48時限目 鉛色の土煙
「今回、相手に作用するアーツは隣接した地形に居ないと効果がないから、とりあえず近づかないといけない」
「ってことは……。ヒット&アウェイみたいな感じを想像すれば良いのか?」
「そんな感じだ。で、問題は俺と風岡のどっちがアーツを行うかだが……」
「自分が狼かもしれないから不用意に言えないってか? 馬鹿真面目かよホント」
金剛が削ったHPを【同調】を使って相手のHPと等しくするという策。相手の方を元に合わせても良いが、結局は消耗戦になってしまうためこちらが優先だ。だが当然HPが1になってしまうということは自チームの中に狼が居た途端負けになってしまうことが確定する。
俺の発言を予知していたかのように、橘はため息を吐く。これだけ勝手気ままに先導しているんだ。疑われても何も言えないし、どうやら橘は何か考えているよう。ここは一任させてみても良いかもしれない。橘は少し悩んでいたが、割とあっさり答えを出した。
「まさか二人とも同じアーツだとは思いもしなかったが……。ここはとりあえず館石に任せるよ。風岡さんは多分、風岡さん自身で今って決めた時に使ってくれ」
「…………なんか納得いかないけど、もういい」
「本当に一言多いな……颯は」
「うっさい! 巌は黙って」
「あのさ……。薄々感じてて口には出さなかったけど」
「「……?」」
苦虫をかみつぶしたような顔で俺と風岡の前で唇を結ぶ。意を決したかのように橘はつぶやいた。いつの間にか、甲とリルクも聞き耳を立てている。
「二人って本当に嫌い合ってるのか?」
「それはどういうこと? 私たちが実は仲良いとでも言いたいの?」
「――――おう」
「「(い、言ったァァ!!)」」
「こ、れ、の! どこに好く要素があるってのよ!!!」
「言わせておけば勝手な物言いを。颯こそ陰険な態度で常に敵を作る癖にどの口がそれをほざく」
「はぁぁぁ!?」
甲とリルクがはらはらしながら聞いているのが分かる。今はそんなことより、目の前に俺を罵倒したくてしたくてたまらないヤツの口をふさがないとやってられない。
橘は余計に頭を抱えて大きくため息を吐いた。
「それだよ。その下の名前で呼び合ってる感じとか! 嫌い合ってんのになんか行動一緒なとことか!」
「これは勝手につきまとってきてるだけ!」
「こっちのセリフだ!」
「いやいやイワさん「誰がイワさんだ」 無理があるって」
「ワタシも気になってましタ。本当は付き合ってタリしテ……!?」
「リルクあんたそれ以上言ったら頭のたんこぶ増やすわよ」
「ヒィッ」「まぁまぁ風岡さん。ツンケンしてると誤解されやすいのは本当だよ。傍から見てるとそうにしか見えない」
「っ、甲まで……」
風岡が頬に赤みを帯びてきて、怒りがあらわになってきているのが見て取れる。
さっきまでの団結はなんだったのかと思うほどだ。だが、これくらいの軽い衝突はむしろ歓迎すべきなのかもしれない。内容が内容であるためほとほと黙っていられないが。
「今すべき話はそんなのじゃないだろう。もっと試験に集中しろ」
「いいやこの際話つけときなって」「ソウダソーダ~!」
「あんたたち何にも関係ないでしょうが!」
「同じチームになった縁だし、関係はなくもないと言えるよ?」
害意のない甲の言葉が無駄に刺さる。橘は本当に厄介そうに感じていたのかは不明だが、リルクはヤジしか飛ばしていない。完全に面白がっているから試験が終わったらしっかり別のゲームで話をつけることに決めた。
「おやおや☆ 楽しそうですね☆」
余談に花を咲かせていると、嫌につんざく声が耳朶を打つ。声の先は当然ハートにいる金剛と銀杏姉妹だった。挑発するような笑みでこちらを見ている。
勝ち筋は確かにある。先手がハートであるためそこは痛いが、どうにかするしかない。
