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天才様の唯物論  作者: 上海X
雷君子と弾幕遊戯
27/116

26時限目 嘘つきと最強の二重奏

「【フェイク】……!? いや、だってあの時ずっと【スコープ】を使って」


 伏黒さんは動揺を隠せないでいる。まぁ、攻撃しても避けられるのだが。

 オレは凪さんを追いかけながら、攻撃した。ついでに答える。


「あぁ、アレは全部嘘っす♪」

「じゃあ、どうやってあんな遠距離からの攻撃を……? いや、他のにも全部理由がつかないだろう!?」

「あれっすか? あれは、()()()()()だけっすよ」

「直視って……そんなの無理に決まってる!」

「無理やない」


 伏黒さんの焦りを凪さんが諭す。流石に表情を見ることは叶わないが、明らかにしてやられたことに激怒しているようだった。淡々と凪さんは続ける。


「どんだけ遠くて米粒より小さなものでも移動しているのは画面上に映る。それがどんなことをしているかなんてワシですら分からんが。あの野郎は一目見ただけで正確な座標を理解して撃ち込んだんや」

「そんなこと可能なんですか?!」

「理論上、としか。ワシですらやったことないわ。そんなこと教えたつもりはないが……サトルの野郎、さては最初からわかってたな?」


 酷く逆鱗に触れているようだ。実際、開幕弾は先生から教えてもらった。凪さんの家でご飯を食べている最中に話していたことから着想を得たらしい。もちろん今の先生は片眼である故再現はできなかったが、オレは練習の成果不意打ち程度なら仕留められるようになった。

 問題はそのほか【スコープ】で対処していた事項のことだが。


「なるほど……一連の動作が【フェイク】なら全て合点がいく。一杯食わされたわ」


 凪さんは後方に引いて態勢と作戦を立て直そうとしている。だが、この機を逃せば確実に負けてしまう。伏黒さんはどれが【フェイク】で作られたビルかはわかっていない。その情報の共有がされればまた【影移動】をされることによって攻撃することが不可能になってしまう。


 荒ぶる中でも凪さんの照準は完璧だった。恐らく弾ブレを【乱数調整】によって無くしているのだろう。いつの間に使っていたのか分からないが、本当に神業といっても過言ではない。


「今がチャンス……! 攻めるぞ無響!」

「だから分かってる!!」

「――――いい加減その口黙らせななぁ」



 その発言で、凪さんの機体は急停止した。身の毛がよだつほどの殺気。無響も感じたのだろう。移動の手が止まってしまった。瞬きの後には、ゼロ距離で弾幕の雨を食らっていた。凪さんの声はとても落ち着いていて、とても冷たかった。


「っぶねぇぇ…………」


 機体の幻影が霧散した。幸い凪さんが撃ったのは幻影で作った機体だったが、次はない。無響ははっとした表情で次の攻撃を避けた。止まらぬ攻撃から多少攻撃を食らいつつも、避けてくれている。こちらも応戦せねば負けてしまう。


「そっちが本体か」

「やべっ――――!」


 背後にビルを取ってしまった。しかもそれは幻影ではなくまだ壊していない本物のビル。それを知らない凪さんではない。とても短い合図で指示された伏黒さんはビルの中に瞬時に溶け込み、攻撃を放ってきた。

 当然背後のことなんていきなり避けられるものではない。直撃を食らい大ダメージを余儀なくされた。――――まだ、足りない。


「逃がすかっ」


 オレは振り返ってビルを攻撃する。だが既に相手の機体はそこにはなく、避けられる。瞬時に【フェイク】でまた幻影を作った。凪さんは集中して攻撃する。凪さんのアーツが輝くところが少ないのが幸いだ。凪さんの警戒は大半は解き放たれた。ダメージは大きいが、今討たねば。


「とでも思ってるんちゃうか? 雷ィ?」

「っっっ!!!!」


 脳内を読まれたことに怯み、攻撃の手がブレる。そうだ、凪さんは感覚の強度が尋常じゃない。恐らく人の考えていることも顔に出ていたら見ずともバレてしまう。

 取れる手立てが露呈してしまうのは避けたい。だが、凪さんはオレの意図を無意識で察したのか、ビル群とは離れた方へ行ってしまった。一旦緊張感がほどけたことで、こちらも態勢を立て直す。無響が大きなため息とともに口を開いた。


