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天才様の唯物論  作者: 上海X
夏之御霊と■■遊戯
72/116

69時限目 夏休みたかった

「うッ…………ぐっ、――――ぼぁっ」


 真っ赤な手。落ちたナイフ。

 濁った血。


 やはり人を殺めるのは精神衛生上マジでよろしくない。

 どうして殺人が駄目なのか改めて理解した。

 本日二度目の吐瀉物。胃酸と流血が混じり合ってみたこともない色が目の前にできている。

 一生見なくて良かった色だったのに。


 ――――刺した人は既にこの階層から消えてなくなった。

 人型になった血痕だけ残して、行ってしまった。

 小生はまたも、膝を折って身体を丸めていた。

 ハンドガンで殺めた時に比べ、盛大な音は発生していない。おかげで人に見つけられるということはなかったのは、不幸中の幸いだろう。


 これであとはメリーさんを見つけるだけだ。

 携帯の表示ではそう遠くない距離にいる。こちらは既に相手を視認することができるようになっているため、追い詰めるのはゆっくりでもいい。

 そのままうつぶせで倒れそうになる身体を精神力で全力で支える。


「どれだけ吐けば気が済むんだよ小生……」


 もうやだこの世界。もうやめましょうよ、命がもったいない。


「こんなことして何になるってんだよ」


 皮肉は誰にも届かない。届ける相手もいない。

 こんなことならばもう、自殺してしまおうか――――。



















 いつも、いつもそうだった。


 自分だけが周りとなじめなくて、誰とも理解を共有できなくて、独りぼっちになっていた。

 恋人や友達なんて言うのは所詮幻想だ。真に自分のことを理解してくれる人なんていうのは存在しない。

 先生や親はさもルーチンワークのように小生を嗜める。敷かれた線路も歩けない奴が線路の外を歩けるか、と。

 いつしか頼る術はなくなった。そして自分は一人でも生きていけるのだと錯覚した。

 結局、一人で生きるのは誰からも知識を得ないことだと自覚するのにそう時間はかからなかった。

 こうして一人でモノローグを説いているときだって、自分こそが正しいと思い込んで、自分かわいさに生きているだけなんだと心底惨めに思ってしまう。


 だってそうだろ? お前らだって心の底では誰かから理解されたいって思っているはずだ。本当の自分を理解して欲しいって、思ってるはずだ。自分がどれだけ考えているかを、自分がどれだけ思っているかを。

 それを表に出して何が悪いんだよ。それを主張するのの何が悪いって言うんだよ!!!


 結局理解を求める先が変わっただけで、それまで頼っていた人たちは豹変する。

 そういった思いを共有するのなんて、別にネットの中で充分じゃないか。お前らが拒んだことなんだよ。

 友達でも、親友でも、恋人でも、親でも、先生でも知人でもない。誰でもない『誰か』と生きることの、何が悪いって言うんだよ!!!


 こういった奴らがいざ犯罪に手を染めると、『あーあ、やっぱり』って。

 光のない瞳でこっちを見るんだ。

 光っているお前らが、光を奪ったのに。

 自分を正当化して何が悪い。自分を正しく見せて何が悪い。お前らだってそういう風に自分を着飾って、偽って、繕ってきたじゃないか。


 そんなの、お前らの方がよっぽど汚らしいだろうがよ!

 自分は関係ないって言って、小生をいつもいつも遠くで見やがる。

 きっかけなんて何もない。『何もない』ことがきっかけで、人は――――小生はこんなにも変わってしまったんだ。



「―――――――フフフ、あはははっはは」


 じゃあ、何も問題ないな。





 ##2##



 これで、あとはメリーさんを見つけるだけだ。

 単純な作業だし、標的の場所はこちらからでも確認できる些事のようなもの。


「さて、近いといいなぁ♪」


 そんな遊び半分に呟きながら、真っ赤になった手と、胃酸が逆流して仕方がなかった喉を公園の水道でゆすぐ。

 一度公園に向かうまでに無関係なプレイヤーを見かけたが、あちらが小生を見た途端に悲鳴を上げて逃げていった。あちらの方だって人を殺したり殺されたりしているはずなのだから、どっちもどっちだというのに。


「っはぁ――――――きったね」


 血が洗っても洗っても落ちない。実際には手の表面からは落ちてはいるのだが、血の感触がずっと残ったままで落ち着かない。

 ヒリヒリとしていた喉はおさまったものの、人を殺したという感触には未だに罪悪感を抱いていた。


「今日はこれでいいや……」


 これ以上時間を割いていても仕方がない、と割り切って公園を出た。

 携帯から発信される位置情報によると、ここから南西に向かえばメリーさんがいるとのことだ。

 呑気に、大胆に、道路の真ん中を平然とした顔で通る。

 通学路を歩くように、ルーチンワークをこなすように。

 相手の人はどんなプレイヤーだろ。一瞬しか見れないから記憶に残りづらいんだよなぁ。殺したことだしアーツを使って引き寄せてもいいかもしれないなぁ。


「まだまだ距離がありそ


 ぅ?」


 う。う? 


 グサっ、と。そんな鈍い音がした。


 なに? 何が起きた? こきゅう、

 こきゅうしろ。

 吸って。吸って、吸って。吸え。吸えよ。なんで吸えない?

 あ、刃。は。刃? は。 は

 心臓に刃。なんで? どこから?

 むきだしで、銀色な。血がついた。

 誰の血が? 小生? 小生の? そりゃ小生のか。

 なんで――――


「ごぼぁ」


 前方に倒れる。顔面から崩れ落ちて、前が見えない。


 ひざいって。さむい。いきできな。

 肺だけあつい。手うごけ。動く? 動く。

 パーの形で、床について、たちあが――――





 最後に聞いたのは、心臓が再度貫かれる音だった。


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