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天才様の唯物論  作者: 上海X
諸刃狼と虚構遊戯
49/116

46時限目 裏切り者

俺……館石 巌は痛む拳をさすりながら、嘆息を吐いた。


 期末テストと言われ先生から課されたゲーム、人狼陣取り。四つのチームに分かれて勢力争いをしている状況で、早くも無響透乎の【パンドラ】によってゲームオーバーの危機に晒されていたが、風岡の直感とリルクの機転によってなんとか危機を脱した。

 脱したはずなのだが……現在、その最大の敵たるスペードを真っ向から顔を合わせるように正面に相対している。


 救世主であり、それを犯した犯人であるリルクは現在、頭上に三つのたんこぶを作っていた。見事に全員から拳骨を食らって涙目で甲に縋りついている。


「コウジ~! 皆が虐めてくるんですケド!!!」

「まぁまぁ。でも飛んじまった場所はたまたまだったんだろ?」

「いや? 狙ってここを指定しましタ」


 三→四


「皆ヒドイ……」

「ともかくだ。あと四回分の行動をどうするかにかかってる。スペードは誰も盾を張っていないから無防備だろうが、このチームで騎士は何人いるんだ?」

「…………アタシは術師」

「オレと鋼二はそれぞれ騎士と盾だ」

「ワタシは盾デス!」

「俺の騎士と合わせて攻撃は二ポイント分か……。回復させる分足止めはできるだろうが、どうする?」


 橘と甲は長考している。リルクは反射で「じゃあ攻撃しまショウ!」とのこと。風岡は相変わらず俺が指揮していることに怒りを露わにしている様子だ。


「ダメに決まってるでしょ。残り一ポイントであっちのチーム内に狼がいたら、恐らくソイツの勝ちで終わるのよ?」


 風岡が口をはさむ、言われるまで気付かなかったのが悔やまれるが、確かにあのスペードのチームの中にもし狼がいたとしたらそれでゲームが終了だ。相手を屠るとしたら必ず攻撃が2ポイント以上ではないと結局のところ危険な状態でもある。

 俺たちは安牌を取って、スペードから離れるように《侵攻》を起こした。甲のみは防御を選択できるため、《役職》で盾を一枚張っておいた。


 一巡目最後はダイヤの手番。主軸は氷室零と鳴上雷斗の二人だ。

 正直なところ、スペードの次にダイヤが厄介である。願うならば戦いたくないが、そうも言ってられない。

 ダイヤは何か内輪で話し込んでいる。状況を見て適宜作戦を作りなすチームの結束力は少々羨ましいが、それはあくまで内輪の中で狼がいないという信頼のもとだ。あの中に狼がいるとは到底考えづらい。

《アーツ》を選択したのは一人、他は全員が《侵攻》だ。王と狼以外は隠された二つの勝利条件が分からないため、第一勝利条件である『全てのマスの70%を自チームの色に染め上げること』を目指すのは必定だった。


「なんか皆、《役職》をしないですネ」

「まぁまだ接敵するなんてことは普通はないからなぁ」

「耳が痛いでス、剣司」

「でも術師が行動しているようには全く思えないけどな」


 リルクと橘、甲が三人で喋っている。この三人は割と打ち解けてきたのだろうか。

 リルクは明らかに能天気だが、他の二人は割と掴みどころのないように感じる。印象や特徴が薄い、と言われればそうだが……。まぁこういったやつに王の役が与えられていた方が個人的には助かる。狼であったときこそは怖いが。


 考えていると、すぐにも俺たちの手番が回ってくる。スペードとハートの行動が疾うに終わっていた。スペードは最低限盾を一枚張り、ダイヤの方へと進軍している。ハートはハートでこちらに向かってきていた。


「まずはそれぞれで戦い合うって感じかな」

「良いんじゃない? 上は上で戦い合ってくれれば。敵が減るのは私たちにとっても好都合じゃない」

「ちょっとー! 聞こえてるってば!」


 風岡の発言に対して、別の女子生徒から返ってきた。

 髪を紅く染めている赤眼の生徒――――鬼灯夏燐。ハートの主軸であり、ダイヤの鳴上、氷室やスペードの無響とまではいかないが、十二分に注意すべき生徒だ。

 どうやら風岡の発言を聞いて下に見られたことに思うところがあるのだろう。不機嫌な表情でこちらを睨みつけている。あまり相手を怒らせたくはないが、風岡は敵意剥き出し。嘆息を吐いてどうにか抑えようと試みる。


「颯、口を慎め」

「巌が口挟まなくていいから! それに思ったこと言って何か悪い?」

「悪いに決まってるだろ」

「なぁ……早く行動を決めないか?」


 甲がどうにか場を収めようとする。風岡も俺の発言には一切聞く耳を持たないが、チームの他のメンバーの意見は聞くようだ。全く、どれだけ敵を作れば気が済むのやら。

 風岡は真っ先に行動を選択し、《侵攻》でハートのいる方へ進みだす。俺を含めた五人は最低限盾を張りつつ進んだ。

 これでおおよそ真っ向勝負が二組出来上がるようだ。

 それを察したのか、ダイヤは自らスペードの方へと進軍しだす。

 内心ほっとしていると、何か考え事をしていた橘が風岡の方へと声をかけていた。


「そいえばさ、攻撃とか防御は自分とか他人の王に照準を合わせるのに、占いだけは手動で選択するんだよな」

「……? そうだけど。因みに回復は近くに居れば誰かは分からないけど自分の王か相手の王か選べるようになってるわ。さっき一応スペードが近くにいる時に確認した。でもそれは盾や騎士も同じでしょ。全く要らない機能だとは思うけど……」

「まぁな。それじゃあ――――――」

「ちょっ! お前ら何しようとしてんだよ!」

「信じられない!!」


 橘が何か言いだそうとした途端に、知らない男子生徒の声が教室内に響き渡る。

 声がする方はハートだ。ハートは声が大きい人が多いのだろうか。

 声を荒げていたのは、鬼灯の近くにいる男子だった。


「何って。トテモ合理的な手段で勝ちに行こうトしてるだけだが☆」

「てめえ、そんな方法で良い訳ねぇだろ!」


 鬼灯と男子生徒側、銀杏姉妹と金剛側といった構図でどうやら対立が起こっていた。

 叫んでいるた男子生徒が金剛の胸倉をつかみかける。

 名前の知らない男子生徒はまるでヤンキーのような様相で顔から怒りを漏らしていた。リアルファイトになりかけたところで、先生から忠言を食らう。


「止めろ。ここで喧嘩すんな。言いたいことがあるならゲームの中で、だ」

「……っ! すみません」

「それと金剛、お前の手は別にナシではない。が、今回俺の想定する主旨とは逸脱した行為だ。そこは覚悟の上だな?」

「モチロンです☆」

「…………」


 先生が毅然とした表情で金剛を見やる。あまりこういった顔は見せてこなかった先生だったため、少々意外だった。男子生徒は口を噤んで何かを言いたげだったが、理性が働いたのか我慢していた。俺は周りに聞こえない声量で、ことの全容を見ていたリルクと甲に何が起きたかを教えてもらった。

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