24時限目 大人の背中は案外小さい
『NPC機、墜落を確認! 討ち取ったのは、鳴上、無響ペア!』
『おおおおおぉぉぉぉ!!』
観客席からも異様な熱狂が発露する。
私は一瞬の出来事すぎて何が起こったのか何もわからなかった。咲さんと千鳥将輝は画面を食い入るように見て、考えていた。
咲さんが私へ声を掛ける。
「夏燐ちゃんの目には、どう写った?」
「えっ……。いや、何も。急にビルがでたと思ったら攻撃が当たり始めて、二回目には終わってて……」
「素直だね。いや、そこがいいところでもあるんだけど」
「あれはそんなんやない」
千鳥将輝は汗を頬に垂らしながら、出来事を反芻する。
「最後のトドメを刺す前、ビルが消えた。そもそもあのビルは誰かしらの【フェイク】で作ったビルの幻影や。もちろん、雷は【スコープ】を持っているから対処はできるやろう。だとしても、や。NPC機の耐久値が分からんとはいえ二撃で倒せるような脆い作りになってるとは到底思えん」
「そう、そこなんだよね。いや、サトルが乗ることを想定してたら多分脆くできてたんだろうけど」
「【スコープ】で未来視して弾を集中させたか…………それなら結構、アイツはやりおるな」
咲さんと千鳥は鳴上というクラスメイトの行動を考察する。たまたま脆かっただけじゃないか? 砲撃のコントロールが上手かっただけじゃないか? 別にそれくらいなら考える余地はないというのに。
私は話について行けなくなったため、考えることをやめた。
×××
「よくやったぞ、鳴上」
「本選出場おめでとう!」
「凄かったよ!」
「とりあえず及第点だな、雷。持ち前のアーツの使い方も結構上手くなってきたな」
「ありがとうございます!」
『凪』のメンバー全員と、先生が揃って本戦出場を讃えてくれた。
時刻は午後の四時。オレたちは凪さんの部屋で集まっていた。
「聞きたいことはたくさんあるが、まずその前に」
凪さんはオレを見るまでもなく、カミドー先生に向かってジト目を向けた。
先生も先生で思い当る節があるようで、汗をだらだらと垂らしながら目を泳がせていた。その件についてはオレからも言を挟みたいところだ。
「なんでお前さんが中に入って操縦してるんや? えぇ????」
「い、イヤァあれはめっちゃくちゃ高性能な試作段階のNPC機だったナァ……」
「いや、無理があるっすよ流石に。そもそも本来入れない当たり判定の中に潜ったのも、事前にアーツを発動させてないとできないっすよね?」
「すみませんっした」
「マジであの中を神藤さんが操縦していたとは……」
「コントロール精度のおかしさは異常だったしねぇ?」
伏黒さん等が揃って声を漏らす。まぁ実際に対戦していないと高性能NPCと言われてしまえば納得してしまうかもしれない。だがビルを破壊して間接的に倒そうとしてくるのは紛うことなき人為的戦術だ。逆によく観客と参加者を騙したと思う。
おおよそこのくらいだと思っていたのだが、凪さんはまだ続ける。
「サトル。まだ隠してることがあるだろ」
「――――やっぱマサには騙せねぇか」
「え!? まだあったんすか?」
「なんとなくサトルの機体の速度がおかしいと思わんかったか?」
「――――!」
確かに、始まった瞬間からなんとなく違和感は感じていた。追いかけているときやビル群の幻影の中では分からなかったが、遠目から見たら他の実機と段々距離が離れていっていた。だが、そんなものただの機体の性能だろうと思っていたのだが……。まさか――――先生は肩身が狭くなったような形相で答えた。
「はい、ずっと【トレース】を使ってバレない程度にフィールド移動をしてました」
「やっぱか!」
「へ?!?! それってどういうことっすか??」
「文字通り、《《毎フレーム》》アーツを使用して本来の移動距離よりほんの僅かに先の座標軸に位置替えしてたってことや」
「ぶっちゃけて言うと俺は移動を全部アーツでやっていた」
「は、はぁぁぁぁ!?」
そんなもの理論上絶対に追いつけない。ムリゲーもいいとこだ。
というか確かNPC機のアーツ使用は不可能になっていたんだよな?
いや、今回は【トレース】しか使っていないのだから、多分先生ではなく別の誰かのアーツを間借りしていたのだろうけど。言われるまで気付かなかった。
一通り暴露した先生は酷く腰を低くして、「このことは言わないでくれ……」とその場にいた全員に口止めした。
言っても誰も信じてくれないだろうけど、この先生やはり大概のブラックリストを制覇していそうだ。
「まぁそんな中でよく俺を討ち取ったな、鳴上」
「無響の助力も大きいっすけどね」
「ってことは、次はワシとの決戦やな」
「……! はい!」
「本選は確か来週だよな。マサは誰を副操縦士に置くかもう決めたのか?」
「あぁ、今回は伏黒を連れてく」
「……! 分かりました」
「今回は伏黒かぁ」
「頑張ってね、伏黒くん!」
伏黒さんが少し照れ気味に後頭部を書く。副操縦士としての腕前は、オレの手伝いをしてくれていた時に見ていた。一言で言うとトップ層に君臨していてもおかしくない技量だ。今この場にトップ2がいなければ、間違いなく一番上。オレじゃまず攻撃を当てることすら難しい。まして本番で手加減なんてしてくれはしないだろう。
「雷と戦うことになるが、良いな」
「はい、覚悟はできてます。よろしくね、鳴上くん」
「はいっす! 本選ではよろしくお願いします!」
「トーナメント表はもう出てるんだよな」
「あぁ、今回はランカーが七人。この中にマサも含まれる。因みに今回俺は出場しない。そして一般参加者の中から一人――――要はこの枠が鳴上のポジションになる。そして、一対一での勝負だ。肝心のトーナメント表は……あった」
カミドー先生の携帯からトーナメント表を見せてもらった。聞いたことのある名前もちらほらいる。そしてオレと凪さんの勝負は……
「初手かいな」
「まじっすか?」
最悪三回目に当たるものだと想定していたのだが、そんなことはなかった。
初手から凪さんとの勝負だなんて……。この中で考えれば一番の難敵だというのに。
「来週は早いぞ、それまでに首を洗って待っとくんやな」
「勝った気なんてクソ早いっすよ。まだ始まってすらいないんすから」
「そうだぞマサ。これからの一週間は俺が手解きするからな」
「なっ!? なんでや!?」
凪さんが驚く。というかオレも驚いている。急過ぎる話に誰もついていけてなかった。
先生はさも当たり前のことのように告げた。
「そりゃ当然だろ。マサを実際の勝負相手にするつもりはなかったけど、ここまで来たら俺も手伝わないわけにはいかない。これまでは感謝してるが、教え込んでる最中に悪手を釣られたらたまったもんじゃない」
「んん……。言い分はわかるが、大丈夫なんか? まだ片眼で慣れてないんじゃ」
「予選じゃあんな感じだったが教える分には問題ないレベルまで慣れてきた。それに、本選じゃあんな奇手は打てない。特にマサ相手じゃな」
「なるほど。なら了承した、せいぜいワシの納得できるレベルまで到達させてくれや」
「おう」
先生と凪さんとの会話が終了する。どうやらオレはこの後先生に教鞭を取られるとのことだ。いや、ハナからそれが順当だったのだが……。
「覚悟しろよ鳴上、この一週間は長くなるぞ」




