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天才様の唯物論  作者: 上海X
雷君子と弾幕遊戯
24/116

23時限目 金色の雷鳴

 予選の開戦の合図が鳴ったと同時に、エリアに五〇〇機のポインタが着く。

 司会者の声はこちらから僅かに聞こえているものの、あまり状況を知る手にはならない。それよりもどちらかというと、コミュニケーションの取れない副操縦士(コパイロット)に気まずさを覚えていた。


 オレはそもそも無響さんと話したことはない。カミドー先生とのバトルを見せつけられて、特別劣等感を抱いているといっても過言ではない。そんな中一緒に戦うことになるなんて……先生も先んじて一言言っておいて欲しいものだ。そんなことを考えていると、無響さんから発言。


「鳴上さん、NPC機を【スコープ】で見つけてください」

「――――いや、その必要はなさそうっすけど」


 オレがアーツを使わないでいることに疑念を抱いている様子だったが、眼前の様子を見て得心していた。なんせ、そのNPCは早くも複数の機体に狙われこちらに向かってきていたのだから。


「早くもチャンス到来……!」

「――――――っ!」


 オレが主砲を発射しようとした途端、画面が急に別方向へ向く。移動は完全に副操縦士に任せていたため、無響の原因だ。オレは無響に急いで問い質す。


「ちょっ! なんで避けるんすか!」

「馬鹿ですか貴方は。少しは頭を回してください!」

「急に罵倒された!?」


 ジト目でオレを見る無響に驚きの表情を見せると、残り実機数を指さされた。

 そもそも残り実機数なんて何故書かれているのか。NPCが攻撃しないのだから墜落する原因が見えない。だというのに、実機の数は『472』と減っていた。


「これって…………」

「更に向こうを見てください」

「――――っ!」


 先ほどまでオレ達の居た場所。更に言うとそこからNPC機の居た場所を直線で結んだ延長線上の実機が墜落している光景が広がっていた。

 単純に考えるならNPCが墜落させたように見える。が、真相はまず違う。

 原因として考えられるのは――――


「同士討ち」

「これ本当に中に人入ってないんだよな…………?」

「動き方に何か見覚えはなくはないですが…………」


 酷く既視感を覚えるオレと無響は、最悪のケースを考えつつも思考を振り払うことにした。いや、司会者があぁ言っているんだ。中にカミドー先生が入ってるなんてそんなわけないだろう。

 オレは一旦NPCを追うことをやめ、無響にアーツを使用するよう提案する。


「無響のアーツを使っちゃダメなのか?」

「私のアーツは基本的に一ゲームに対して一回しか使えません。さらにこんな同士討ちの激しい所では無駄打ちになる結末は明らかです」

「クッソ……」


 オレのアーツを使っても誰がどんなものを持っているか分からないためリスクが高い。遠目で常にNPC機の反応はつかめているが、実機がNPCを先頭に龍のように連なっている。同士討ちの数が増え、今では実機数は『340』まで減っていた。

 ここまで来ると、プレイヤーは一つの考えに至る。


「気を付けてください。今からは()()()()が発生します」

「…………ッ‼」


 競う必要のない争い。ただ生き残れば当然NPC機を討ち取れる可能性が高くなる。そんな安直な考えに至ったプレイヤーが争いだす。このまま無闇にNPCを追っていては、いずれ狩り取られてしまう。


「どうする?」

「一旦激戦区から離れましょう」


 無響の提案でビル群の中に隠れる。一部の実機はそのままNPCを追いかけているが、一向に追いつけていなかった。やはり試作機ということもあり早く設定されているのだろうか。

 ――――そんな時だった。誰もがNPCを追い、または追うことをやめていたその時に、NPCが()()()を発したのだ。


「――――はっ!?」


 一瞬のことでパニックに陥ったオレは、なにもできずに硬直する。倒壊されたビルの潰される寸前、咄嗟に避けてくれた無響は、彼女自身も何が起きたか分からずに混乱しているようだった。もしオレが副操縦士だったらあのまま終わっていただろう。

