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天才様の唯物論  作者: 上海X
雷君子と弾幕遊戯
23/116

22時限目 反抗的な協力者

「遅いですよ。鳴上さん」

「す、すみませんっす! 無響……さん?」

「さんで良いです。早く行かないと、列も長いんですから」


 ――――無響透乎。

 漆黒の長い黒髪に、血の色と表現すべき色合いのリボンで一つ結びにしている女子高生。普段は流麗な所作と非の打ち所のない完璧さでコーティングされている彼女は、カミドー先生に対しのみ病的なまでの執着と殺意を持っている。

 その強さはかの授業の一端で見られた以上、軽視する者はいない。オレもその内の一人であり、ここ()()のパートナーとしては最高なまでに頼りになる人物だと考える。


「おぉ。来よったな」

「一週間ぶりかな? こんにちは、鳴上君。と……無響さん。で良いんだっけ?」


 その聞き知った口調と発言に、思わず胸が高鳴る。

 ぞろぞろと数人の御一行が現れたと思うと、人混みを無視してオレと無響さんの前へ着いた。

 クラン――――『凪』。日本で次席に座る人間がまとめ上げた、有数のトップクラン。筆頭たる凪さんの後ろには伏黒さん達が手を振っている。

 だが、そんな人物がたかだか予選会場に居ては当然


「生! 生マサキ! 生マサキだって!」

「きゃーっ! 伏黒さぁぁぁん♡(挨拶)」

「今こっち見なかった!?」


 ―――――なんてことは、考えるまでもなく当然である。彼等は声援を浴びて当然のように、周りへアピールをすると、黄色い歓声は更に熱を帯びていった。

 オレは呆れ顔で凪さんへ苦笑を向けると、したり顔で口端を上げられる。

 まるで、勝ち上がって来なかったら潰すとでも言いたげな顔で。


「このワイが鍛えたんや、死んでも来い」

「当然っす。――――――って、凪さんあんまし相手してくれなかったじゃないっすか」

「馬鹿言え。ワイと相手できるだけでも稀なんや。そう毎度できっか」


 そう言い残して、彼等は観客席の方へ歩いていった。

 恐らく、凪さんほど派手ではないにしろ、決勝で待ち構えるゲーマーは少なからず人目を忍んで来ているのだろう。プレイヤーの癖を知るために、敵かどうかを見定めるために。

 オレは拳を強く握り、闘志を固めた。



 ×××


 ─────暗がりの無音。


 電子の海に迷う私は、彼の後ろで滴る汗を拭っていた。荒い息を殺し、端末を委ねる。

 何やら犯罪まがいのことをしている彼に、かける言葉は見当たらなかった。


「先生、本当にこんなことして良いんですか?」

「良い訳ないけどな。けど、これしか生きる術が無いなら、どっちにしたって変わらんさ」

「ああもうこの先生は……!」


 正直、何を言っているのか分からない。今すぐにこの場から逃げ出したい。冷や汗と震えが止まらない。だというのに――――――


(何でこの先生は絶対面白いって思えちゃうんだろ…………)


