31時限目 知ったことかと手を振り切って
「カミドー先生の手伝い断ったんだって?」
昼食を終えた僕―――氷室零は、隣に歩く雷斗に話しかけられた。今はグループで行動しているが、残りの面々はあちこちを見て眼を輝かせている。
僕は仕方なく雷斗の質問に応えた。
「―――あぁ。というかあの人の苗字シンドーじゃなかったか? あれ? ジンドーだっけ」
「どれでも良いけどさ。卯月さんとは何か進展あったのか?」
「…………」
「珍しくレーが頼みごとがあるからって言ったから先生にも相談したのに」
「それじゃ責任転嫁だろ」
「あ」
雷斗は「くっそぅ……これじゃ凪さんと同じ……」とぶつくさ呟きがながら歩いていると、不意に「あっ」と大きな声を上げる。
前方を見ると、ちょうど話の渦中に居たジンドー先生が眼の前に現れた。ちょっと後方に僕らとは違い年上そうな、だが身長は高校生の典型そうな女性が立っている。
「あ、先生」
「零か、ちょうどいい。ちょっと来い」
「えぇぇ……。嫌と言ったら」
「無理矢理持ってく」
何この先生怖……。と、言うが早いが雷斗は僕を前に出し、彼のもとへ背中を押した。思いがけない行動に集団が驚くが……一番に状況が掴めていないのは僕自身だ。当の雷斗は満面の笑みで僕を押し出している。僕は二の句も告げずに先生に掴まれた。
「ちょっ雷斗。裏切るのか!?」
「残念だったな。オレはもとよりカミドー先生の味方だ! ってことで頼みましたっす! 先生!」
「サンキュー雷斗。んじゃ悪いな、コイツは預かるから、後は自由にしてていいぞ〜」
「了解っす!」
首の襟を捕まれ、逃げるに逃げられない状況。
グループの皆は唖然とした表情をしていたが、雷斗の「行こうぜ〜」という言葉に引っ張られ、そそくさと退散。僕は後で彼等に拳骨一発入れることを決意した。
そして先程の女性の場所へ戻ると何やら説明をし、(中身は聞きとりづらくて分からないが)不満そうな表情だけは見て取れた。腕を組んで半眼を向けているよう。
渋々といった形で何らかの承諾を得たのか、僕は更に別の場所へ連れてかれた。後ろに取り残される女性は依然ムスッとした表情を作って先生の背中を物惜しげに見つめていた。
「せ、先生! ギブですから!」
「……本当か?」
「さっきは逃げようとして悪かったですよ……」
「謝罪は良いが、────卯月と接触はあったのか?」
「っっ…………」
その沈黙に呆れたのか、歩を止めて人気のない廊下の最奥に着いた。先生の表情を見ると未だに渋面を作っている。野次馬根性だとしてもここまで本気になるだろうか。
だが、それは一転するととても楽しそうに、都合良さげに、次なる言葉の前置きと言わんばかりの口端の上げようを見せていた。
「お前には、これからゲームをしてもらう」
□□□
「ゲーム?」
「あぁ、ゲームだ」
不思議な顔をしつつ、意図の読めないといった表情でこちらに疑問符を飛ばしている氷室。俺は携帯を取り出させると、とあるゲームを選択させた。インストールが始まる。
「お前は俺の手なしじゃ成功しない」
「─────何を根拠に」
「この現状さ」
元より、本当に成功させたいのなら同じグループに入って会話ぐらいしているだろう。それを当人が生半可に終えたいと言うのなら話は別だが────そんなハズはない。渋面で首肯する氷室は、瞳を閉じて承諾した。
「で、これさ」
「これって……」
「あぁ、これはただの恋愛ゲームさ。
ただし、これをつけてもらうかな」
そう言って、あるものを投げ渡す。零は唸ると、その物の意味を理解した。
「VRゴーグル……?」
「そう。これでVR空間に入り込んで、オンラインゲームを行ってもらう。一挙手一投足、声や表情も取ってくれる優れものだ。そしてこのゲームの一番の特徴は、リアルチャットで男女がクエストをこなす恋愛要素があるってことだ」
「っっ! それって」
「あぁ、最初から言ってるだろう」
彼の頬に垂れる汗を見て、口端を上げた。
ニヤケた口で今後に嗤う。それはなんとも出来心と好奇心で出来たのか。面白いことこの上なかった。行う時間は皆の就寝後、折角の睡眠時間が削られるのは少し申し訳ないが、たかだか二日程度ならば問題はないだろう。それとは別でリアルでも攻略は行う。今調べてもらった限りでは、卯月はこのゲームを既に経験しているそうだ。懸念点は一つあるが―――――。
「さぁ、授業の時間といこうか」
口に馴染むそのセリフを切って、ようやく幕を開けた。




