66時限目 夏休みたくない
「…………は?」
思いもよらぬ発言に、小生の身体が理解を拒んだ。
今、なんて言った……? 殺す?
「なに言ってんですか。殺すなんて」
「安心して。もちろん、これはゲームの中よ。ただし、プレイヤーの造形は本物そっくりの代物。景色や、建物だってね」
「い、いやいやだからってそんな簡単に」
「殺すじゃない。私たちは。簡単に、ゲームの中で、キャラクターが、キャラクターを」
酷く冷たく、硝子を突き刺すように小生に向けて言葉を飛ばす。
受け止めがたく、受け止めたくなく。しかしながら受け止めなければこのゲームをクリアできないという現実の非現実さに、やはり理解を拒んだ。
「これはね、メリーさんをモチーフにしたゲームなの」
「メリーさんって……あの、メリーさん?」
電話がかかってきて、だんだんと近づいてくる。最終的には通話している自分自身が殺されてしまうという内容のもの。それが題材となっているようだ。
なるほどそれなら何故携帯を知らぬ間に所有していたかが納得する。
「ってこれ。もしかして電話くる!?」
「来ないよ。ただし、とある人はそこに表示されてるはず」
「あ、あぁ…………この赤いのか。これがメリーさんなんだな?」
「違うよ」
即刻否定し、予想を裏切られる。
「最初に言ったでしょ。これは人が殺すって」
「? うむ。だから殺されるんだろ?」
「違うよ。だから――――――プレイヤーがプレイヤーを、殺すの」
「――――――は?」
奇しくも冒頭と同じ返しになってしまった。殺す? 殺されるではなく?
説明がややこしいと言わんばかりの表情で、眼前の女性は説明をした。
「そいえばクリア条件がまだだったね。このゲームのクリア条件は
メリーさんを見つけること」
「? そんだけ? 殺すとかではなく?」
「見つけるだけ。と言っても、それが何階層かあるんだけどね」
「あぁ…………」
なるほど、各階層でメリーさんを見つけ、最上層に行けばゲームがクリアされると。
「そして、敗北条件は最下層で殺されること。因みに今は最下層一歩手前。最初の階層がちょうど中間の階層だったわけ」
「ってことは、ここから四回メリーさんを見つけたらゲームクリアってことか?」
「そういうこと」
つまりは小生は一度殺されている、と。
あれ? でもここは三周目だよな…………? なんで中間から一つだけ下なんだ……?
「そしてこのゲームのポイントは、見つけられることと、殺すこと」
「ころっ……っ!?」
小生が言い淀むと、こくりと頷かれる。
「さっきまでのがメリーさんに対しての話。今からが各プレイヤーが特定のプレイヤーに対して行う、または行われること」
「それが殺すと、見つけられるってこと?」
「そう。まず仮に、私達が殺す方。それはその字面通り。携帯に写ってる赤い点のプレイヤーを殺せばいいだけ。他の人とは被って無いから、メリーさんから逃げつつこの人を殺すといいって感じ」
「逆に、そのプレイヤーから見つけられたら、どうなるんだ?」
「その階層での記憶がなくなる。あと赤い点になる対象が変わることかな」
「記憶がなくなる!? そんなことできるのか!?」
「できるよ。ゲームの中だからね。あぁけど安心して、階層を跨いだら記憶が戻るから」
記憶が戻る。原理は分からないが、それによって二周目の時には一周目の記憶がなくなっていたようだ。そして、二周目で殺されたから今復活している。
けどそこで、一つの疑念が湧いた。
「もしそのプレイヤーが、メリーさんに殺されるってことがあったら、その時はまた対象は変わるのか?」
「う~ん…………実質的にそうなるね」
「なんだかややこしくなってきたな…………」
「あはは……」
だがこれで一応納得はした。もしこれでお互いが視認できているということは互いに特定のプレイヤーではないということだ。そして幸運なことに、小生の対象相手は、女性なのである。
「そいえば、あなたのアーツはなんだったの? なんだか自然と引き寄せられるように歩かされた感じがしたんだけど」
「おっ? 聞く? 聞いちゃいますか????」
「う、うん……」
自信満々な雰囲気を見せると、苦笑気味に乾いた笑いが向けられた。
「小生のアーツはなんと――――【ハーレム】! 一定時間、女性と判断されるものを引き寄せる罪作りなアーツなのだ!」
「わぁぁぁ……」
「ちょ、マジで笑ってください。リアルでやるとこれくっそ恥ずかしい」
「リアルじゃないよ仮想空間だよ」
「恥ずかしさ的に変わんない!」




