68時限目 夏休まず
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気付けば道路の真ん中で、一人で棒立ちになっていた。
「ハッ! ふざけるのも大概にsayよ!」
ふざけんな。ふざけんな!
これがメリーさんだ? 違う、こんなのメリーさんじゃない。
感情的に否定したかった。
論理的に否定したかった。
けど、どれもこれもが当然の帰結すぎて、小生が見落としていただけだった。
「プレイヤーが他者を殺すだ?
メリーさんがプレイヤーを殺すの間違いじゃねぇか!!!」
怒りに任せて叫ぶ。拳から少しだけ血が滲んだ。
小生はてっきり自分自身こそがただの探索者であって、殺しが手段だと思い込んでいた。
実際は違った。
自身が、このゲームに参加している全員が、殺人者と探索者の二つの役割を持っていたのだ。
メリーさんはこのゲームにおいてレイド的に倒すものじゃなかった。
誰かが誰かのメリーさんで、誰かが誰かの殺人対象なのだ。
あの女性が言っていたことの引っかかりが、ようやく取れた。
『もしそのプレイヤーが、メリーさんに殺されるってことがあったら、その時はまた対象は変わるのか?』
『う~ん…………実質的にそうなるね』
「そりゃそうだろ。小生自身がメリーさんなんだから」
あの女性にまんまと騙された。いや、騙されてはいないか。
あの人は一切嘘は教えなかった。ただ、全部の真実を伝えたわけじゃなかっただけだ。
それを知らずに殺人に苦しみ、殺害に苦しんだ。
小生が何もしていない状態でメリーさんを視認できないように、殺人対象からも小生のことは何もしていなければ視認されないのだ。
こんな狂気に満ちた世界があるか。
気分と手段のために殺人が行われ、それに合理的意味を持たせてしまうとなると、必然的に選択肢の中に殺人が入ってしまう。ゲームシステムの倫理的欠陥と言わざるを得ない。
「腐ってる…………こんな世界」
だが、それを憂いても、最低でもあと二度死ぬか殺すかをしないとこの世界からは脱出できない。もしかしたら今ここにいる小生はは四周目ではなく五周目かもしれないし、何百周もしていた末の話かもしれない。
記憶がないということはそういうことだ。肉体的疲労は取っ払われても、精神的疲労を感じさせないまま、後でまとめて感じさせる。
「作ったやつ出てこいぶっ殺してやる」
一番の恐怖であり懸念点は、この階層が何層目なのかを記憶しておかないといけないことだ。
それを忘れた瞬間。多分――――――――
改めて、銃創をさする。
「死ぬって、くっそ怖ぇんだよな…………」
前回はたまたま殺人対象も探索対象も女性だったが、今回もそうとは限らない。
小生のアーツが効果を為すのは女性限定だ。もし、探索対象が女性で、殺人対象が男性であったならば、危険でしかない。今回はアーツの使用は以降控えよう。
「けど、どうすりゃいんだよ……」
どれだけ考え伏しても、殺人を手段として現実へ帰るしか方法はない。【スコープ】や【トレース】でさえあったなら、【逆境】や【全権】であったなら。
このゲームに制限時間というものが存在するならば話は別だが、到底あるようには思えない。
それに、早くしないと武器は少しずつ消えて行ってしまい、負け一直線だ。
「なんでこうも感情に即さず行動しないといけないんだよゲームは…………」
不平不満は誰も賛同しない。そもそも誰もいないのだから。
民家に入るも宝箱はない。あったとしても空の箱。
それを繰り返すことはや数回。少しずつ、人の家に入るということの罪悪感が失われていった。
「っ。いや、これはゲームだ。仕方ない」
そう、仕方ない。通常の倫理を説かれている世界ではないのだから。こうせざるを得なくしたゲームが悪い。
そりゃ、本心で述べるならば常軌を逸した行動だとは思うし、しなくていいならばしたくない。
けど、誰も観ていないから。誰も咎めないから暴走してしまいそうになる。
周りに人がいないということ、周りに怒ってくれる人がいないということは、それほどまでに自分を狂わせる原因となった。
「…………そうして、いつもいつも他人を理由にしてたから、今こうなってんだけどな」
何軒も家の中に入っていく内に、敷地内にも宝箱が置かれていることに気付いた。
それはあまり人目につくことがなかったため、幸運にも武器が残っていた。
「今度はナイフかよ……武器のバラエティ凝らなくていいから」
ゾンビゲーなどで使われるようなサバイバルナイフを手にして、ナイフケースを含めて装備する。
遠方から銃で殺されたら元も子もないし、殺人対象が小生のことを見れるようなら殺人の難易度は上がっている。
「でもこれしかないし…………絞殺は嫌だしなぁ……」
いざとなれば投げるか。
そう思って敷地から出た。携帯を見ると、赤い点は割と遠い場所に位置しているようだった。およそこの距離だと小生のアーツは効果の範囲外であるため、歩いて近づいていくことにした。
今からまた、人を殺す。
そんな不確かな感覚に襲われながら、想像もできていない覚悟でナイフを握りしめた。
「願うならばこれが四周目であることを祈る……」
あの女性は果たしてどうなったろうか? 小生が殺したプレイヤーはどうなったろうか? 本当にまだこのゲームの中で生きているのだろうか。
小生が見つけたプレイヤーはどうなったろうか? もしかしたら現実に一生返ってこれなくなって――――――。
考えたくもない惨事に脳のCPUを埋め尽くされながら、小生は赤い点が点滅する方へ歩いた。今度もたまたまプレイヤーは女性であり、ほっと胸をなでおろす。なでおろしたら気持ち悪いけど。
「小生もともとキモかったわ。良かったぁ^~」
安らかにスヤァできるわ。
さてま、殺したくないけど…………――――――尊い犠牲になってくださいッ!