「金剛 肉雄、それに銀杏 こよりと銀杏 てまり。お前らのやり方は気にくわない。勝つ以外の楽しみもないようなヤツには俺は負けない」
「ノンノン♪ イワさん、ここは『俺たち』デショウ?」
「「なんか厨二くさい……」」
「まぁまぁ」
締まらない宣言をして、俺たちは敵に立ち向かった。
♥♥♥
「リルクと甲は常に盾、リルクに限っては本当に危険に感じたら構わずアーツで安全圏まで飛ばしてくれ。橘は俺の判断が危険だと感じたら止めてくれ。颯は勝手にしろ」
「「了解」デス!」「わかった」
「ちょっと!! アタシだけ超雑じゃん!」
「ハナから指示なんてされたくないだろ」
「そうなんだけどッ!」
臨戦態勢で構えながら、次の巡目でのハートからの接敵を待つ。金剛は何やら考えている様子で、銀杏姉妹に指示を送った。あと一歩近づけば触れる距離だったため、予想通り接近してくる。
これで行動数が一回、盾を二回張るだろうから、残りの一回はアーツによる攻撃だろう。
「「《役職》」」
「《アーツ》――――」
盾が張られて金剛の行動が残る。予想した通りの行動だ。
思わず口端が吊り上がる。橘や風岡たちも同じような表情を浮かべていた。
だが、笑っていたのは俺たちのチームだけでない。
「【トレース】」
「はっ……!?!」
「言ってませんでしたっけ☆ 能力は全て奪える、それには当然アーツも含まれるんですよ☆」
それは本来金剛の持つアーツではない。鬼灯夏燐が所有していたアーツだ。だが、金剛のアーツの効果で使えるようになっている。
コイツを放置していれば更にアーツや他の能力が吸収されて確実に敵わなくなる。チーム全員に戦慄が走った。
「嘘だろオイ……」
「嘘じゃありませんよ☆ わたしの術師の役職はもういらナイので、そこのあなたと役職を交換しましょうか☆」
「っえ……」
甲を指さし、役職を交換する。金剛の役職が本当に術師なのは意外だったが、冷静に考えれば納得だ。術師ならば狼か否かの判別ができるし、攻撃手段がアーツならば騎士を選ぶ必要はない。
「おっと……☆ まさか盾とは、これは僥倖☆」
「橘」「わかってる、状況が最悪だ」
盾が一つ奪われた。今攻撃されたら一瞬で詰む上に、今回以降の対処のしようが全くない。これではHPを【同調】で一緒にしても盾の枚数で明らかに負ける。幸いハートのターンがこれで終わったため、首の皮一枚が保たれた。
すぐに俺たちのターンがやってくる。計画が破綻した状態で指示をするなんて愚の骨頂だ。どうにかして新しい作戦を立てないと。
「これ以上出し惜しみはできないか……」
「橘と甲のアーツのことか?」
「あぁ」
「それはダメでしょ! まだ戦いが残ってるんだし、いきなり漁夫の利を狙われたら……‼ それに、今じゃなくても――――」
「あのダイヤとスペードに立ち向かいに行くのか? それとも逃げてずっと追われ続けるか? あいつは確実に他のアーツを欲しがっている。見逃してくれる訳がないぞ」
「…………ッ」
風岡が歯噛みする。気持ちは分かるが、今は考える方が優先だ。
どうにかして打開する策を考えなければ。
【フライハイ】で飛ぶ? ――――なしだ。いずれ戦うことになるのなら、消耗していない今に限る。
橘と甲の切り札――――今は早すぎるし危険だ。
俺か風岡の【同調】で【金剛殴殺】や他のアーツを使う? ――――アーツ使用直後に再度すぐ行動ができるならやったろう。だが、それは叶わない。
当然、ただの《役職》や《侵攻》で逃げるとしても危険を後回しにしただけ。
向こうは盾三枚にHPは満タン、狼がいる可能性もゼロに等しい。
「一撃で屠れるならまだ活路はあったっていうのに……」
「そんな夢みたいなことできナイですっテ……」
「――――――――? …………あるじゃねぇか」