 ルールではNPCはプレイヤーに攻撃はできないはず。普通に考えれば攻撃弾が搭載されていないと考えるのは妥当だろう。だが、今の攻撃で理解した。


「直接攻撃ができないだけで、間接的には攻撃してくるってことか…………!」

「っぜったいあの中先生入ってる!!!」


 間接攻撃をしようなどという思考をまずNPCがするはずないだろう。

 無響の泣き言に激しく同意しながら、壊滅していくビルを縫うように避けていった。

 気付けば開戦から十分が過ぎていた。残り実機数は三桁を切るか切らないかというところ。だというのにあのNPC機には誰も一撃を与えられていない。

 常識的におかしいだろう。一撃くらい誰か入れてろと思うが、中の人間に大方予想がついてきたため考えを喉元で止めた。


「どうするの? このままじゃビルもなくなって隠れる場所が……」

「っ…………」


 ビル群と名の付く場所なのに、あれだけあったビルが残り数個。

 実機同士の戦いでも壊れたのか。そんなことを考えている場合ではない。なんとかしてあのNPCに一撃でも与えなければ。――――――無響が口を開ける。


「なんかあのNPC、同じところに居ない?」

「だからナニ!? 今焦ってるんすけど!」

「さっきまでずっと色んなところに動いてたのに、何かおかしい」


 急な熟考。オレは考えている暇もなくこちらを狙ってきた実機に応戦して弾を打つ。

 その時、無響の視界にはおかしなものが写った。確かに他の実機が放った攻撃をかき消された演出。


「ねぇ、NPCに向かって撃ってみて」

「はぁ? 打っても避けられるにきまって――――」

「いいから」


 何か考えがあるのだろう。慌てながらも俺はアーツで正確に照準を合わせるようにしてNPC機に向かい打った。

 NPC機もこちらに狙われていることも分かっていただろう。だというのに一ミリも動かずに滞空していた。弾は当たる――――――


「っは!? なんで?!」

「やっぱり」


 ハズだった。NPCは無傷で、しかも弾は見えない壁のようなものに吸収され消えた。


「おかしいだろ!? なんだあれバグってんじゃないのか!?」

「違う。誰かのアーツ」


 淡々と、冷静に無響はたしなめる。俺は高揚と動揺でそんな考えに至らなかった。

 無響は一つの仮説を出す。それは『当たり判定』の変更だった。

 考えてみればあれだけあったビルが突如として消えるのはおかしい。何かしらの細工がされていたのだ。最初に一つだけ『ビル』とそれに付随した『当たり判定』が乖離されていた。本来はビルを壊せば当たり判定はなくなる。だが、そのビルだけもともと形作られていないとしたら。


 ――――――更に言うならば、『当たり判定』の元である『ビル』だけが別の場所に置かれていたら。


「い、いや! だとしてもその当たり判定がある空間の中に入るなんて誰が……!」

「あなたも前に見たでしょう。【トレース】のアーツを使えば、『ビル』のみ移動させて、しかも対象だけを空間内に()()()()することができるんだから」

「……!」


 アーツの使用者が誰か分からない。が、それの使用者はとんでもなくイカれてる。本来ならば使用者本人しか解除できないのだから。

 だとして、理屈が分かったとしても対処の方法なんてどこに存在するというのだろうか。改めて無響に問うた。


「さっき言ったでしょ。『当たり判定』はビルに付随しているの。ならまだどこかにビルが存在しているはずよ」

「! ってことはそれを壊せば!」

「えぇ、あのNPCは倒せるようになる」


 ビルは残り僅か、木を隠すには森の中という。オレはすべてを壊しにいった。

 だが十中八九、そのNPCは動かなかった。当然だ。あのNPC自らが当たり判定の違和感を気取られないようにビルを壊していたのだから。もともとビル群の中にある訳がない。だとしたら考えられるのは一つ。


