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天才様の唯物論  作者: 上海X
雷君子と弾幕遊戯
20/116

19時限目 蛙の仔は蛙

「よろしく変更してやる。ワイに勝て」

「最初からそのつもりっすけど……」

「今やない、大会でや」

「…………?」


 日を超えてすぐ翌日、真夜中にメールが届いていたかと思うと、差出人は凪さんだった。

 いつの間にメールアドレスを登録していたのか不安になったが、あの先生の知り合いなのだ。学校の情報越しに分かることはできるが……そんなに悪用していいものなのだろうか。

 もしかしたら別の方法で勝手に知り得ているのでは……、とも懸念したが、あの先生に限ってそんなことはないだろう。


「っくしゅんっっ!!」

「大丈夫ですか……? 拓真さん」

「あぁ、平気平気」




「夏季の大会があることはサトルから聞いてへんのか」

「全く」

「あの阿呆たれ……」

「……?」


 日曜早々凪さんの家に呼び出されたかと思うと、当の本人は訳の分からぬ発言を繰り返した。夏季の大会……? ちなみに昨日と同じ服なのは……気のせいだろうか。

 すると。今しがた入ってきた部屋のドア付近に位置するインターホンから音が鳴った。

 見越していたかのように凪さんは口端を上げると、「上がれい」という。

 誰とも予想がつかずただ来る人を待っていると、そこにはどこか記憶の端にこびりついている人達がいた。

 そうだ。この人たちは……


「『凪』のメンバーや」


 舵を切るようにピシッと決めた凪さんは、彼を含め六人で形成されたクランの全員を紹介した。見たところ、身長は同程度なところから大学生か、二十代半ばといったところだろう。

 屹立している男性三人と女性二人は部屋の汚さに苦笑いを少々。

 一人一人オレに対して会釈をし、名前を教えてくれた。

 するとメンバーの一人が「さ……始めるか」と袖を肘まで捲る。

 呼応するように五人は部屋の掃除と家事に追われた。オレは何をしていいのか分からず呆然と立ち尽くしているのみだ。

 一人、何の感情も持たない表情でゲーム画面に引っ付く凪さんは変わらず話しかける。


「雷。取れ」

「は、はいっす」


 コントローラーを突き出され隣へ胡坐をかいて座る。それだけのことに、家事に追われていた全員の手が止まった。

 一瞬不安になり、動揺し首を曲げるが、その間隙を惜しむようにスタート画面から操作を強いられる。


 それからはひたすらに連戦と独自技術の改良だった。何せ何の度量も技巧もない初心者が、次席に座る殿上人に牙を剥いているのだ。何分やろうと何時間やろうと一朝一夕で勝てる訳がない。


「……飲み込みは悪かないんやがな」

「昨日先生のも見たっすからね」

「あぁあと。降参禁止な。出涸らしまで吸収せい」

「……! わかったっすよ……」


 神速で跋扈し合う機体を余所に、家事に勤しんでいたクランのメンバー達はいつしか口をはさんでいた。弾を放つたび、進行方向を変えるたび、面白がるように視線を向けられるのがわかる。


「あぁそこっ! 右じゃなくて左だったら……」

「そこ。ビル群突っ切った方が早いよ」

「鳴上君。将輝さんは左後ろが弱いんだ」

「うるせぇお前ら仕事せんかっ!!」


 凪さんが怒った口調をしていても喜んで返している。

 しかもオレへ口頭で助けてくれている。なんとなくだが、ゲームが面白く感じられた。この人たちはやはり良い人たちだろう。

 程なくして一戦が終わった。周囲を見ると、机の上は片づけられ床はピカピカに磨き上げられている。キッチンの方からは少しだけ甘い匂いが漂ってきた。

 そして方々から口々に賞賛と興味の声が飛び交った。


「この子凄いじゃないですか!? 本当に高校生!?」

「しかも将輝さんから直々に仇名で呼ばれてるし……」

「…………ま、コイツはサトルの知り合いやからな」


 その発言に、ますます興奮気味にオレへ視線を集中させる五人。そう大して成長はしている体感はないものの、褒められることは素直に嬉しい。オレを仇名で呼んで手を止めていたことにようやく合点もいった。

