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天才様の唯物論  作者: 上海X
諸刃狼と虚構遊戯
61/116

58時限目 お疲れさま

「だぁぁぁぁぁ納得いかねぇぇぇぇぇぇぇぇ」

「うるさいぞ橘。ここはカフェなんだから、もう少し静かにしろ」

「だってさあああああ」


 うなだれる橘に、館石が嗜めるように諭す。

 こと顛末は、なんとも呆気ない終わりだった。


「はい、終了」

「はっ!?」


 その先生の言葉に、橘を含めクラブのメンバーは驚きを見せている。だが、ダイヤやスペードの他のメンバーは誰もかれもが納得の様子で先生の言葉を見守っていた。

 何も理解が追い付いていない橘のみが、先生に向かって詰問した。


「なんでですか! オレたちまだ終わってないっすよ! まだ狼を倒してないし、王を倒し切っても――――! 時間の関係ですか!? もうすこしで終わるんで」

「ちげぇよ馬鹿。ちょっとは落ち着け。それにお前たちの勝ちだ」

「っ???! 余計に訳が分からないんですけど」

「ははは~……。やっぱり気付いてなかったんすね」

「ここまで来ると最早尊敬に値するわ……」


 外野から暗に笑われて、橘がより混乱する。先生は一度咳ばらいをして皆を静まらせた後、橘に向かって改めて勝利条件を問うた。


「勝利条件って……そりゃ狼を倒すことと王を倒すことですよね? はっきりとはわからないですけど」

「それ以外にもう一個あったろうが」

「……? マスの70%の確保のこと? でもそれは勝利条件を満たして―――――あ」

「そういうことだ。お前たちのアーツで全員同じ陣営にまとめやがった。各々で占拠してたマスがあったがまとめられたことで、マスの占拠率が70%を超えちまったんだよ」

「っじゃあ誰ノ勝ちになるんですカ!?」

「そりゃ当然―――――」




「生きてる()()勝利って、やっぱ納得しねぇ! 茶番か!」

「だから落ち着け、橘」

「イワさんはそれでいいのか! せっかく良い所まで行ってたのに、急に終了させられるなんて」

「俺も少し思うところはあるが……。これ以上戦っても必ず勝てたかわからないからな……」


 窓際のテーブル席で、感想戦を行っていた。通常教科の期末テストも終わった分、お疲れ会を兼ねて遊戯履修者のよしみで行くことが決定していた。

 館石は唸っている。言っていることは正しいが、やはり橘は納得できていないようだった。

 リルクは目をお細めてアイスココアをちゅるちゅるとストローで啜っている。


「デモ、結果勝利は勝利ですヨ? もっと喜びましょうヨ~。ネ、コウジ」

「あぁ」


 甲はゲームの最中と打って変わって柔和な表情でアイスモカを飲んでいる。王であり狼にさせられていたということもあったため、心の余裕がやっと回復してきたといったところだろう。

 風岡はそんな様子を見つめていながら、嘆息を一つ吐く。


「でもまさか甲が王だったなんて。てっきり巌が王かと思ってた」

「ア、それはワタシも思ってましタ」

「俺はつい橘かと」

「オレ? 無理無理絶対先に死んでる」


 主軸になってチームを指揮していたら当然怪しまれる。それが許されるのは他の三チームに限る。当の甲もそういう思い込みの元で発言が控えめだったのもあったようだ。


「でもなんで勝利条件を隠すなんてことしたんだろ。アタシたちだけ素直に騙されて王が誰かずっと言い合ってなかったけど」

「……というと?」

「ほら、どうせ勝利条件が予想できたならわざわざ王のみに伝えるとか、狼のみが知れるとかにしなくてよかったんじゃない? って話」

「あぁ…………」


 橘たちが揃って共感する。普通人狼要素を持っているなら当然それらに関与した勝利条件を用意してあるはずだ。確かに隠すことで他の条件か何かを疑わせることもできたが、結果全員が明言せずとも理解していた。


「確かに、なんでなんだろう」

「『面白そうだから』らしいっすよ」

「「「「「っ!」」」」」

「やっほ。クラブの皆♪」

「そっちも打ち上げか?」


 不意に現れたダイヤのメンバー、鳴上たちに驚いて声を失うクラブのメンバー。

 鳴上雷斗に卯月咲夜、氷室零たちが居た。後方には更に二人いる。

 まさかこんなところで出くわすとは思わなかったため、皆が現状を理解できずにいた。ダイヤの五人も苦笑を浮かべながら、クラブの近くのテーブルに皆で腰掛ける。


「ここのカフェいいっすよね。開放的でお客さんも店員さんも良い人たちが多くって」

「ねぇ~~~。レーくん、何頼む? 私抹茶フラッペ!」

「じゃあ僕はそれのダークモカ」

「はいはーい」


 急に現れて急に熱い様子を見せられる。男四人のもっさりした空間に比べ、あちらは顔の良い男子二人(うち一人彼女持ち)と女子三人。どことなく空気間の違いが浮き彫りになってしまう。

