガードレール
太陽
雲
これまで見た光景と何も変わらない状況。何度も何度も何度も何度も見てきた、見飽きた状況。
ここ、何階層目だっけ? 小生、何人人殺したんだっけ? あれ、まだ片手で収まったはずだよな?
記憶が……混濁してる。殺された痕は――――二つだ。
とりあえずどこか分からないが、人がうろちょろしてる。こんなだったっけか?
なんでだろう。まぁいいか。全員―してしまえ。
小生はすぐさま人の家に入り込んで、宝箱ではなくキッチンにある包丁を取りに行った。
宝箱なんてなくても、こんなにリアルに寄せたゲームであるならば包丁や鈍器でも人を殺すことができる。もう少し早くに気が付いていればここまで手間取るなんてことはなかったろうに。失態だ。
さて、いきなり家の人に見つかったから一人やってしまった。
携帯を見て赤い点を確認する。近いとも遠いとも言えない微妙な位置だった。のうのうとゆっくり歩いて一般人に紛れ込んでいる。
吐き気がするほどの豪胆さに思わず笑いがこみあげてきた。
死んでも消えないNPCを置き去りにして、真っ赤な手で玄関のドアノブを握った。
「太陽あっちぃ~!」
このゲームの中に入って分かったけど、意外と外で走るのって楽しいことらしい。
人を殺める目的であるというのもそうだが、いずれにせよ目的をもって走り続けるのは良い事だ。どうして漫画やアニメの中の主人公が走っていることが多いのか、今なら理解できる気がする。
「こっからだと三〇〇メートルくらいかな~♪」
道中、小生のことを見た瞬間に逃げ出したプレイヤーやNPC達を強引に刺殺していきながら、だんだんと近づいてくる殺人対象を、真後ろから一突きした。
「ヴっ……ごぷっ……」
肺の方を間違えて刺してしまったのか、口から血があふれ出てきていた。
首を狙えば一瞬で死ぬのは当然分かっているものだが、あまりにも美しさに欠ける。
人を殺すというのだから、人が苦しむ様をどれだけ美意識を以て見物するかに限るだろう。それゆえに人が死ぬ様は限りなく綺麗で端麗なものであるべきである。
「はぁ~あ。つーまんね」
これだけ人を殺してくるのが単調になってしまっては美学もクソもないのだが。
まぁ形だけでも取り繕っておかないとさ。申し訳ないじゃん?
携帯の画面で赤い点が消滅して、今度は白い点が点滅しだす。
この階層で終わりかな。なんともあっけないゲームだったよ。
さて、最後のウイニングランでも行こう。