「これからどうするの? まだ作戦は残ってる?」

「あるにはあるけど……多分バレてる。どうにかしてこっちの土俵に持ってこればなんとか」

「要は今の状態じゃ打つ手なしってことじゃない。今から新しい戦術でも編み出す気?」

「まぁそのレベルじゃないと多分勝てないけど……――――」


 ――――その瞬間だった。気配か、経験か。

 悪い予感がして無響に移動するように告げると、元居た場所に弾が通過した。


「ほぉぉぉ、意外とやってみればできるもんやな。()()()()()

「うっそだろオイ」


 超長距離からの攻撃。もちろん補助装置であるスコープ無し。オレができたから凪さんも……というのはあくまで言い分な訳で。

 オレが一週間かけて会得した技をまさかこの試合中に、しかも一発で成功させるなんてふざけてやがる。本物のビルの隙間に隠れるが、全て壊される。

 幻影の中に隠れようとも、当然凪さんにかかれば予測打ちでも当てに来る。これがトップに君臨する人間の技量。やはり技術の上では勝てそうにないな。


「でも、折角の手間を省いてくれたのは感謝するっすよ!」


 オレはビルの幻影を作った後で、凪さんの機体の直下に向かった。下から突き上げるように攻撃を行う。

 勿論このままでは負けるなんてわかっているし、そう思っている。

 だがそれでも一矢報いるには突撃するしかないのだ。オレは【フェイク】で攻撃弾の幻影を作り、実弾と同時に射出させた。その時だった――――――


【フェイク】が【ブラックアウト】に進化しました。


 全員の画面に共有されるその文字列は確かに、オレのアーツについて書かれていた。


「――――」

「はっ!?」

「アーツが進化した!!?」

「まずいッ」


【ブラックアウト】……相手の視界を暗転させるアーツだ。

 ほぼ全員が驚きの表情を見せる。咄嗟の判断から、凪さんは伏黒さんに【影移動】を使用するよう伝えた。その判断は敵ながら正しく、オレのアーツの効果から外れる。しかもよりによって影とした先は、オレの機体の影であった。

 凪さんはまず真っ先に影からオレを狙うだろう。その動きを無響がただただ茫然と受けることはなかった。

 神回避で避けていき、更にオレの意図を組んでくれたのか、ビルのあった場所へ向かう。


「こっちで合ってるのよね!?」

「あぁ!」

「くっそ! これじゃ相手の策に乗せられる……!」


 全速力で幻影のビル街に突っ込み、その間常に影へ向かって攻撃を仕掛けていた。これで凪さんは影の中から出てくることはできない。


「――――って、()()()()()()()()()()

「チッ! やっぱバレますか!!」


 ほんの僅かの間で凪さんは一つの結論を出し、影から出てきた。攻撃を食らうというのにお構い無しの姿勢。それもそのはず、進化画面は()()に過ぎない。本来のアーツは進化などしていない。まさかのこんな早くバレるとは。


「ビルの幻影が消えてない。ちっと浅はかやったな、雷」

「でもここまで来れば……!」


 嗜める凪さんの言葉を無視して、攻撃を続ける。

 そんな僅かな希望すら、凪さんは許さない。

 まるでオレの考えを分かっているかのように、語りだした。


「ビルの幻影の中に一撃必殺を可能とする手段があるな」

「…………っ」

「沈黙は肯定と見なす。そんで、更にその必殺技はそこの副操縦士のアーツが必要とみた」

「マジでどこまで見透かしてんすか……」

「だが一つだけ不可解なことが一つある」


 凪さんはまだ推理途中だ。恐らく数分と経たず全ての作戦がバレてしまうだろう。手詰みも近い。このままじゃやはり――――負ける。


「もっと楽しめや雷ィ。お前は何のためにゲームに触って、何のためにここに来た? ちったぁ馬鹿になってみろや!!!」


 凪さんは【影移動】はもう使えないことを理解して、純粋な銃撃戦にもつれこんだ。

 オレ達からしてみればこちらにだけ有効な遮蔽物(ビル幻影)があるため有利だ。だが、そんなことを諸ともしないのが、凪さんである。


「うっさいっすよ! 勝負に集中しないんすか!?」

「ワシは戦ってるこの瞬間が一番シビれるんじゃ♪ 本音で話せ! お前は何故嘘をバラしてまでここにいいる!?」

「っくっ…………!」

「幻影だと分かってるなら突っ込んでも問題ないよなァ!?」


 凪さんの怒声が頭に響く。あぁもううるさいな……!

