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天才様の唯物論  作者: 上海X
雷君子と弾幕遊戯
26/116

25時限目 アングラアンク

 本選当日――――――オレは震える手を握って舞台に向かった。

 後方には無響がついてきている。目の前には煌々と輝く舞台があり、その向こうには凪さんと伏黒さんが控えていた。少し隣には予選でいた司会者が運営を行っている。

 横を見れば、そこには人で埋め尽くされた観客席があった。


「大丈夫ですか? 鳴上さん」

「大丈夫っすよ。今この舞台に立ててることには興奮しかないっすけど」

「いつもの様子で何よりです」


 苦笑気味にオレへ顔を向ける無響は、隣へ立った。機体を操作するための機械は今、目の前にある。凪さんはもう既に準備を整えていた。司会者がだんだんと進行を進める。


『さて、予選枠を勝ち取ってきた鳴上、無響ペア! 一番手であり、更に対戦相手はあの『凪』のトップ千鳥将輝! 意気込みはいかがでしょうか!?』

「勝つっすよ。絶対」

「おぉ、言うやんけ。威勢だけじゃないことは今から証明してもらわななぁ」

『では早速始めていきましょう!! 改めてルールの確認をいたします!

 ルールは操縦士、副操縦士での二人で操作する固定機。アーツは双方使用可能。フィールドは予選同様に昼の市街地。相手の耐久値を先にゼロにした方が勝利となります!』


 司会者はマイクを外すと、優しく案内してくれる。こういう運営をする人はやはり優しいのだろう。無響は既に準備OKの様子で今か今かと待ちわびていた。

 ふと観客席にはカミドー先生と『凪』の他のメンバーが見えた。皆オレを見て声援を送っているように見える。この一ヶ月あまり、十全に特訓したんだ。先生から教えてもらった切り札もある。それに、凪さんを倒す手段も。


『さて、勝利の女神はどちらに微笑むのか!? それではゲームスタートです!!』



 その合図とともに、ゲーム内でも試合が開始した。

 今回は一対一。因みにこれまで凪さんと勝負をして勝ったことは一回もない。

 だがそれは一週間前までの話。オレは凪さんと先生――――トップからの師事を受けている。これで負けるようならば名折れも甚だしい所だ。


 ゲームスタートと同時に、無響は作戦通りにビル街に潜った。そして開幕早々アーツを切る。


「アーツ」

「…………?」


 凪さんは一瞬疑問符を飛ばす。

 オレのアーツは無論相手に知られている。隠す必要もないだろう。といえど、凪さんたちはどのように使うかは分からないはずだ。そもそも、まず交戦状態に至る所か、普通なら相手を視認すらできていない状態だ。そんな中で何故アーツを使ったのか。

 すぐに凪さんは気付く。即座に伏黒さんに避けるよう指示するも、無駄だった。開始から十秒と経たずに、凪さんの機体へダメージが入る。


「コイツ……! この遠距離でいきなり当てよった!」

「くッ……これは流石に予想してなかったな。まさか自身のアーツで補助装置(ゲーム内スコープ)の代わりをするなんて」

「感心してる場合か! 避けい!」


 二撃目を許すまいと、今度こそ指示通りに動く伏黒さん。流石にこの手段は開幕の不意打ちにしか狙っていなかったため申し分ないが、初手の攻め手としては最高だった。問題はこれからである。


「流石に射線が分かれば位置が分かる。サトルに教えられんかったか!?」

「わかってますよ。だからオレは退()()()()()()攻撃してるんす」


 以前問題視されていたヒット&アウェイ。通常弾幕fpsで行うなんてことはあり得ないのだが。オレにはこの手法が一番適していた。当然警戒しながらも最高速度で向かってくる凪さんには追い付かれてしまう。


「やっぱ、はえぇぇ…………!」

「どうするの!?」


 隣から声がする。もちろん無響でさえここまでの速さは想定外だったようだ。ビル群の中に隠れるという算段もあるが、当然コントロールはあちらの方が数枚上手である。減速なんてしようものなら真っ先に討ち取られるだろう。考えている途中に、向こうからの一つの宣言。


「アーツ」


 伏黒さんの声だった。伏黒さんのアーツは一応見たことがある。

 とても単純で、乱数の入る余地のない、だが対処のしようがない一手。

【影移動】……対象とする影に入り影と影を移動する。その間相手からは視界に入ることはなく、またどこから来るのかは伏黒さん本人しか分からない。

 伏黒さん曰く、【トレース】から進化したアーツのようだ。モノ同士の交換や解釈の幅は狭くなった分、効率化されており影の中に潜んでいる最中はそのほかのステータスも上昇する。


