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天才様の唯物論  作者: 上海X
月氷連理と恋愛遊戯
29/116

28時限目 波乱は往々契らされ

「修学旅行?」

「あぁそうとも。来週から二泊三日のハワイ。君にも同行してもらおうと思ってね」

「それって……俺必要なくないですか?」


 突如として言われた事項に心中戸惑いつつも、そんなことかと嘆息を一つ零した。

 昼過ぎの校長室。恒例のように紅茶をすすり話に呼ばれていた。

 夏燐に雷斗、透乎(なお、彼女はまだ未解決)といった荒事があったのだから、そういった系統に俺を連行させないだろうと高をくくっていたのだが……やはりこの校長は紛うことなき姉貴の友人だ。


「それで、何のために行くんですか? まさか旅行中に授業をするわけでもないのに」

「すまないが今回はただの監督さ。何分これほどまでに生徒が多い高校だ。学年外の教員を連れて行ったとしても人が足りるかどうか」

「あー……」


 なるほど。確かに一学年五〇〇人も跋扈していたら扱いきれない。

 渋々承諾し、紅茶をすする。最早慣れきってしまったこの現状に、俺は内心で逆立つ自分を慰めてしまったのかもしれない。


 そしてそれは往々に、抱えていたままの方が良かったのかもしれないと、思ってしまうものだ。




「…………」

「……あの……満弦先生?」


 言わずとも分かるこの覇気、覇王色。常人が見たら腰を抜かして逃げ出すかもしれないほどだ。腕を組んでこちらをじっと睨みつけたまま、瞳の光を失わせ表情からはまるで人間のそれでない冷酷無比な怒りが見えている。

 特に()()で見える今となっては殊更だ。

 理由は至極明確である。この一ヶ月間、安静にしていろと言われていた忠告を無視し、授業に耽り、勝負に耽り、挙句の果てに大会にまで出場して途方もないほどの視神経の酷使をしていたからだ。


「私、言ったよね」

「…………はい」

「無理しないでって。無茶は止めてって。それを忘れてそれだけ負担かけて、あなたは死にたいの?」

「い、いえ……ち―――」

「違うなら何でそんなことばかりするのっ!!!」

「す、すみません…………」



 ただでさえ怒りっぽい満弦先生だというのに、俺は完全に失念していた。

 マサ曰く、「甘々な方だわクソが」と言われているが、これで甘いというのなら本来はどれだけ怖い事やら……。

 切り替えすように咄嗟に脳裏に過った事柄を口に出す。


「そ、そいえば! ウチの高校、来週から修学旅行があるらしくて!」

「……それで?」

「いや、その……ただ、それだけ……です……」

「ふーん……」


 突拍子もなく発言したからか、続く言葉が見つからない。僅かにも安静で居られることを伝えたいのだが……上手く言葉が出なかった。

 満弦先生は暫し考え込んだ様子で唇に手を当てていると、嘆息を一つ吐いて俺の方へ首を向けた。


「私も行く」

「……えっ!?!」

「聞こえなかった? 私も行くって言ったの。ちょうど皆にも休暇も取らせたかったし。都合が良いの」

「で、でも一緒にとは……」

「あくまで監視。これ以上無理しないようにも見張っておかないといけないから。まぁ、その辺りは私からそちらの高校の校長に話をつけておくから」

「は、はぁ……」


 監視という名目では軽薄に反論もできない。

 監視役の監視とは……と若干思ったが、これ以上口を挟まないでおこう。

 もとより俺が無理して行動したのが悪いのだ。多少の満弦先生の勝手くらい俺からもあの人に頭を下げる他ない。


「わかりました……俺からも校長に伝えておきます」

「ん……♪」


 椅子を回転させ、気のせいか機嫌が良くなった様子の満弦先生は俺へ「今日はこの辺りで良いわ」と言い、机に向かい書き仕事をしていた。

 俺はそそくさと出て、大きな溜め息とともに歩きだした。


 □□□


「カミドー先生! カミドーせんせー!!」

「……? あぁ」


 朝方の高校の廊下にて。

「カミドー先生」という人間は脳内で一人しか割り出せないため、横から走ってくる生徒に簡素に返事をする。

 鮮やかな金髪をした半袖の制服に身を包む男子生徒―――鳴上雷斗だ。

 先日、某弾幕ゲームの大会に出場し、見事優勝した人物である。

 現在は師範たるマサのもとでクランに所属し、猛威を奮っているそうだ。


「どうかしたのか? 雷斗」

「先生! 折言って話があるんすけど! というか眼帯外れたんすね」

「あぁ。それで話って? またゲームの練習なら暫くは遠慮させてもらうが」

「そうなんすけどそうじゃなくって……」

「?」


 雷斗にしては曖昧な返事に、疑問符が頭に浮かぶ。ぼやけた返答だと感じていると、説明下手ながらに彼は口を開けた。


「頼みたいのはオレじゃなくて、友達のことっす」

「友達……?」


 そしてそこから、俺は二泊三日の凄絶なる旅を始めることとなった。

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