47時限目 ブチ切れたメンバー
「「《アーツ》――――」」
銀杏姉妹がその台詞を告げると同時に、金剛が喜びに満ちた声で彼もまた己のアーツを告げる。
「【金剛殴殺】☆」
【金剛殴殺】。金剛のアーツが進化した形態らしく、倒した相手の特性を全て自分のものにできるというものだった。そして、【×(-2)】が二つ付与された四倍の威力を持った金剛の攻撃が構えられる。
ただし、ハートの近くにはダイヤもスペードも、まして俺たちのいるクラブさえも居なかった。
では誰に向けて攻撃をしたのか――――先ほど風岡と橘が会話していた通り、騎士の攻撃は王に向けて照準が合う。また、複数の王が近くに居れば選択できる仕様になっている。今回金剛が使った攻撃系のアーツといえど一律でそうなるし、防御系、回復系のアーツもその範疇に外れることはない。
ここで一つ疑問が生まれる。攻撃を選択したときに近くに誰もいない状態であるならば、攻撃先はどこになるのか。答えは今しがた行われたとおりだ。
本来いらないはずの機能。攻撃なんて相手の王にしかしないし、防御や回復だって自分の王に向けて打つのが当然だ。だがしかし――――
ハートの王であった鬼灯に向けられた、
防御の一切為されていない王に向けられた、
威力四倍の金剛の攻撃が、無残に鬼灯を打ちのめしたのだ。
それにより、鬼灯がゲームから退場させられる。
このゲームの敗北条件は王が倒されること。ただし、王という特性が鬼灯から金剛に移されたため、ハートのチームとしては生存している。
悪意を一つも感じさせない金剛と、その後ろに立つ挑発的な表情を向ける銀杏姉妹は男子生徒と鬼灯に向かって肩をすくめていた。
「悪いとは思ってるよ☆ ただ、こうした方が有利に事が運ぶのでね☆」
「てめえが狼だったらどれだけよかったか」
金剛が狼であれば、この時点でゲームが終わっているため、金剛は白だ。圧倒的に倒しておかなければ後々厄介なことになるのはわかりきっているが。
相変わらず舌戦を繰り広げられているハートのメンバー。鬼灯の退場により行動が読めなくなった。
正直見ていて胸糞悪いため独りよがりでも倒しに行きたいくらいだ。自分がもし勝手不条理に我を通されることがあれば、男子生徒や鬼灯のように苛立ちを募らせるだろう。といえど、自分一人の意見では迷惑なこともあり、チームメンバーの意見を――――いや、その必要もないようだった。
全員が全員、不審な表情だったのが一転、怒りや不満そうな表情を露わにしている。まるが我が事のように扱っているのを見て、やはりゲーマー気質であるのだと理解した。一人小さく肩を竦めて、改めて問う。
「どうする?」
「金剛をやるに決まってるでしょ」
「風岡さんからその言葉が出るとは思わなかったな……。まぁ、言われなかったらオレが言うつもりだったけど」
「ワタシも賛成でス! なんかムカつきマス」
「僕もかなぁ。単純に考えて、あの強さの人がこれ以上の特性を持ってくるのは後々困る」
全員の合意を得たうえで、俺たちは潰すことを念頭に置く。ようやっと意見が固まることができたが、それぞれのアーツは分からないまま。風岡と俺のアーツが同じ【同調】でなければまだ打開の手は広がったのだが……。同じチームとなっては致し方ない。どうして先生はこんなチーム分けをしたのだが。
そんな憂慮とは別に、他方ではダイヤとスペードがにらみ合っていた。
どちらも完璧に近しいほど統率のとれたチーム。どちらも狼がいるなんて到底思えない。まさか俺のチームに潜んでいるのか……。
「まさか鳴上さんと相対すことになるとは……。奇縁ですね」
「オレも無響さんと戦うのはイヤっすよ」
リーダー同士が何やら込み入った会話をしている。何のことだが何もわからないが、仲睦まじいようには到底思えなかった。過去に何かあったのだろう。
鳴上のほうは頬に一筋汗を垂らしながら、作戦をチームメンバーに共有していた。
鳴上のアーツは【スコープ】、氷室は【フェイク】だったのを覚えている。恐らく狼や王が誰であるか、突き止めていてもおかしくない。
とりあえずその二つのチームの監視は甲とリルクに任せて、俺はハートとの戦闘に向けて風岡と橘とともに作戦を練った。
「オレが見てた感じじゃ。あそこの攻撃手段は今、金剛しかいないのが確認できてる。まああいつ自体は《アーツ》で攻撃する分、役職が不明だが……。攻撃の役職が不必要な辺り、術師か盾か」
「他はまだ不明ね」
「こっちが常に盾を二つ貼ってないと、即ゲームオーバーだから甲とリルクは行動が縛られるな」
「ま、一人はチーム内で孤立してそうだけど」
金剛の攻撃はHP4ポイント分。盾を一枚張っているだけでは容易く貫通されて一発で詰みだ。たまたま二枚盾を持っていただけ救いだが、何巡もできるほどではない。それに対して向こうはこちらの攻撃が通って、一巡でせいぜい1ポイントを奪うくらいだろう。しかも、回復をされてしまえば到底敵わない。誰かのアーツを使う必要がある。
「「――――!!」」
「? どうしたんだ? 二人して」
「あるんだよ、勝てる方法が」
その時、同時に風岡も気づく。当然だ。なぜなら――――俺たちは同じアーツを持っているのだから。




