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天才様の唯物論  作者: 上海X
雷君子と弾幕遊戯
17/116

16時限目 厭な相手

 アーツあり。機体固定:夜:一対一モード。

 あまり自分から触れたことのないシューティングゲームなので、どんな機体を選べば良いのかなんて分かりはしなかったが、機体が設定されているのなら対等には持ち込める。

 ただ、向こうは「ワイはアーツを使わん」との口約束を交わしたため、凪さんはアーツを使わないだろう。心底から信じる気概は持ち合わせていないにしろ、程度問題だ。


「通常弾の打ち合いだけや。勝ったらさっきの言葉撤回してやる」

「……勝っても負けてもオレに利がないのに」

「勝ったら勝ったでサトルに頭下げてやらぁ」

「…………」


 それならば確かに受ける義理はあるのだろう。だが、ただただ相手の口車に乗せられている状況には個人的に釈然としない。

 凪さんは真横で鼻を鳴らし、片手でふらふらとコントローラーを握っている。あまりにも軽率に一般人を扱いすぎだと思う。見るからに準備は万端そうだった。

 オレはゲームのスタートボタンを押した。


 ×××


「お、やってんなぁ」


 俺は扉をカチャリと開けると、足で床にあるゴミをどけつつ参入していく。

 手にはビニール袋。昼飯はサンドイッチに決定した。因みに拓真仕込みである。

 三人前である分、キッチンの狭さを気にしてはいたが、本来複数人で住む一軒家を所有しているマサの家は、大して問題なく円滑に進みそうだ。


「まぁな~。ま、見込みがゼロな上にポテンシャルも薄い」

「言ってやんなよ。何も俺達みたく化け物じゃねぇんだ」

「っっ……」


 雷斗は何やら訝しげに画面に視線を送っているが、おおよそマサに何か吹き込まれたのだろう。後でゆっくり聞いてやらないとな。

 そう思いつつ、俺はキッチンの方へ足を運んだ。

 サンドイッチと言っても、所詮簡単である。男飯ということもあるが、ただ単に具材をサンドイッチ用のパンに挟むだけだ。やることと言えば具材を切ることと上手く設えることくらいである。


「さて、作るか」


 ここからじゃあの二人の声しか聞こえない。まぁ音声だけでもなかなか戦況は伝わってくるのだが。下手に口を挟むとマサに悪く言われるからな。挟むのは具(愚)ってな。


「…………何言ってんだ俺は」


 頭を左右に振って気を紛らわす。人はストレスが溜まると奇行に走りがちになると聞いたことがある。疲れてるんだきっと。そうに違いない。

 気を取り直してビニール袋から色々と具材を取り出す。普段マサは自炊しないため、無闇に買ってはかえって損失を導く。


「野菜先で、そのあと果物かな」


 数量的に見積もって優先順位を作成。慣れた手つきで具材を入れる食器と俎板、包丁を取り出して料理を始めようとした。

 が、一つ失念していた事項を思い出す。


「――――っと、あれも入れないとな……」


 ×××


 戦況は絶望的だった。

 分かり切っていたはものの、歯噛みしてしまう。

 たかが一か月といえど、オレは多少なりと戦績は上がった。アーツの使い方も以前よりは相当上手くなった自覚もあるし、胆力も伸びた気はしていた。

 が、だ。圧倒的不利な状況に加え、アーツを一切使っていない凪さんの見ずとも分かる滴った笑み。オレがつい笑ってしまうほどに。


「――――これって自らリタイアできないんすか?」

「できるが」

「んじゃリタイアするっす」

「……やっぱり小僧は小僧―――」

「で、もっかい再戦させてくださいっす」


「あ?」とドスの利いたような声を間近に感じつつも、オレは臆せずその言葉を再度発した。

 決して勝つための方策が出来上がったわけではない。ただ、オレはなんとなく分かったのだ。この人に、一泡吹かせるための手が。


「次もリタイアします。その次も多分します。けど……アンタに完全な敗北だけは、ぜってぇしたくないっす」

「ほぉ。言うがな」

「やってくれますよね、凪さん」

「……カッ。蛮勇だったら次で終わらせる。かかってこいや」



 その再戦の合図を聞いて、オレは再度ボタンを押した。

 円滑にスタートボタンへの画面へ突入し、手に感じた汗を拭き去る。

 ふと、最初の時に感じた殺気のようなものが消えていることに気付き、隣を見やった。すると、口端をわずかに上げて興味がそそられているような表情をした凪さんは、眼に灯る光をゆらゆらを揺らめかせていた。


「さっき同様、ワイから行かせてもらおか……!」


 オレの機体を発見した途端、速攻弾幕を飛ばしながら特攻攻撃。すんででオレを避け、後ろに回り込んだところを急襲しかける。同じ機体なのに動き方ひとつでこうも違ってくることに思わず苦笑を漏らした。

 凪さんの気に入っている手なのだろうか。オレは更にふっと笑う。

 それが気に食わなかったのか、凪さんの唇がへの字になったのが分かる。


「見たっすよ。その手は……!」


 オレは右方へ湾曲に旋回しつつ、凪さんとすれ違う直前に凪さんの機体へ背を向けて、一八〇度自転した。そして、振り返った向こうにそびえる凪さんの機体へ集中的に攻撃を仕掛ける。

 危なげな印象でギリギリを躱す凪さんは、少し焦ったような、興が乗ったような動きで若干の距離をとった。何か痺れたような、身を(よじ)っているかのような動きを現実でされ、どんな反応をして良いのかわからなくなる。


「んんっ……! やっぱゲームはこうやないとな!!」

「……へ?」

「まだまだこれからやろ!? 雷ィ!」

「っ。当然っす!」


 オレは次に、凪さんの先程の攻撃方法を真似して追随する。

 同じ攻撃方法を取られた場合、先人はカウンターの一つや二つ備えているだろう。

 が、それらは()()()()()()()()()()()()訳がない。

 神風のように特攻をしかけるオレの機体に真正面からぶつかりかけ速度を上昇させている。だが、一向に彼が避ける気配がなかった。衝突すればどちらも相当な被害を生むため、オレはすんでのところで上方へ避けて、裏を取ろうとしている凪さんの弾を反撃カウンター


「【スコープ】か」

「正解っす」

 

 【スコープ】……対象を見通すことができる。それは場所と取るか時間と取るかは任意選択できる。時間次第では未来予測すら可能となる代物だ。

 一発で正解してしまうことに若干の恐怖を抱く。

 全力の集中攻撃を仕掛けるが、壁に寄せても海に寄せても神回避の連続。すぐに体制を取り直した機体の弾幕がオレへ降りかかる。

 だが、それでも一、二発は当たっていた。何故なら、一度目と同じ避け方をしていた部分の動きでは被弾が免れなかったからだ。


「まだまだ行くっすよ…………!!」

「かかってこいや」



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