62時限目 夏休め
「いーやーだー! 小生は家から出ねぇでさー!」
「いーいーかーらーさっさとこい!」
おかしな一人称で喋る引きこもり一人目は、想像以上にキャラが濃いやつかもしれない。
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俺は現在、葛 星夜の家に来ていた。引きこもりと言っても親は反対していたらしく、できることなら家から出して学校に行かせたかったそうだ。
夏燐の時とは打って変わって正反対。家庭環境については深く触れたくないが、本当に様々である。
そして葛は高校生ながらにドアに厳重なロックを敷いて暗い部屋に閉じこもっていた。並大抵の高校生じゃできない手法に感心はしたものの、所詮は青二才。拓真から教わったハッキングで易易とこじ開けると、中から当の本人が出てきた。
ゲーミングチェアに座ってPCに向かっている。いかにも怠惰な引きこもりと言った感じだ。俺が解錠してきたことに驚いたのか、はたまた『俺』という存在に驚いたのか、仰天して椅子から崩れ落ちていた。
部屋の中は予想に反して綺麗だが、引きこもり特有の匂いがした。それと、PCの排熱の影響かエアコンの不調か、蒸し暑さを際立って感じる。
葛星夜は体勢を元に戻すと、信じられない光景を目の当たりにしたようにまじまじとこちらを覗いている。
「もしかして……いや、嘘だ」
「残念マジだ、大人しく捕まれ」
やはり俺が来たことに驚いたのだろう。目をぱちぱちと瞬かせて状況を理解できずにいた。そんなことなど一蹴して、俺はとある紙を見せる。
「言いたいことは山ほどあるが、とりあえずこれに名前を書け」
「待って待って待ってくださいよ小生の脳内CPUをもう少し回復させてくださいって」
「無理だ書け」
「いやいやいやいや…………」
掲げた紙に書いてあるのはとある同意書。校長から渡されていたものであり、それを書かなければ某大会への挑戦ができない。よって、何よりもまずその同意書にサインをしなければならないのだ。
葛は詳細を見ることなく俺の急かすままにサインを記入する。これで実質今回の課題はクリアだ。
思わず口角を上げて、したり顔を溢す。その意図も組めぬまま、葛はぽかんとした表情でこちらに同意書を返した。
「じゃ、行くか」
「だからどこへ!?」
「決まってんだろ、ゲームの大会にだよ。それにもう始まってんだから急がねぇと……。バイクで来てるからすぐだ――――――ほい」
自然な流れでヘルメットを葛に預け、装着。何の疑いもなく口車に乗せられるところを見ると中々どうして新鮮味がある。これまでは一風変わった生徒たちばかりを相手してたからなぁ……。いや、目の前のコイツも変わらないか。
そして数秒の後に――――葛は意識を手放した。




