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天才様の唯物論  作者: 上海X
雷君子と弾幕遊戯
28/116

27時限目 雷君子と弾幕遊戯

「クッソこの野郎」

「あでっ゛」


 鳴上――――いや、雷斗はマサからぶたれると、苦笑いをしながら俺へピースを向けてきていた。


 ×××


『な、な、な、なんということでしょう…………!』

「アイツ……本当にやりやがった♪」

「っ! まさか本当に倒されるとは…………!」

「くっ……あの野郎め」


『鳴上、無響ペアの勝利! 準決勝進出です!』


 歓声と驚嘆が観客席を埋め尽くし、雷斗の勝利が決まった。雷斗すら呆然として勝ちを信じきれていない様子。本来のアーツを使う羽目になるとは俺ですら思わなかったが、見事に勝ってのけた。


 そしてそのまま大会を勝ち進み、決勝を勝ってのけた。まぁ一番の関門がマサとの勝負なだけあって、残りは消化試合のようなものだった。


 今はマサの家で祝勝会を上げている。雷斗はトロフィーを持って照れていた。無響も誘おうかと思っていたのだが、気付けば彼女は誘う間もなく帰っていた。

 雷斗はマサからの詰問と凪のメンバーからの祝賀を受けている。


「本当にすごかったよ! まさかアーツが【フェイク】だったなんて……! 見事に騙された」

「いやぁあはは……騙しててすみません、伏黒さん」

「お前、【フェイク】でもないやろ?」

「ゔっ…………」


 痛いところを突かれたように、雷斗はバツの悪そうな表情をする。

 雷斗の演技は俺から見ても信じられないほど上手かった。雷斗は恐る恐る自身のアーツについて説明する。


「なんでたった二回しか見せてないのに分かるんすか……。

 オレの本当のアーツは【強奪】。対象を奪うことができるアーツっす」

「――――なるほど」

「【強奪】は確か一度見たことのあるアーツじゃないと使用できないっていう縛りがあるやつだよね」

「てことは、恐らくその【フェイク】は友達から借りてたのかな」

「はい、その通りっす」

「……つまり、【強奪】で【フェイク】(使用可能)を借りていて、更に【スコープ】(使用不可能)に書き換えてたってこと……?」

「…………はい、そうなります」


 なんともややこしい。

 凪のメンバー全員を騙して一ヶ月。【スコープ】に限っては純粋は眼の良さで全てをカバー出来ている辺り化け物じみている。

 だが、それら一連のことを精査して、メンバーは怒るでも悲しむでもなく、ただ純粋に称賛していた。


「本当に凄いじゃないか! まさか最後に将輝さんの【乱数調整】まで奪うとは思わなかったよ」

「あはは…………」

「そうか、僕の視界が最後に戻ったのは、最後の最後で【フェイク】を破棄したから――――」

「あれはまぐれの勝ちや! ワシがあの時二択を間違えなければ――――」

「まぁた将輝さんが拗ね始めた…………。でも、予選での一撃必殺はどうしてたの?」


 俺は雷斗が話の輪の中に入れていることに満足しながら机の上に広がった料理を摘んでいた。

 マサは不貞腐れた顔をしながらも、ことの全容を耳に入れている。


「あれは無響のアーツを奪って、性質だけ弾に込めたんです。一撃必殺の弾なんで、その一発が外れた瞬間終わりでしたけど」

「…………飛んだペテン師め。副操縦士の女には本来のアーツを伝えてすら居なかったやろ」

「はい、まだ多分無響は俺のアーツのことを【フェイク】だと思い込んでると思います」

「ほーん…………んで、そこのどっかの教師は全部知ってたかのような口振りだったが」

「ん? あぁ。じゃないと残りの一週間【強奪】と【フェイク】の強化ができなかったからな」


 俺は師範を頼まれた当日、聞いていた。


『だってオレ、使ったことがあるっすから』


 使ったことがある。『使っている』ではない。

 その時点で《対象系》の【コピー】や【付加】の類であることはおおよそ見当がついた。事情を知ることで、協力することになったのだ。

 マサだけは俺をにらみ付けている。


「こんにゃらぁ……」

「まぁまぁ。それとは別に優勝まで辿り着くとは本当に夢にも思わなかったよ」

「いやぁ……。それが、準決勝の相手がなんか急に棄権して不戦勝になっちゃってたんすけど、アレなんだったんすかね……?」

「さぁ…………? まぁ最終的には勝てたんだし結果オーライってことで」


 メンバーのうち一人が楽観的に話す。俺にとっては楽にランキングに入れるということはとてもありがたい。これで確定で俺を差し置いて一位だ。基本複数人で勝負をするゲームのランキングにはあまり載っていないため、影響が少ない。改めて、本当によくやったと思う。