 皆一同に「ってみたい」と眼を輝かせていて、少し申し訳ない気分だ。

 すると我に返った一人の女性が、思い出したかのように「あっ」と声を出すと、キッチンの方からちょっとした料理を出してきた。


「はい、将輝さん。私だとこれくらいしかできないですけど」

「おぉ。助かるで」


 そう言って出されたのはまたもや甘納豆が垣間見えるカップケーキのようなものだった。中はスポンジ生地のようで、スフレのようにも見えた。

 あの短時間でできたのが謎でしかないが、ともかく美味しそうだった。

 ……此処に来る人は甘納豆の使い方を予習しておかないといけないのだろうか。

 言うが早いが、凪さんは手に取り他の人も次々にとっていった。

 やはり美味しい。今度作り方の一つぐらい聞いておこう。


「んむ。んで、今日呼び出したのは他でもないコイツの件でな」


 二つ目のカップケーキを喉に通し終わった所で、話は本題に入る。

 皆は大して視線を向ける訳でもなく、食しながら耳を傾けていた。

 オレは一人畏まった形で正座を作る。


「ワイはこの後別件で足を運ばなかん。それでコイツのお守りを頼みたいんや」

「あぁ、そういうことでしたか」

「任せてください!」

「言われた通りのことはしておきますから!」

「……え」


 急に自分がちっぽけな赤子に見まがわれ、ムキになって口を出す。

 先生から凪さんへ頼まれていたのに、これでは責任転嫁ではなかろうか。


「オレ、凪さんに勝つように頑張ってるのにそれじゃ意味ないじゃないっすか!?」

「話はこいつらに聞け。ワイは今後のイベントの為の用向きがあるんや」

「ちょっ……!」


 話を遮られ、スフレの三つ目を口に運んだ凪さんはすくっと立ち上がり隣の部屋へ足を向けた。そしてそこへメンバーの一人が「クローゼットにかけてありますよ」との言を聞き、カタンと扉が閉じられる。

 急な展開。急な人物。つい昨日の出来事がデジャヴとして起こることに僅かながら心臓が跳ね上がるも、我に返り沈んだ気持ちになった。

 その合間に着替え切ってしまっていた凪さんは、こちらに顔を見せることなく脇の廊下を通り玄関の扉をカギを閉めずに出て行った。

 なんたる無作法者か……。一発叩いておけばよかった。


「なんであの人は……」

「まぁまぁ。僕等でも一応相手にはなるよ」

「とりあえず私達と一戦ずつ戦ってみたらどう?」

「そうだね」


 一人がパン、と両手を合わせ切り替えの合図を作ると、皆一斉に動き出した。

 何をして良いのか分からず、しどろもどろで呆然としていると、コントローラーを手に握らされ、いきなりの開戦。


「次のもちょうどこれだったしね」

「だから将輝さんも選んだんじゃない?」

「大会もこのゲームなんですか?」

「あぁ。――――今回は誰が副操縦士(コパイロット)になるのやら……」

「こぱい……?」


 隣で座る人物……確か伏黒さんと言っただろうか。彼が発したその言葉に更なる疑問符を浮かべ、歪んだ表情を作る。

 初速の制御が上手く行った後、伏黒さんの機体と相見え高速の弾が機体の痕跡を塗りつぶすように孤を描く。

 伏黒さんは微笑に耽りながら周囲のメンバーとともに説明を始めた。


「近々このゲームで大会が開かれるんだよ。確か出場願が今日中? だったかな」

「それで、二人一組で操縦士、副操縦士で操作を分けて戦うの」

「へぇぇ……」

「ちょうど将輝さんはその件で今日出掛けたんだと思うよ」


 旋回し、ゆっくりながらも動く伏黒さんの機体に比べ、追尾される弾頭に光の速さで逃げ惑うオレの機体。結果は一目瞭然とはいえ、凪さんとは違ったプレースタイルの人に出会えたことで収穫も多かった。


「鳴上君も出るの?」

「オレっすか? オレはこの通りまだダメダメで――――」

「いや? 大会は二週間後。一般予選の枠さえ勝ち取れば将輝さんと同じ舞台の上で戦うこともできるけど」

「!?」


 その時、オレは思わずスマホへ手を伸ばしていた。


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