「どこから来るんだ……」

「反撃の準備をしておいてください」


 そんな無響の言葉も置き去りに、背後を取られる。全弾ヒット。

 それもそのはず、凪さんにかかれば相当なことがない限りコントロールがミスすることなんてまずありえない。


「カッ! 素人が」

「チッ…………! 無響」

「わかってますから!」


 伏黒さんがいる限り、モノを背後に置くわけにはいかない。たとえビルでなくとも、地表付近に居れば間違いなく背後を取られる。特に今回は市街地。障害物など山のようにある。こういうことも含めて凪さんは伏黒さんを連れてきたのだろう。つくづく厄介な人だ。


 障害物を壊していては相手に狙われてしまう。【影移動】中はたとえその影を撃ったとしてもダメージは入らないという仕様がある。しかも、影の中から攻撃をされてしまえば終わりだ。

 通常のルールであればこれだけでこちらとしては手詰みになる。全く、これだからプロゲーマーは。オレは空中に坐した状態で、直前に影に潜んだ相手の構造物へ攻撃した。


「まぁ、そうくるわなぁ」


 構造物を壊してしまえば影は消える。必然的に外へ出されるのだ。そこを狙うしかない。


「やっぱ【スコープ】で見られてる限りは影の中を移動してもバレてしまうか」

「何回見てきたと思ってるんすか。そのくらい余裕っす!」

「ホント、あなたの眼はイカれてるわ」

「………………」


 凪さんは黙りこくって、何かを考えていた。自然と少し表情が強張ってしまう。だが、凪さんとてオレの表情を覗くほど悠長に構えてはいないだろう。反撃の隙を与えまいと、攻撃の限りを尽くしていた。無響は再度オレへ声をかける。


「次の手、考えてるんでしょうね?!」

「もちろん!」


 段々と相手が隠れている建物という建物を壊していく。どちらもあれから攻撃が当たることはなかった。撃ち合いは当たることなく進んでいる。無響のコントロールにも改めて敬服した。

 因みに無響の【パンドラ】は今回も使えない。理由としては至極単純。


「お前の連れのアーツは疑似的にワシが封じてある。今は完全に伏黒と雷の勝負や、これで手を終わらせんと、だんだん不利になるぞ」

「…………っ! はい!」


 凪さんのアーツ【乱数調整】の所為で使った瞬間こちらの座標を指定されて一瞬で負けに終わる。十全に警戒しているだろう。更に、凪さんはオレが予選で使った一撃必殺の手も警戒している。それだけ思考を割けば十二分に行動がしやすくなる。

 まだこちらの手を明かしていない。勝機はゼロではないのだ。


「アーツ」

「おいおいそんなポンポンアーツを使用してええんか? お前の【スコープ】はワシのカウンターである【パンドラ】に必要になるんやぞ」

「わかってますよそんなこと! けど、その必要は全くないっすから♪」

「…………?」


 酷く不満げに話す凪さん。影での移動にもいい加減慣れてきた。ビルは相当数破壊した。もうそろそろかかる時だ。

 伏黒さんは慣れた手つきで【影移動】を行おうとした。当然、それはビルからビルへの移動を行う。


「ッ!? あれ!?」

「ばっ! そこは」


 成功すると確信していた伏黒さんは、別のことに気を取られている凪さんの指示を受けることなく動いていた。凪さんにとっては盲点だっただろう。アーツの使用は失敗に終わる。理由としては至極当然、そこにビルの影がないからだ。


「そこは一回()()()()とこや!」

「えっ!? じゃあなんで、これは…………??」


 笑みが滴る。凪さんは確信したのだろう。

 ビルの影がなかったのではない。ビルそのものが()()だった。一度壊して、壊した瞬間にアーツを用いてすぐさま元の位置にあったかのように誤認させる。

 当然相手に気付かれてしまえば終わりだ。だが戦闘中にいちいち同じ場所を巡って記憶するなんて芸当ができるのは先生か凪さんくらいしかいない。

 凪さん本人はオレの()()()()()()について疑わしく思ったろう。


あいつ(鳴上)、本当にマサを騙しやがった♪」

「雷、お前のアーツは【スコープ】なんかやない。本当のアーツは――――」


 いつからか――――そんなの、()()()()()()()騙している。

 人力でスコープの代わりをするのは大層疲れたものだ。理論上できるとはいえ、それを実行するかはまた話が変わってくる。無響も騙してしまっていたのは仕方がないが、予選の時に詫びた。

 オレは渾身の笑みで凪さんに向けて声を張る。


「そうっすよ。オレのアーツは――――――【フェイク】っす」

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