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天才様の唯物論  作者: 上海X
諸刃狼と虚構遊戯
55/116

52時限目 The Silver Bullet


 イワさんの役職は騎士だったはずだ。騎士は当然対象がいないと攻撃できないし、その攻撃対象は王である。だが、相手の王に攻撃をした演出が一切なされていなかった。まして、可能とはいえ、自身の王に攻撃をするなんてこともしていない。

 誰に攻撃をしている? なんで――――


「みっ、みみ三つ目もダメみたい……あ、あああと一回……」

「いいから! 最後も頼む!」


 ケンジが苦しい表情で声を張る。ケンジは何を憂いてイワさんの提案を拒んだ?

 本当にこれほど勝率の低い案で乗ろうとした?

【パンドラ】はブラフ? イワさんは【同調】で何をした?

 考えが巡りイワさんの顔を見る、ケンジよりも苦しそうな表情をしているが、いくらか覚悟の決まった顔をしていた。

 そして考えるより先に、無慈悲にハートの手番が回ってくる。


「何を考えているかわかりませんが、この攻撃であなたの【諸刃】は使い切ります☆ 【同調】で増やせばよかったのでは☆ まぁ、もう遅いですが☆」

「…………」


【金剛殴殺】がワタシたちのチームに当たり、喜びの表情を浮かべる金剛。

 ケンジは黙ってうつむいたまま。そこへイワさんが前に出る。

 クラブのメンバーもハートのメンバーも、全員が疑問符を浮かべていた。

 ただ二人を除いて。


「貴様ら。寝言は自身のHPを見てから言ったらどうだ?」

「何を言って、誰も攻撃なんてしていなかったのにHPを確認する必要なんて――――っ!?」

「ようやく余裕そうな笑みが剥がれたじゃないか。もっと喜べ。この四ターン、一度も自身のHPなんて確認しなかった戦闘狂が」


 怒りを込めて言ったイワさんの発言に、金剛が歯噛みをする。

 そうだ、やはりイワさんはアーツで()()()()()と同調していた。

 一切盾の張られていない状態で、自身に向けてならば演出もかからない()()()()を続けていたのだ。一ターン目は【同調】を。二、三ターン目は一ずつHPを削っていた。


「っ!! おい貴様! 何故回復をしなかった!?」


 金剛は焦って自チームの唯一の術師に声をかける。彼にこの戦闘中、HPの管理を任せていたのだろう。だが彼はずっとHPが減っていることを分かったうえで、黙っていた。


「はぁ? するわけねぇだろ。こんなんで生き残るなんて真っ平御免だ。せいぜい策略に乗せられて死んどけ」

「貴様ァァァ!」


 怒号が教室内に響く。先ほどまでの優位性はどこへ消えたのか。クラス中の皆は金剛の滑稽な姿を見て笑いをこらえられずにいた。銀杏姉妹は状況が呑み込めず、金剛ただ一人のみが怒声を上げている。

 だが一人だけ、笑いすら上げられないほど苦い表情を醸し出している人物がいた。


「……イワさん、これで良かったのか?」

「あぁ、構わない」

「――――っ! そうだ! お前が攻撃をするならば、お前ごと死ぬんだぞ! いいのかそれで!? 大事な仲間が死ぬのは惜しいだろう?」

「「っっ!!」」


 そうだ。今はイワさんはクラブのチームにいるものの、ハートの王という役も担っている。ここで自傷行為をしようものなら、イワさんだってこのゲームから退場してしまうことになる。

 ケンジはそれを憂いて拒んでいたのだろう。今になって無力さを噛み締め打ちひしがれて、黙りこくるしかなかった。

 それはワタシだってそうだった。今ハートは無防備でHPが一。【パンドラ】こそ見つけられなかったものの、今を逃せばハートはまたワタシたちを潰そうとしてくる。

 だが今攻撃をすれば、イワさんが――――。


「あぁ、構わない「ワケないでしょ馬鹿じゃないの」」


 そこに口を割り込んだのは、ハヤさん――――風岡颯だった。

 彼女はイワさんの肩を掴み、強く強く握る。肩が砕けそうなほどミシミシと言っている。そいえばハヤさんは弓道部だった。多分、イワさんの肩は砕ける。

 そんなことはどうでも良い。ハヤさんはキレ気味にイワさんに向かって罵声を浴びせた。


「あんたがここでくたばってどうすんのよ! まだ一緒に戦ってもらわないと、どういう不利が生じるか分かったもんじゃないでしょ!?」

「だがもう俺にはどうすることもできない。橘だって俺をどうにかする方法なんて浮かば――――」

()()()()()()


 ハヤさんはイワさんに向かってそういった。

 数秒固まっていたケンジとイワさんだったが、すぐ後に理解が及ぶ。


「そうか! 颯から俺に向けて【同調】を使えば」

「そうすればイワさんはクラブの平民に戻って退場しなくてよくなる!」

「そういうこと! ハートは無防備なんでしょ? 攻撃なんてそのままアイツに向かってやればいい。それにダイヤとスペードも近くにはいないし、回復がちょっと遅れても差し支えはないでしょう」


 ハヤさんの自信満々の笑みに、イワさんがたじろいでいる。してやられた感満載で顔をそらしていたが、ハヤさんにニヤニヤ詰められていた。はよ付き合え。

 そこに、うるさい外野が一人。


「茶番が! くそくそくそくそくそくそ! なんでこんなことに」

「てめぇは仲間を裏切るなんてことをしたからっすよ」


 そこに更に外野が告げる。


「このゲームはそういったものだろう!」

「えぇ。本来はそうですね。ですが、それは無闇矢鱈に人を疑うのではありません。信頼と疑念を己の判断で塩梅を見極めて行うことが今回の主旨です。ただ裏切るだけ、ただ信じるだけなんて考えを放棄した能無しのすることです。そんな人間はここには相応しくない」

「……っっ!!!!!」


 鳴上と無響さんが揃って金剛を嗜める。【パンドラ】というブラフがなければ、さまざまな策略がなければここまで至ることもなかったろう。改めて感謝を送った。

 そして怒りを抑えきれなくなった金剛は、そのまま乾いた笑みを天に吐きつつ膝から崩れ落ちた。

 ハヤさんがアーツを用いて、イワさんを平民に戻した。

 最後はイワさんの手で、終止符を打つ。

 通常の役職――――騎士。狙うは自身ではなく、ハートの王。


「じゃあな、金剛」


 騎士による攻撃で、ハートは滅ぼされた。



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