 雲泥の差すぎて耐えきれず甲がはじけ飛んだ。


「コウジ! 息をして! まだライフは残ってル!」

「僕……死ぬ」

「はぁ……。アタシもあっち側行きたかった」

「行ってこいそして逝ってこい」

「なんか発言に悪意が見えたんだけど????」


 館石の発言に、風岡がムキになって身を乗り上げる。対面に座っていたため怒気は直接館石の方へ向かった。傍では甲が瘴気に当てられて野垂れ死んでいる。

 ダイヤも統率が取れて良かったろうが、やはりここのチームで良かった、と橘は一人でほくそ笑んだ。

 鳴上たちが注文を終えると、早くもいくつかドリンクが届いてきていた。


「ともかく、オレ達も結構楽しめたんで良かったっすよ」

「そーそー! 最後のアーツの合技はびっくりした!」

「確かに、普通に焦った」


 三人から賛辞が飛んでくる。他の面々も同様に頷いて称賛をしていた。その反応に、ついリルクが冗談交じりに照れた姿を見せる。

 頭をぽりぽりとかき、分かりやすくデレていた。


「いやぁ恥ずかしいですネ~」

「お前なんもやってねぇだろ」

「うワ~ん! ケンジが酷イ! ワタシ最初トッテモ仕事したノニ!」

「そこは感謝してるが」


 ツッコミが抑えきれなくなったのか、橘がリルクに向かって刺すように告げた。

 その反応に皆が笑みを浮かべる。

 館石たちも無意識に、ダイヤの行動をほめていた。


「最初狼の役を持っていたのって。やっぱり氷室くんなの?」

「? あぁ、うん。僕のアーツ【気配遮断】で他のチームにバレないようにした」

「オレらはチーム内にいたら真っ先に零のアーツを使用するよう事前に約束してたんす。まさか一巡目でいきなり零がするとは思わなかったっすけど」

「にゃはは~最初とち狂ったのかと思ったにゃ」


 互いが互いを褒め合い、それぞれのアーツのことについて談義を交わす。約十個ものアーツが一堂に会されているのだ。他の使い方があったのではないか、などと感想戦に耽っていた。

【諸刃】を【同調】で増やせば、【強奪】で【金剛殴殺】を奪えば

【同調】と【共感覚】で更により強い合技が使えたのでは

【ヒール】と【諸刃】のゾンビ戦法などなど

 考えたらキリがないタラレバを妄想して、楽しんでいた。


「アーツの種類があればあるほど戦略の幅が広がるな」

「っすねぇ。でも、ハートの人たちは滅茶苦茶使いこなしてたっすけど」

「――――金剛と銀杏姉妹か」


 その人物に触れることはあまりしたくなかった。というのが見解だった。

 金剛は味方をいきなり裏切りワンマンチームで攻略せんと動いていた。あの手段だってゲームの中の戦略の一つなのだから必ずしも悪い手法だとは皆思っていない。だが理性と感性はやはり別物。許せるかは別だった。


「本当に強かったなぁ……マジであの時は死ぬかと思った」

「勝手に巌が自決を選ぼうとするし」

「あの時はあれしか方法がなかったんだ」

「でも結局アタシに助けられたじゃん。そいえばまだアタシお礼されてないかもなぁ」


 じりじりと詰め寄る風岡に、館石は感謝の言葉を述べずにいた。頭ではわかっていても、やはりそのまま口に出すのはこれまでの生活が止めにかかるのだろう。

 橘は話題をそらした。


「金剛に倒された人――――鬼灯さんだっけ。あの人も結構強かったろうから一度戦ってみたかったんだけどなぁ」


 その言葉を発した瞬間、カフェの入り口からカランカランと音が鳴った。誰かが入店したと思えば、それはちょうど話題に挙げた、鬼灯夏燐その人だった。

 突然のことにびっくりして橘は息をのむ。鳴上が手をぶんぶんと振って、こちらに呼び寄せていた。


「いいところに! ちょうど鬼灯さんの話をしてたんすよ!」

「なんでこんな大所帯なのよ……。こここんなに大人数で来るとこじゃないでしょ。カラオケ行ったらどう?」

「鬼灯さんこそ、一人で来るんだね」

「私はここでよくお姉さ――――人と会ってるから」


 誰のことかは分からないが、鬼灯は呼ばれるがまま、成されるがまま鳴上たちの席の方に座らせられていた。女子率多くないか……? といいたい橘だったが、これ以上風岡にとやかく言われるのも面倒だったため、口を噤んでおいた。

 こんなにも人が多いなら、いっそ無響さんだっていそうなくらいだ。


「あなたたち、少しうるさいですよ」

「っ! すみませんっす――――って、無響さんじゃないっすか!」

「だからうるさいです」

「いつからいたんだ……?」

「割と最初から」


 噂をすればなんとやら、カウンターに座って既にカフェラテを嗜んでいる。お付きの四人はいないようだが、こちらの会話を聞いて堪え切れなくなったのか、丸椅子を半回転させて会話に入ってきてくれた。


「居たならもっと早く話したかったのに~」

「そもそも話す気なんてありませんでしたし。うるさくて耐えきれなかったからです」

「コウジ、コウジ。これもツンデレになりますカ?」

「違うよ。あれはツンドラ」

「殺りましょうか?」

「日本の女子高生コワイッ」


 冗談交じりにそう言うと、ムキになって冷静だった表情を崩す。今は午後の二時過ぎだからカフェの中も人が少ない。店員さんたちも心地よく聞いているようだった。ここのカフェは高校からも近いため高校生が特に通いやすい。

 たまに大きな声を張りすぎると、給仕ついでに唇に人差し指をそっと添える仕草をする。瞬間、相好を崩して朗らかな笑みを向けてくれるため、とても好印象だ。

 年齢は神藤先生と同じくらいに見える。夫婦で経営しているのを見ると、高校生たちは皆憧れの眼差しを向けていた。


「あぁいう大人になりたいよねぇ」

「あの先生よりかはね」

「ははっ。言えてる♪」


 皆が揃ってそんな様相。人も多くなったため、鳴上が皆をカラオケに誘う。

 当然、ダイヤの面々は賛成。橘たちも断る理由なく、参加することにした。


「じゃあ行こー!」

「って! 私も行くの!?」

「ワタシは別に良いんですけど……」


 流れで鬼灯と無響を卯月含め女性陣で捕まえて、十二人という多さでカラオケに直行した。

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