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天才様の唯物論  作者: 上海X
月氷連理と恋愛遊戯
40/116

37.5時限目 月下氷人

「ねーぇ~っ! いっしょ寝よ?」

「いやっ!? あの!? 満弦さん!?」


 ──────時刻としては午前零時を回った頃。

 俺は氷室と卯月を試練に挑ませた後、満弦さんと二人でこっそりと抜けていた。俺達はあくまで修学旅行の監視員たる教師。臨時とはいえ、業務を遂行しなければ問題だ。だから当然、就寝時間の後出歩く生徒がいないかの監視を任されていた。


「全く……眠いってのに教師ってのは面倒な」


 部屋の廊下で一時間ほど監視を行う。部屋から出てくる生徒なんて早々いないと思っているが……。まぁ仕事の上だ、仕方がない。

 時間からして、満弦さんもこの時間に女子の階を任されているそうだ。もうそろそろ部屋から出てきてもおかしくはない。と思っていると、ちょうど部屋から出てきた。

 ――――――酔っ払って。


「は?」


 一瞬思考が鈍る。さっきまで普通に話してたよな? あの後飲んだのか……? いやいや、仕事を任されている状態で飲むだろうか普通。何かしらの間違いだろう。

 ふらふらと千鳥足でこちらに向かってきて、俺の元へ倒れ込む。


「いいにおい〜」


 見たところ、ドレス姿のままであることから、部屋に戻った後に洋酒か何かを呑んだのだろう。至近距離にいるため香水とアルコールの匂いで頭がいっぱいになる。

 どうにか理性を保ち椅子に座らせた。が、こちらをずっと物惜しげに見ながら細い指で袖を掴んできている。

 かくいう俺もスーツの上を一枚脱いだだけなので、中はこの通りワイシャツを着崩している格好だ。


 上目遣いなのが普段の印象と違い余計に危なくなる。これでも今は教職活動中。理性は保たないといけない。


 実際、俺とて相当危ない状況である。零のことを気にかける必要があるのに加え、こんな朦朧としている年下の美女が甘えているなんて、夢の中であってくれと思うばかりである。


 ふと満弦さんに水を買ってこようと提案してみるも、「やだ」と子供っぽい返事で袖を掴むのを止めない。


「どうしたものか……」

「ねーぇ~っ!」


 と、冒頭に戻る。

 俺はつい二、三秒ほど硬直してしまっていた。仮にも今は満弦さんとて看守の仕事があるのだ。仕事や規律に厳しそうな満弦さんがまさかアルコール一つでこんなにもとろけるとは思っていなかった。この人は人前でアルコールを摂取させるべきでないと痛感した。(そもそも俺は共に呑む機会が少ないが)


 このまま椅子で寝かせる訳にもいかない。かといって満弦さんのポーチや身をまさぐってカードキーを使うわけにもいかず……運の悪いことに俺の部屋はここから一番近いという最早何かの間違いといえる欠陥。


 だが、残り一時間弱もこの状態にさせていてはある意味俺に責任問題が追及される。

 意を決して自分の頬を叩くと、満弦さんへ話しかけた。


「満弦さん、今俺の首に手を回すことできますか?」

「んー」


 俺がかがむと、すぐに首に手をかけ身体の力を抜いた。俺は改めて深呼吸をすると、満弦さんの華奢な肢体を両腕で持ち上げる。


(柔かっ……!)

 なんというか、罪悪感でいっぱいだった。

 だが当の本人は気にするどころか更に力を強め身体と身体を更にくっつける。鼻腔に良い匂いが充満し呼吸をするのさえ申し訳なく感じる。


「細いし軽いし……」

「ん~ふみゅぅ~♪」


 何の動物か分からない鳴き声を発しているが、心地よさげなのだけは見てとれた。

 だが、突如接近していた俺の身体に、思わぬ感触が。

 視線を落とそうとするが、そこには満弦さんの頭があるため落とせない。

 だが、肩の────具体的には胸の上辺りの肌に柔らかなモノが当たっている。

 そしてそれは恐らく─────いや間違いなく唇である。


 顔の向きが悪いせいだろう。後ろめたさが心中を蔓延する。

 だがようやく俺の部屋へ辿り着いた。

 カードキーで無理くり部屋を()じ開け、シングルベッドの真ん中に差し障りのないよう満弦さんの身体を下ろす。


 だが、下ろした瞬間彼女は眼をゆっくりと開き、再度ねだる構え。両の手は俺の腰に周りそうになるが、飛び退いて(すんで)で躱す。

 不満気な表情を見せていたが、ベッドの上に放置していた俺のスーツの上着を見つけると、羽織るようにくるみ、安らかに就寝された。


 ……普段から峻厳な人柄であるため、人に甘えることが少ないのだろう。ギャップは中々見ていてクるものはあったが、どうにかして理性を落ちつけた。

 夜中だからだろうか、それとも満弦さんが甘えていたからだろうか。つい寝ている彼女の頭を僅かに撫でると、気持ち良さそうに唸った。


 そして最後に、夢の中でだろう────


「さとる……くん……」


 と、俺の名前を寝言で呟いていた。


作者が書きたかっただけ2

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