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天才様の唯物論  作者: 上海X
緋石嬢と盤上遊戯
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2時限目 始業の合図

 WGS……World Game Stationの略であり、全世界三〇億人が遊ぶ大人気のゲームステーション。

 パズル、シューティング、ボードゲームからロールプレイング。音ゲーや格ゲー、果ては恋愛シミュレーションゲームまで多種多様なゲームが全て備わっている。

 更にランキング機能まで搭載されていて、プロゲーマーも多数。

 そして他の一般的なゲームにはない機能、『アーツ』というモノが存在する。これは各々の端末に一つ存在する固有の能力であり、これが所以として人気が出たと言っても過言ではない。


 と、ここまで言うと太鼓持ちのように聞こえるのでいい加減止めておこう。

 ともかくまぁ普及した世界常識の一種みたいなものだ。


 そして────


「来たっ!」

「おーマジじゃん」

「すげぇ……ガチの本物だ……!」


 扉を開けた途端、ファンであり生徒であり、敵である人物達は感嘆した。

 なんてったって、『遊戯』()の授業をわざわざ特別に履修する頭のどうかしてる生徒達だ。


『彼等はこの学校で最優秀の二十二人だ。中には一芸に長けた人間もいるだろうな。ともかく、頑張り給え♪』


 些か頭の処置を施すべきだと思うな、俺は。

 まぁいい。年頃の高校生には変わりない。第一印象は大事だろう。

 こほんと咳払いをし、教壇の前に立った。



「俺は神藤知。知ってる通りの人物だ。この授業では俺が担当をしていく」

「「「………………」」」


 一瞬、生徒全員が硬直した様子を見えたと思いきや、教室内に割れんばかりの阿鼻叫喚が咲き誇った。

 思わず苦笑し、感嘆を漏らす。

 無難に自己紹介をするつもりだったが、それではやはりつまらないだろう。事前に計画していた段取りと少々異なってしまうが…………計画を変更する。


「自己紹介の一つでもするべきだろうが、何せ分かりきってるからな。知りたいのなら検索すればいい」


 そう、一流のゲーマーに関してなら、このご時世調べれば一発だ。だからこそ、『遊戯』であるなら()()するのが得策だろう。


「ということで、だ。俺にゲームで勝てたら()()()()()()()。良識の範囲内だが、個人情報だろうと首吊って死ぬだろうと何でもやってやるさ。勿論、全員でかかってきてもいいぜ?」

「「「───っ!?!?」」」


 生徒全員の驚きを無視し、挑発。同時に携帯を媒介として生徒全員に交戦申請。

 俺は持ってきた自前のパソコンを起動す(つけ)る。


「ゲーム内容は至ってシンプルなチェス。アーツなしでな。俺の持ち時間は二〇人だから……()()()かな」

「良いんですか?」「これで勝つ気か……」「死ぬぞ……」


 単純計算で一人当たりコンマ五秒。

 口々にざわめく声を放置しつつ、準備にとりかかる。

 かくいう生徒達も嫌そうな顔は誰一人とせず、続々と交戦申請に応える。

 パソコンにはチェスの盤面が二〇面。生徒は全員黒駒。俺は白で準備をする。

 ふと、頭に過ったあの校長の条件を反芻した。

『敗けてはいけないこと』


 当然、敗ける気はしない。というかこんなところで俺のプロフィールの記録を黒くしてたまるか。

 口に馴染むその台詞で彼等との勝負を始めた。


「さぁ、授業(ゲーム)の時間といこうか」



 ◯◯◯



「で、予想通りの結果。と」

「おう、楽しかったぜ☆ 変人ばっかで」

変人(お前)が言うな」


 とある喫茶店。ちょうど週末だったので、朝から訪れていた。

 俺は目の前の人物が紅茶を飲むのに合わせ、珈琲を嗜む。


「んで、その後どうなったんだ」

「ま、此処に居るのが証拠だ」

「…………普通に授業ができたようで何よりだよ」

「お前人の話聞いてた?」

「報告相談はあくまで了承するけどさ…………開店前に来るな」


 落ち着いた口調で刃を投げる相手は、紅茶を一口飲むとカウンター越しに椅子に座った。

 彼は橋木(はしき)拓真(たくま)。表ではこの喫茶店を経営している。新妻持ちの俺の幼馴染みだ。

 今はまだ開店前で、奥さんの方は俺達の会話をにこにこと聞きつつ店の準備中。なんとも良い妻を持ったものだか。


「仕方ないだろ? そもそも教師になったこと自体が乗り気じゃないことだったんだ。あ、でも赤髪の娘だけは凄かったな。あれは中々……────」

「まぁでも、お前が教師になったって聞いたときはとことん笑ったよ」

「そんな他人事な」


 それよりも俺は、やっとの事で本題に入る。今日はこのために来たと言っても過言ではないからだ。


「ランキング?」

「そう。全国区のランキングの一〇〇位以内に入らせることが条件なんだが、何せ二二人もいるとな……」

「正確には二十一だろうけど……────嗚呼、なるほど」

「……? どういうことだ?」

「いや、こっちの話だ。にしてもその校長はまるで悪魔だな……。強くさせないと駄目、なのに我が身を削ってランクを上げさせるのはアウト。要は生徒に期待するしかない、と」

「全く以てその通り」


 思わず校長の高笑いが脳裏に過り、珈琲を手に取る。

 やはりここの珈琲は美味い。拓真自身俺の好みを分かっているのもあるが、なんと出来の良い味だろうか。一杯五〇〇円では安すぎると毎度思う。

 拓真はというと、やはり他人事のように笑っている。薄情とも取れるが、こう見えて義理堅い。


「とりあえず頑張れ、()()()()()()此方も手は貸すが」

「てめぇも人任せかよっ!」

「ゲームはお前の独壇場だろ。出張費は重いからな」


 拓真は俺に目配せすると、俺はこくりと頷き千円札を渡した。

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