 幻影の中に入り込ませることは計画の一つだった。だが、それは相手が『幻影の中に入る』という認識がないことを予期していた。このままでは当初の目的が破綻する。認識の齟齬によって生み出される若干の硬直。それを生み出せれば問題はないのだ。


 幻影の中で撃ち合う。近接戦では圧倒的に不利だ。凪さんは幻影の外には出ない。完全に中での撃ち合いで決着を着ける気だ。


「どうするの!?」

「今考えてる!」

「なんともつまらん終わり方やのぉ?」


 何かないのか? 何か打開するための一手は。

 何を学んだ。何をすれば勝てる。勝ちにつなげるために何を………………。


 今の状況じゃ必殺技を打とうにも回避されてしまうだろう。本当に【ブラックアウト】が使えたのならば、勝機はあるというのに――――


「(いや、まだ使えるじゃねぇか……!)」

「――――――!」


 その可能性に気付いたのか、凪さんは距離を取った。だが、捨て身で距離を詰める。無響は既にオレのことを信じ切っているようで、指示などもう必要なかった。まるで最初に手合わせした時のように交錯し機体をぐるぐると回転させて競い合う。


(雷は幻影の外に逃げるか? 外の景色が分からないのは少し怖いが、この中に特に問題はない。恐らく認識齟齬のためにここに呼び寄せただけや。それならここで――――仕留める)


「アーツ」

「…………っっっっっ!!?!!?」


アーツの宣言は、極限状態の凪さんの思考を狂わせた。


(幻影の追加やと!? 中でか? それとも外にか? もし中で発現されたら明らかにワシに隙が生まれる。だが外に逃げ外で発現されていた場合も同じ。どうする? フィフティ・フィフティを外せば…………恐らく設置済みの【パンドラ】に触れることになる。まさかここまでワシを追い詰めるとは……避けることは確実に不可能――――――)


 似つかわしくない凪さんの長考。時間にしてはアーツが出現するまでのコンマ秒の暇である。が、凪さんの中では数分、数時間に及ぶ脳の回転をしていた。そしてその中で、凪さんの最大の弱点を付く。先生から教わった、凪さんの防ぎようがない弱点。


『因みにコイツは左裏が弱い』

「くっ……! この!」


 左裏からの攻撃に気付き、凪さんは()()()()

 そして、凪さんは笑う。





「カッ……♪ ワシの勝ちや!」



【フェイク】の施されていない光景。凪さんは勝利を確信し、超長距離からのスナイプをしようとする旨を伝え、伏黒さんに指示を促した。










 ――――――その時を、()()()()()


「なんだ、この景色!?」


 伏黒さんの視界に映るのは、夜の海の景色。

 しかも、海が天井に張り付いて月が直下に位置している。

 平衡感覚を失いかけた伏黒さんは視界の向きを戻そうとして機体を回転させる。その行動に凪さんの理解は遅れた。


(まさかコイツ、()()のだけ――――!)


 伏黒さんの画面のみ、視界を暗転させる。移動しても移動しても変わることのない景色に誘うと、次の段階へ進む。

 凪さんがそれに気付いた時にはもう遅い。立て続けに無響にアーツを使わせる指示を飛ばした。

 そして、脊髄反射で凪さんがアーツを使おうとする、のを更に阻止する。


「「アーツ――――」」

「クッ――――ソ…………ッッッ!!!」



 瞬間、伏黒さんの視界が戻る。意図的にバーティゴに入らされていた伏黒さんからすれば、反応が遅れることは当然だ。そして直った時にはもう遅い。


【パンドラ】が発動する。通常ならば乱数によって決められるアーツ。凪さんの【乱数調整】は発動しない。

 凪さんはおおよそ答えが出てしまった時だったろう。時間的にも耐久値的にも本当にギリギリの勝負。この一瞬の隙を生み出すための凄絶な過程。


「オレの、勝ちっす」

 オレは【()()調()()】を使い、【パンドラ】を凪さんにぶつけた。



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