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天才様の唯物論  作者: 上海X
諸刃狼と虚構遊戯
52/116

49時限目 無駄な努力

 ケンジが何か思いついたように、ワタシに向かって言った。


「【フライハイ】だよ……!」

「だからそれじゃただ逃げるだけになっていずれ倒せなくな――――」

「違うよイワさん」「だからイワさんやめろ」


 ケンジはノリノリな調子でこれしかないと言わんばかりに口端を上げた。

 ワタシを含めて他の全員がぽかんと口を開けてたら、説明が。


「飛ばすのはオレ達じゃない。今目の前にいる、コイツらだ!」

「はぁっ? それじゃ何が変わるのよ」

「変わるさハヤさん」「ぶっ飛ばすわよ」


 ケンジはハヤさんにそう言って、明後日の方向に向かってある質問をした。

 その方向とは、スペードがいる、無響透乎のもとだった。

 無響さんは深いため息をついて目を瞑る。


「【パンドラ】ってどこに設置してあるか教えてもらえないか?」

「はぁぁ…………。突然何を言い出すかと思えば――――。ワタシが教えるとでも? そもそも、普通に扱えば乱数的な設置。今回は【テーブル変更】のおかげで多少範囲は定めましたが、確実にこの位置といえる確証はありませんよ」

「ぐっ…………、やっぱりダメか」

「当然でしょう。……といいたいところですが、今回ばかりは話が別です。

 ――――金剛といいましたか。その男のようなワタシの趣味に合わない粗暴な性格に下卑た発想は見ていて悪寒がします」

「オォウ☆ 酷い物言いだ☆ てっきりアナタは似た人種だと思ってましたが☆」

「しね」


 ドストレートの発言に皆が怖気づく。かくいうワタシも例外ではなく、相手にしたくないのは金剛より無響さんかもしれないと皆がそう感じ取っていた。

 ただ一人、金剛のみがそんな言葉を意に介さずのらりくらりと受け流していた。彼に当てた言葉だというのに。


「設置した位置でしたね。当然あなたたちの拠点の近くですよ、飛ぶ前の隅から九マスの正方形くらいにあるんじゃないですか。それ以上はワタシも知りません」

「感謝する!」

「なんで男子っていつも勝手気ままに【パンドラ】を使いたがるんですか……」

「それオレにも刺さるからやめて欲しいっす……」

「あなたに対して言ってるんですよ」


 小姑のような発言をされてなぜか鳴上さんが申し訳なさそうな顔をしている。

 隅の九マス。正確には更にワタシたちがいた一マス分は存在していないことが分かっているため、確率はおよそ八分の一。できればもう少し絞りたいところ。


「まだ何かあるはずだ……。何か――――」

「これ以上絞るって何を……。《アーツ》も《役職》も意味がないのはさっき確認しただろう」


 イワさんがケンジに向かってなだめるように話しかける。ハヤさんとコウジも同じように感じているようで、これ以上は無理だという諦めた顔をしていた。

 ワタシも例外ではなく、八マスに絞れただけ上々だと感じている。

 けれど、ケンジはお気に召さないようで、黙って己の《アーツ》を発動させようとする。だが、それをしようとしたケンジの腕をイワさんが止めた。


「それはダメだ」

「こうじゃないとあいつを倒せない!」

「今の状況でも十分に有利に転じている! そこまで俺たちが危険を被ることはない」

「そうよ! 安全に行けば勝ち筋は確かにあるんだから」


 その言葉に、ケンジははっとした表情で何かに気付かされていた。イワさんハヤさんは全力で止めていたようだったが、ケンジは振り切ってアーツ――――【諸刃】を発動する。


「――――っ! お前、それは」

「大丈夫だ。これであいつは、()()()()()()()()()()()

「「「「――――っ!?」」」」


 ケンジのその発言に、誰も理解の追い付いていない様子だった。ただ金剛のみは面白くない様子でこちらをじっと見つめている。

 現在、【諸刃】の影響でクラブの王のHPが2になり、盾が二つ張られている状況になっていた。【諸刃】は自身にデメリットを課す代わりにメリットを享受できるというアーツ。今回は程度を抑えたつもりなのだろうが、相変わらず危険である。


「バカ! なにしてんだ。これじゃこっちが危険になるだけ――――」

「まぁまぁ少し落ち着けよ館石。さっき言っただろ? あいつらは迂闊にオレたちに手を出せない。ってのも、金剛のアーツを四倍で使うには銀杏姉妹との合技じゃないと発動できないんだよ」

「…………? それがどうした」

「つまりは、一巡するたびに行動が三回分奪われるってこと」


 橘の仮説は正しい。とある巡目で効力を発揮してそれが永続的に続くのであれば、ゲームバランスが崩壊してしまう。【付加】という永続効果のアーツでなければ普通は叶わない。強い代わりに代償をもつのは自然の摂理だ。

 だが、コウジは更に疑念を飛ばす。


「けど、金剛のアーツで4ポイント。今の僕らは盾を二つ張っていてHPが2ポイント。まだ一枚張れるとはいえ、あちらに攻撃を行える騎士がいれば――――そうか」

「そう。攻撃できる人物が一人残っているかもしれないが、それは銀杏姉妹ならば《アーツ》の使用の所為で使えない。更にあのチームの最後の一人は金剛に対して不信感を抱いているヤツだ。そう簡単に従うとは思えない」

「で、でも! 結局アタシたちのHPが1になるのはヤバいじゃん!」

()()()()()()


 忘れていたかのように橘は告げる。それはそもそもハヤさんが言っていたことだ。


「HPが1だと《叛逆》を行われるリスクがある」

「――――っ!! なるほど」


 狼の存在を逆手に取った自衛。ただの陣取りであればこの時点で終わりかけていたのだが、今回はそうはいかない。

 そういわれてみると、先ほどのターンで金剛が殴ってこなかったのにも納得がいく。盾を剥がしにきた事にも合点がいく。


「てことで、リルクは盾を。鋼二は回復を行うな。風岡はできれば館石の騎士を【同調】で増やしてくれ」

「わかった」


 いつしかケンジの指揮で動き出す。といえど、今回の巡目はこれで耐えれるとしても、次以降でも【諸刃】を使い続ける訳にはいかない。なんとかしてゲームオーバーになる前に【パンドラ】の位置を突き止めないとだ。

 こちらの手番が終わり、一周してハートのターンがやってくる。


「ウーン☆ これは困りましたね☆」


 ケンジが想定していた通りで、金剛はこれまで作っていた余裕そうな笑みが消えた。

 暫し考え込んで、無機質な声で銀杏姉妹に指示をする。そしてそれに了承した銀杏姉妹は、揃って金剛に向けてアーツの力を付与した。


「【金剛殴殺】」

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