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天才様の唯物論  作者: 上海X
雷君子と弾幕遊戯
22/116

21時限目 厄介事

「カミ、ドー、先、生! なんでオレに教えてくれなかったんすか!?」

「? デジャヴ?」

「とぼけないでくださいっす! ()()()()()()()()なんて超重大な隠し要素、最初から教えてくれても良いじゃないっすか!」

「あ、──────言ってなかったっけか。悪い悪い」


 ははは~、と有耶無耶に笑われ、オレの敵意は霧散させられる。廊下をぷらぷら歩いていた先生は未だに片眼は包帯のままだ。

 オレの詰問さえ意に介さず、カミドー先生はどこから説明しようかと首を傾げていた。得心顔で先生はにこりと微笑んだ。


 ×××


「っつーことで、アーツの進化について説明してく」


 所かわり教室。個人に教えるにはフェアじゃない(という名目のもと、個々人に問い質されるのを忌避する)ため、授業にて俺は改めて口を開けた。


「以前説明したアーツの分類を覚えてるか? はい、夏燐」

「えっと…………【対象系】【状況系】【特殊系】の三つでしたよね」

「正解。当然のことながらアーツは進化すると効力が増す。進化の方法、内容は端末(ヒト)それぞれ、特定の条件を満たすと成されるが、それは誰にも分からない。殊更【特殊系】は進化が難しいと言われていて、無響の【パンドラ】などが良い例だ」

「―――――――――」


 話題の中心に向けた無響は他所を向いて知らんふりをした。恐らくこの教室で少なくとも無響は進化の存在を知っていただろう。それを込みだとしても前回の惜敗を根に持っているのだろうか、それとも――――――。

「はい、はい!」と席の前方で騒ぐ鳴上に発言権を渡す。


「オレのアーツだとどうなるっすか? あと進化って一回だけっすか?」

「知らん。ざっくりポ○モンの進化みたいなのだと思え。一回だけもあれば二回もあるし、進化の条件なんて分からん」

「いやでもあれって大抵レベルだし…………」「うるさい」


 総対戦数、アーツの使い方、タイミング、合技、カウンター。大抵似てるだろ。

 拓真や姉貴ですら分からないんだ。この世の誰も知るわけがない。

 生徒達は口々に自身のアーツがどのように変わるのかと談笑に耽っていた。中には進化を経験した生徒もいるらしく、話の渦中になっていた。


「先生の【全権】は何から進化したんですか?」

「――――――――――…………それは、秘密だ」


 一瞬暗い顔をしてしまう。気を取り直して明るい表情を取り繕った。

 その感情の昇降は、誰にとっても気にする必要はなく、捨てるように次の話題へ移行した。


 ×××


「いらっしゃいませー」


 木製の扉を開けると、小鈴が小気味良く鳴った。若い女性店員の声が響いた後に、私は辺りを見回す。意中の人物が見つかると、私は小走りで咲さんの元へ向かった。


「! 夏燐ちゃん!」

「お久しぶりです! と、お仕事お疲れ様です。咲さん」

「夏燐ちゃんも、学校お疲れ様。どうしたの? 夏燐ちゃんから呼び出すなんて珍しいね」

「そうですか? でも会いたくなっちゃったんですもん」

「あぁもう可愛い♪ 知じゃなくて夏燐ちゃんみたいな妹だったらたくさん可愛いがったのに」

「私も咲さんみたいなお姉さん欲しかったなぁ」


 そんな甘い与太話をしていると、つい本題を忘れそうになってしまう。

 咲さんも、仕事終わりとは思えない喜び顔だ。

 私は目的意識を念頭に置くと、モカを一つ頼んで開口した。


「私の高校、もうすぐ修学旅行があるんですけど!」

「おおぉ~良かったねぇ。行き先は?」

「それがなんとハワイなんです! そこでなんですけど! 何か欲しいものはあったりしませんか!?」

「欲しいものかぁ……」

「店長さんも!」

「……っ!」


 自分が呼ばれるとは思いもしなかったようで、カウンター越しに目を見開いた店長さんが私を見やった。

 咲さんと店長さんの二人は苦笑しながらも、視線を合わせて目を細める。


「欲しいものか…………どう?」

「此方は良いかな……。そう大して返せるものもないし」

「そんな! お二人には以前凄く助けてもらいましたし!」


 咲さんは視線を店長さんに送ると、そういった言葉を発した。なんだか申し訳なさそうに、遠慮をしている。私とて困らせるために言っているわけではないが、こうも遠慮されると中々に応えてしまう。


「私も…………特にこれと言ってないかなぁ。(どうせ葵に頼むし)」

「えぇ~…………咲さんまで……」

「夏燐ちゃんが選んできてくれたものが嬉しいかな」


 咲さんはそう私に微笑んで、愛想を撒かれる。少し何か呟いていたようにも見えたが……聞き取れなかったので放置した。


「もう……咲さんは…………」

「此方も、多少は知に頼むかもしれないけど、気持ちだけ受け取っておくよ。ありがとう」

「店長さんまで…………」

「ああまたそうやって女の子誑かして。いけないんだー。だー」


 二人は変わらず苦笑し、私は顔を俯けた。

 確かに、どちらも神藤先生の関係者なのだから、先生から貰う方が適当だろう。私が無理にはした金で渡すよりもいいのかもしれない。けれど、人として最低限の返礼だけはしておこうと思った。―――――それとは別に、ふと思いだしたことを二人に質問する。


「そいえば、先生からちょっと頼まれ事があって」

「「…………??」」

「ゲームの大会に協力してくれって…………」


 数秒後、二人は色を失った目で「あぁ……」と嘆息を吐いた。どうしてあの先生は近しい人たちからもこう呆れられているのだろう。表情と声音が一気に沈んでいる。

 人間性というのは表面から憶測するものではないな、と改めて痛感した。


「多分…………あいつ『厄介事』とか言ってなかった?」

「言ってました言ってました!」

「「嗚呼…………」」


 一層顔を悪くさせる二人。それほどなの……?

 思わず悪寒に襲われる。けれど、(かぶり)を振って気を紛らわせた。

 二人は揃って額に手を当てると、零すように告げた。


「まぁ危害を加えるようなものではないけれど…………一歩間違えたら法の一線越えかねないからなぁ」

「っえぇ……」


 その悪寒は正しく、悪事を示唆していることを告げていた。

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