 マサとの会話が終わり一人で料理を摘んでいると、雷斗がこちらへ歩み寄ってきた。どうやら一頻りことの全容を暴露し終えて疲れたらしい。


「お疲れさん、よくやったな」

「…………! っはい!」

「だけどまぁ、予選本選といい、俺が無響と戦っていたときといい、よくまぁ洞察できる眼を持ってるな」

「あはは……これはまぁちょっと理由があって」


 雷斗が渋るように苦笑する。言いたくないのなら構わない、と告げたのだが、覚悟を決めて口を開いてくれた。


「オレ、昔っから人目を気にして生きてきたんです。心の機微ほど手慣れたモンじゃないっすけど、誰がどんな行動をしようとしてるかはなんとなく分かるんす」

「…………へぇ」

「だから一時期人と関わるのが嫌で、ゲームにハマって。で、WGSを知って始めてみればこのアーツで。なんで、常に自分のこと騙しながら生きてきたんすよ」


 ――――――理に適っていると思ってしまった。人の考えてることが分かってしまうということは、人のされて嫌なことも当然分かってしまうということだ。

 そこで与えられたアーツが【強奪】ともなれば、自分を抑制できなくなっても無理はない。だから雷斗は【フェイク】を借りて騙し続けてきたのだ。自分が間違わないようにするために。自分が強くないと思うために。


「じゃあ、なんで俺の授業を受けたんだ?」

「なんでっすかねぇ…………。多分、先生みたいに我慢せず生きたくなったんじゃないっすか♪」

「てんめ……。言うようになりやがって」


ははっ、と微笑んだ雷斗の顔は、嘘偽りない事実を示していた。恐らく本当のアーツを開示するのだって、俺だけじゃ駄目だったろう。マサがいなければ一生封じておくつもりだったに違いない。


「その点で言うなら、マサにも感謝しとくんだぞ」

「!! はい!」


 アイツは本当無意識で人の心をかっぴらくから、良くも悪くも影響を及ぼす。そんな風に思っていると、口に料理を頬張ったマサが眉を吊り上げてこちらに来ていた。


「さっきから話を聞いてりゃワシがその程度で負けるとでも言いたげやなぁ????」

「そ、そんなんじゃないっすよ!?」

「違うも何もあるか。眼が良いってことはそれだけ何かが怖いってことや。お前最初、ワシに殴りかかろうとしたろう。だが止めた。邪魔した理性ってのは自分が相手より熟慮してるとでも証明したいだけのガキの虚勢だ。もっと純粋にゲームを楽しんで、もっと馬鹿正直に生きていいんやからな」

「っ!!」

「でもマサ。お前それで負けてちゃ世話がないぜ?」

「バカ言え次は勝つに決まってらぁ」


 思えばマサは戦いの最中も雷斗の心の内を探っていた。いや、実は最初からわかっていたのかもしれない。与えられた環境の、身の程にそぐわない力の使い方を開花させるために。

 本当に、不器用なやつである。


 祝勝会はそれとなく続き、慰労会を含めマサと伏黒、雷斗を讃えた。俺はそろそろ帰ろう。雷斗も遅くまで居座らせていると、色々とまずい。

 そんなことを思っていると、伏黒はとある言葉を発する。


「鳴上くん、もしよかったらウチのクランに入らないかい?」

「えっ?!?」

「あ、さんせー♪」

「練習で手を抜かれてたなら、もう一度本気でやり合ってみたいしなぁ」

「はーい私も私も! 将輝さんに実質一勝してるんでしょ! 私も戦ってみたい!」


 雷斗を囲み、皆品定めをするような眼で精査する。結果は見えている通り、五人全員が賛成だった。

 当の本人はとても困った様子でこちらに助けてという視線を送ってくる。俺は俺で対して関係ないのだが――――まぁ誘った本人でもあるし、言葉をかけてやった。


「雷斗の判断に任せる。ただし、学業との両立のもと。だからな」

「っ! はい! それならオレもクランに入りたいです!」

「あとは、当のクランのトップ様に委ねられた訳だが――――――」


 マサの方を見やると、渋い顔をして唸っていた。

 皆が視線を集中させる。珍しく酷く考え込んでいるようだった。感覚派の人間にしてはやけに長い。

 すると、マサは熟考の末に雷斗へ質問を投げつける。


「雷、一つだけ問う」

「――――っはい」

「ワシの戦いを見たと思うが――――アレを真似できるか?」

「…………、してみせるっす」

「ならよし、歓迎してやる」



 マサは瞳の奥そこを見て、曇ることのない雷斗に信じることにしたのだろう。最初と出会ったときとは打って変わって、覚悟ができた。心の成長とでも言うべきか。誰かに負けたくないというのはそれだけで原動力になる。

 俺は端から見つつ、マサの演技の下手さに内心で笑った。それに気付いたようにマサは顔を背けるが、むしろそれは露呈だろう。

 全く、弟子に手加減をするなんて馬鹿のやることだろうに。


「サトル、今不貞なこと考えてたやろ」

「別に、なんでもねぇよ」


 さて、いい加減義眼をもらいにいくか。





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