 ◇◇◇



「あ、夏燐ちゃん! こっちこっち!」

「…………! 咲さん!」


 私は焦るように辺りを見回すと、不意に彼女の声が耳を打った。

 私が手伝うと聞いて駆けつけて来てくれた咲さん。あの人(先生)の姉であり、大恩のある人だ。


「来てくれたんですね!」

「もちろん! 夏燐ちゃんの熱烈な愛には応えないと!」

「もう咲さんってば〜」

「…………咲の姉御? その娘は」



 ピキッ、と。何かの割れる感覚がした。その男声に、私は凍りついた。

 咲さんが男性と一緒にいるからではない。

 その男の声は、一部のテレビでも取り沙汰されるほどの腕前を持った。『天才』と対をなす『最強』のゲーマー。


「あぁ、二人とも初対面だね。こっちはマサくん。んでこっちが─────」


 とろとろと説明を加える咲さんの声を無視し。私は欠伸をかく男性に、掴みかかるほどの速さで罵声を浴びせた。


「なんで! なんであなたがここにいるんですか!?」

「あ? 誰や」

「鬼灯夏燐です! 千鳥…………いや、『凪』!」


 千鳥将輝─────通称『凪の人』は、私がゲーマーを嫌いになった理由でもある。

 そのためとことん私が嫌っているのだが……この有様からするに、当の本人はゲームを手合わせした記憶すら忘れているというのだ。怒り心頭になるのも最もだろう。


「よくまぁぬけぬけとここに居られますね! 余裕ですか! 先生は頑張ってるっていうのにあなたはまた飄々とほっつき歩いてるんですね!」

「…………姉御? この犬っ娘は本当に知り合いで?」

「そうだよ? 夏燐ちゃん、ちょっと落ち着こう?」

「だってこの人は私の……!」

「――――夏燐ちゃん」

「――――っ! ………………はい、すみません」

「良いよ。多分マサくんが何かしてたのかな。ともかくいきなりつっかかるのはいけません。反省したなら――――――よしよし」

「さ、咲さん……!」


 咲さんの隣に座ると、頭を撫でられる。何だか上手く丸め込まれたような気がしたけれど、咲さんの反対に座る千鳥将輝はバツの悪い顔をしていた。


「で、マサくんも何か言うことはないのかな〜?」

「姐さん…………流石にそれは悪手やないっすか」

「どれだけ繕っても駄目です」

「くっ…………」


 何やら高度な会話が繰り広げられて、バツの悪さは変わらず明後日の方向を向く千鳥将輝。

 咲さんは溜息を吐き、やれやれといった顔で私の肩へ頭を置いた。


「それよりも夏燐ちゃん。知に言われたことはできた?」

「はい。物凄い危ない賭けでしたけど…………」

「…………?」


 千鳥将輝はきょとんとした顔で私を見る。絶対に教えてやらない。元々口外できたものじゃないけど。

 相変わらず咲さんは私の頭を撫でている。嬉しいけど、いい加減恥ずかしくなってきたので止めてもらった。


「おい、犬っ娘」

「私犬じゃありません」

「っ……このガキ……」

「将輝さん。大人げありませんよ……」

「ふん…………まぁいい。どの道アイツが何かをしてるならこれから分かるんや」


 近くに居たクランのメンバーに諭されている。

 何か俯瞰されているかのような眼で見られた。

 店長さんとは違った、高圧的な見渡す目だ。

 そうこうしていると司会が壇上に出現し、丁寧な進行を始める。


「もうすぐか」

「結構怖い賭けですけどね。ミス一つで台無しになっちゃうので」

「…………そうだね」

「?」


 一瞬、咲さんの表情が翳った気がした。気の所為だろうか? 咲さんは再び笑顔を取り戻すと、会場の大画面へ視線を向けた。


「始まるよ」

「今回行うのって試作NPC機を討ち取った人が勝ちっていうルールでしたよね?」

「そうみたいだね。予選枠は一つしかないから、単純に考えてサトルの教え子がその枠を勝ち取らない限り本選に進めないよ」

「で、それとサトル自身に何の関係が…………って、なるほど」


 私たちが話している間に司会が進行していた。特大の画面に移されたのは、試作NPC機。に見せた中に先生が入った機体。意気揚々と司会者は大口を叩く。


『今回はこのNPCを誰よりも先に討ち取った人が本選出場権を得ます! この機体、我が社の試作機であり中は無人。NPC機からプレイヤーへの直接攻撃はできない仕様です! 果たして誰が一番に倒すことができるのか……!?』

「とんだペテンしてんなぁ……」

「これ、バレたら会社ヤバくないですか?」

「まぁ、サトルもほどほどにするでしょ」

『各出場者、準備も着々とでき始めているようです! それでは開戦の合図と行きましょう!』


 あぁ、先生は今頃とんだ壊れ機体に心躍っているんだろうな。あの先生、アーツは使えないって言ってたけどどうやって戦うんだろう。この大多数に対して心理戦をふっかけれるような状況でもないだろうに。

 私とて、最低限学友の応援はする。あまり会話したことはないが、できることなら一緒に高みを目指せる人が欲しい。


 そいえば、アーツってなんなんだろう。

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