34時限目 闇色の夜帳
「咲夜。あの二人スゴかったね。なんかもう見てるこっちが恥ずかしくなってくるぐらい」
「? んー……」
「どうかしたの?」
「いやぁ、あの満弦さんはなんか違うなぁって……」
お腹一杯に食べたわたし達は、廊下を歩きながら自室へ戻っていた。ずっとあの先生と話していた人物が臨時的とは言えこの学校の関係者だったとは驚きだ。
だが、あの人は─────
「満弦さんは、どちらかというと王子様系だと思うの!!」
「……?」
「『私に逆らったら駄目よ』とか、『離れたら、容赦しないから』とかをカッコよくしてくれる人って印象なの」
「あーうんそうだねー(棒)」
「出た咲夜の特殊な色好み」
適当にあしらわれるも、本気で熱弁を繰り返す。苦笑とともに拒否され、もやもやの行き先が無くなり不満気な顔をした。
ふと、眼前を歩いていた友達が急に止まった。衝撃でぶつかってしまうが、その友達の行く先を見ると、言葉に詰まる。
そこに居たのは、パーティードレスに身を包み、長い茶髪を後ろで一つに括った美麗な女性。そして、片手には財布か携帯らしきポーチを握っている。
「あ、矢嶋さ─────」
友達がそう発言しようとするが、わたしの身体はそれらをするりと潜り抜け、行く先に居た女性の手を両手で握る。
「満弦さん!!」
「っ!! 卯月さん」
「下の名前でいいですよ! 覚えててくれたんですね! それよりこの後お時間ありますか!!? お話したくて」
「ちょ、ちょっと咲夜」
肩を掴まれぐいっと戻される。振り替えると不安げな表情でこちらを見ているが、どちらかというと満弦さんを不安視しているというより、わたしの被害者を出すまいとしている様子だった。
行きすぎた行動で相手を困らせてしまうのもよくないと思ってはいるため、身の程は弁えている。だがしかし情動は友達の懸念を越えようとする。
「矢嶋さんに悪いって……」
「矢嶋さん、このコの事は大丈夫ですから」
「────いえ、彼女に少し用があるのだけれど」
「「「「ええぇぇぇ!!?」」」」
まさかの言葉にわたし含め皆が驚きの表情を見せる。だが、それを意に介することなく平然とわたしの前に手のひらを添えた。
あまりの衝撃に、自分でも知らぬ間にその手をとってしまう。
「この娘、少し借りてもいいかしら?」
「問題はないですけど……一応、注意してくださいね?」
「大丈夫です! 嫁でも婿でもどちらでもいけます!!」
「咲夜、こういうとこあるんで……」
少し渋面を作った満弦さんだったが、直ぐ様表情を戻して快く友達に礼を述べていた。そして、踵を返すとカツカツとヒールの音を立てて歩いていく。わたしはそのまま後ろで小さくなっていく友達へ手を振った。
「それで、要件って何だったんですか?」
「慧眼の娘に興味があるってのもあるけど……一番は私の話し相手かな」
「いくらでも話しましょう夜を明かしましょうついでに同じベッドで─────」
「見た目に反して元気ね……」
すたすたと歩いていく満弦さん。ちょうどわたし達が部屋に戻ろうとしていたため、部屋の階には近づいていたのだが、階段を上がることはなかった。
「……どこで話すんですか?」
「私の部屋よ」
「え? でも女子の部屋はもっと上階じゃ……」
「キーは持たされてるけど……成り行きでね」
キー―――――部屋のカードキーとは別に、下階から女子の泊まる階層への間にはキーが必要である。大したことではないが、恐らく勝手に女子の部屋に男子が侵入するのを防ぐためだろう。
口ぶりからするに上階ではないそうだ。よって、思っていたよりもすぐに満弦さんの部屋に到着し、部屋の中へ入る。彼女自身中々の自由をしても良いのだろう。それこそ生徒一人の身を招き入れるくらいの。
すると彼女は、わたしの想定外の言葉を唱える。
「私と、一つゲームをしない?」
○○○
「ゲーム……ですか?」
「そう、ただのゲーム。三つの選択肢から選ぶだけの」
「内容は?」
「貴女は貴女についてを。私は私についてを。相手の思うままの三択から一番合っているモノを選ぶ。お互いが知れて話もできる、一挙両得でしょう?」
「良いですね!」
シングルベッドに二人して座る。満弦さんは、手近なテーブルにホテル内で買ってきておいただろうドリンクを置いた。二つのグラスにとくとくと注ぐ。
二人からは夜景が綺麗に望め、この上ない享楽となっていた。
「じゃあまず私から行こうかしら。貴女は
女の子は好きそうだけど、男の子は好き? 嫌い? それとも無関心?」
「うーん…………無関心ですねー」
グラスに注いだ飲み物を飲むと、初めての口当たりにおかしな表情をしてしまう。その反応に微笑む満弦さんは、とても嬉しそうだった。
「じゃあ次はわたしです! 満弦さんは神藤先生とどういうご関係ですか!? 恋人!? 知人!? それとも……家族!!?」
「こ、ここ恋人って……それに家族なんか……知人! 知人よ」
「えぇ~でも絶対にそれ以上の感情持ってますよねぇ~?」
「それはっ……ぅぅ……」
「え、待って反則可愛すぎる」
とてつもなく乙女で超エロティックに可愛い顔をしていた満弦さん。これは撮って先生に密輸するべきだった。だが、わたしだけが見れたという背徳感もまた堪らないッ!!
アルコールも入ってないのに微酔してきたのか、より可愛いげな表情を見せている。
「じゃあ、咲夜ちゃんが女の子好きなのは先天的なの? それとも知らぬ間に? 理由があるの?」
「んー……どれかというと『理由がある』の感じですかね」
「へぇ……」
「次わたしの番です! 満弦さんは逆に女の子好きだったりしないんですか!? しますか!? しちゃったりしちゃいますか!??」
「わ、私は心に決めた人がいるのでっ! ────! あっ……」
酔っているのか恥ずかしがっているのか、いや明らかに恥ずかしくなって顔がみるみるうちに紅潮していく。見てるこっちさえ火照るぐらいだ。熱くなる純愛に思わずドレス姿の満弦さんを抱き締めてしまう。
「きゃっ!」
「あっ、すみません……物凄く可愛かったのでつい」
「大丈夫よ。それより、今言ったことは絶対、ぜーったい言っちゃ駄目だからね?」
「えぇ~どーしよっかなぁ~?」
「だ、駄目だってばっ!」
暖色のスタンドライトが幻想的に部屋を照らす。二人の微笑と淡く映るグラスはとても綺麗で、ずっとこの時間が続けば良いと思った。
そこで、わたしはようやく話の本筋へ誘導する。
「それで、本題って何だったんですか?」
「……流石、眼だけじゃないのね」
「だってさっき、『一番は』って言ってたじゃないですか」
そう、一番は今このように話すことである。が、当然それだけではないだろうというのが推測だった。その推測が当たったように先ほどとは表情を変えた満弦さん。早速本筋に入る。
「この後時間ある? もしよかったらこれで遊ばない?」
「…………! それって」
「あなたも遊んだことはあるんじゃないかしら。誰かしらの差し金かと思うのも無理はないけど、もし良かったらやってあげて、待ってるらしいから」
「…………」
満弦さんは酷く冷静沈着で、いっそ怖いくらいに淑やかに戻っていた。
その拍子に驚いたのか、はたまた質問に気負いしたのか分からない。だが、わたしは二の句を接ぐことができなかった。




