71時限目 夏休めなかった
##3##
「っしゃあ戻ってきたぁ」
あの後しっかりメリーさんを見つけて、真ん中の階層に戻ってきた。
あの女性とはあれ以降、全く会話をしていない。そもそも引きこもりだから喋る機会なんて全くないというのだが。
相変わらず銃創が一つと、心臓にバツ印の傷が残っている。いろいろな階層を跨いできたため、記憶がどれが正しいのかが分からない。一度見つけられた? 気がしなくもないが、それが一度かすら分からない。もしかしたら、二度か、それ以上か。
「記憶は忘れよう。前だけ向いてこう……――――ヨシ!」
1 2の……ポカン! 小生はヒトとの会話の仕方をわすれた!
ついでに記憶と倫理も忘れた。代わりに自尊心を覚えた!
でも元から個体値低いから使えねぇや。
んまぁいいや。とりあえず目の前に映った人を殺すバーサーカーになればモーマンタイ。さてと、武器の調達調達~。
「てかこれ現実時間どれだけ経ったんだろ」
気付けばずっと殺し殺され見て見られを繰り返している。
最初の時間から確実に半日以上は経過しているというのに、全く食欲も睡眠欲も湧かない。ゲームの中といえど、流石に何かを食べていないと現実の身体が倒れてしまいそうだ。けど、ここで何かを食べたとして現実のお腹が満たされるかと言えばそうでもなく――――結局、欲も湧かないため考えることを止めた。
最早何の後ろめたさもなく、人の家に侵入する。たまたま入ったその家の中には、先客がいた。
「あっ」
「!? なんで――――」
人がいて言葉に詰まる。なんで小生会話の仕方忘れたんですか? 何を見てヨシって言ったんですか??
A.何も見てなかった。
「何も、なかった……」
「あの、すみませんがここの武器はもう私が取っちゃって……」
おずおずと、申し訳なさそうに小生に向かって告げる女性プレイヤー。
この人も生きるのに必死なのだろう。すごくげっそりとした表情で小生の方を見てくる。体には服を貫通して弾痕が二つあった。小生と同じで二回も殺された人間ということだろう。誰も信じることができないような瞳で、怪訝な様子を見せている。
「何が置いてあったんですか?」
「? えっと……この拳銃が」
プレイヤーが腰から拳銃を持ってきて見せてくれる。
お互いがお互いを見てもリセットされていないように、この女性は小生にとって探索対象でも殺人対象でもないようだった。
近づいてよく見せてもらう。これまで使っていた拳銃ととても似つかわしい銃の種類だった。見た所引き金を引いたらすぐにでも発砲できるように準備も整えられている。こんなにも好条件の拳銃は他にないだろう。
まじまじと見つめていると、少しずつ安心してきたのかプレイヤーは腕の力を抜いた。引き金に指を這わせたまま、ほっと一息ついていた。
流石にこの世界に慣れてきたのだろうか。まるで奪おうとしたらそのまま殺しかねないと言いたいようだ。
「良いやつですね」
「っ、そうなんですか?」
そんなびくびくされても困るんだけどな……。だって小生武器持ってないし、殺される可能性が高いのは小生だっていうのに。
内心で溜息を吐いて、信じられていないことに憂いた。まぁそれもそうか。
その瞬間、流れるような手つきで銃身を掴んだ。
「えっ……!?」
一八〇度回転させて、銃口をプレイヤーの胸に向ける。
気が動転したプレイヤーは、反射で引き金を引いた。
パァン。と、無慈悲な音が家の中に響く。
鮮やかな真っ赤の血をたらりと零した直後、プレイヤーは仰向けになって倒れてしまった。
「ふぅ……これなら次の階層に行けそうだ」
簡素に悼んで、プレイヤーが落とした拳銃を手にして家を出た。
別に小生が殺した訳じゃない。人を殺す覚悟があるから、あのプレイヤーは引き金に指をかけていたのだ。殺す気がないのなら引き金になんか指をかけない。
そもそも、小生に接敵した時点で殺す直前まで行こうとしていた時点でダメだった。小生だっていつ殺されてもおかしくなかったのだから、どっちもどっちだ。
「携帯で殺人対象調べよ」
うわっ……私の対象遠すぎ……?
道は入り組んでいるため仕掛ける場所は多いが、それまでに誰かと出くわす可能性は高い。
勿論、それまでの道中を警戒しなくて良い訳でもない。探索対象がアーツを使って偽装工作をしている可能性もあるし、もしかしたら誰かと徒党を組んでいるかもしれない。
常に背後に気を付けないといけない。そんな精神を抉られるような地獄のような空間だ。
##?##
その後の出来事は掻い摘んで説明するほどのことなどは特になかった。
中途、武器を持たないプレイヤーが武器を持っている小生に向かい罵詈雑言を浴びせてきたことはあった。やれお前も人を殺すのか、と。こんな現実めいた世界で狂気に染まっている、と。
あまりにも正論すぎたが、のっぴきならない理由で―した。
まぁご愛嬌ということで。不必要な行動とは思わない。理路整然と堂々と胸を張って言える!
殺人対象にやっとのことでご対面すると、相手はこちらの方に少しずつ近づいてきている模様。なんと小生のことが見えるようになっていたのです。人を殺してなんとまぁ。
小生は遠方からターゲットとは無関係の人が来てることを感じ、その人を壁にして一発。その人ごと倒れてしまったが必要な犠牲だったのでヨシ!
なんかこの階層の中で思わぬ殺生をしてしまった気がするが、まぁノーカンってことで。最初皆説明されてたんでしょ? いいハンデじゃん。
サクッと探索対象を見つけ出して、ようやっと新しい階層へと到着した。
#?###
暗い。寒い。気が狂いそう。
ひきつった笑いを浮かべている目の前のニンゲンに、心の底から恐怖を抱いた。
手元に落ちていた人形がこっちを見ている。目に光はなく、動いてはくれない。
さっきまでサイカと一緒に遊んでくれていたのに。
目の前のニンゲンは、サイカと遊んでくれるかな。
あー、違うや。
これ、
サイカだ。
#?###
「おー! 葛! 久しぶり!」