「無響‼ 海だ!」

「なるほど……あなたにしては冴えてるじゃない!」


 一機だけNPCに逆走し、海に向かう。オレの予想通り、海の中にスコープで覗こうとすると、ビルの影が見えた。無響に指示し、そのビルを破壊する。

 すると、向こう側で銃撃の音が活発になった。


「ビンゴ! だけどこれじゃ競争相手に塩を送っただけだな」

「あの先生がそんな簡単に死ぬと? それに、今これだけ実機が少なくなったなら、アレができる」

「アレ?」

「【パンドラ】の位置を【スコープ】で判明させればいいのよ」



 ×××



「はぁぁぁ!? できないってどういうことよ!」

「いやぁそれがそのぉ……」


 無響に事情を伝えると、無響はとても苛立たし気に唇を尖らせた。


「そういうことは早く言って欲しかったのだけど……」

「とりあえず今はそれは使えない。けど相手の補足はできるから、存分に使ってくれ」

「あなたって化け物なんじゃない?」


 無響からの小言を受けつつ、何も言い返せないオレはまっすぐ突き進んでくるNPCに向かって対抗した。相手はこちらに直接攻撃はできない。加えて間接的に攻撃する手段もなくなったのだ。残りは捕らえて打ち倒すだけ。

 まぁそれが一番難しいのだが。


「ならそれで手立てを考えるしかないじゃない」

「でもどうやって? 【パンドラ】を当てなければ勝機はないんだろ?」

「こうなったらヤマカンで当てるしか……」

「いや無謀すぎるだろ」


 無響がなんの手立てもなく無理難題をふっかけてきたことに若干引く。焦ると優秀な奴でもこんな風になるんだな……と思った。まぁ凪さんがあぁだったしなんとなく納得がいく。


「まぁ、こっからは技術力の見せ所って感じか」

「できるの? 相手は先生よ?」

「単純な撃ち合いなら伏黒さん相手でも善戦はできた。その上相手が直に攻撃できないのならあとは粘ってやるだけだろ」


 そう言って無響に追いかけるよう指示する。

 百余名が追いかける中に追随する。誰の攻撃も届かず、NPCは飄々と避けているだけだった。

 オレも狙いを定めて、撃ち始める。


「チッ……惜しい」

「単純な予測撃ちじゃ絶対無理よ。あの人はそんなこと余裕で織り込み済みで動いてくるんだから。それに、今は障害物もない」

「どうすれば……」


 障害物がない限り、絶対にあのNPCに追いつくことはできない。そういうのも考えてビルを壊したのだろう。完全に為す術無しだ。


「誰かのアーツで作ってもらえればまだマシなんだけど…………」

「……っ! 無響!」

「!!」


 その発言に無響自身も驚く。オレはアーツで()()()()()()()()に突っ込んだ。

 それはオレ達の視界だけではない。競争相手やNPCにも同様にビルが写っていた。まるでリスポーンしたかのように同じ配置に。

 皆はすぐに避ける。NPCも同様に。ぶつかれば当然損傷するからだ。だが、オレはその限りではない。


「中身が()()()()()()避ける必要ないからな! 無響頼む!」

「言われなくても!」


 当たり判定のないビルの幻影を突き抜け、NPCに届く。そして真正面に控えた相手に、今度こそ砲撃を放った。


「っしゃぁ! 命中!」

「油断しないで! まだ倒れてない!」


 NPCは当然オレ達を避ける。最初と同様にNPCの後ろに張り付いていた実機の弾が当たりかけるが、無響は慣れた手つきで避けてくれた。


 オレ達はまたビルの中に隠れ、再度相対す。今までの攻撃では今の流れを数回繰り返さなければ勝てない。だが、そんなことを悠長にしている暇はない。そして先程打って分かった、必ず当たるという確信。

 なんとかして一発で勝つには――――この手しか無い。


「無響、ちょっと悪いな」


 眼前でNPCが避けようとする。だが照準はもう合っていて間違うことなく当たる。たとえどんな挙動をしようとも、今のオレなら当てられる。


「えっ……」


 その瞬間、ビル群の幻影は一瞬にして消えた。誰もが一瞬の硬直を見せる。無響も。NPCすらも。

 アーツの使い方は各個人の解釈の方法に重大に起因する。それは誰もが知っている常識の一つであり、またそれ次第で本来の用途とは別の手法で発現させることも可能となる。


「アーツ」


 それは特に、『凪』のメンバーの使い方の幅広さに刺激されたことで本来の使い方とは別の手法を編み出すに至った。

 ――――ただオレだけは、しっかりとNPC(先生)を狙い定めて。


「ちょっと借りるわ」


 ()()()、撃ち落とした。

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