102時限目 星雷vs赤羽 壱
PM0:58――管理棟
鳴上雷斗【強奪】
葛星夜【ハーレム】(+世羅賽花)
「なんかワクワクするっすね」
「今完全に敵城の中なんだけどね……」
管理棟でのうのうと歩く小生と雷斗氏。あと世羅さん。
世羅さんはゲームに関わるどころか、ハッキングの手伝いすらできない。
小生に話しかけるくらいだが、それすらも今はしていない。
というよりも、放送の時点からまた少し口数が少なくなっていた。
「でも雷斗氏がいてくれて本当によかった。地図をパクられて困ってたとこにたまたまいてくれて」
「いやいや、オレも正直居合わせただけっすよ。それよりこんなことに巻き込まれてお互い大変っすね」
「それは同感」
神サマに指示されて、大規模ゲームが行われている中で校内の主電源を復旧させるよう言われた。正直、こんなことを生徒が出しゃばってやることではないのは火を見るよりも明らかだ。
だが、今は小生らしか動けないし、神サマに恩を返すのにも最適だ。主電源か非常電源、恐らくどちらかが復旧すれば良いが、今更他力本願になれるほど怠慢をするつもりはない。
誰もいない廊下を歩く。主電源の部屋まではいくらか距離がある。小生らは渡り廊下から来てしまい、今は下階に向かっていた。
「…………」
「(……世羅さん?)」
「っ!? なに?」
「(いや、なんか考え事をしてるみたいだったから……)」
「……うん」
近くに雷斗氏がいるため大きな声で会話はできない。が、世羅さんの表情が気になる。何か思うところがあるようだ。
「さっき出会った人といい、放送から聞こえてきた人の声といい……何か見覚えとか聞き覚えがあるみたいな感じがして……」
「……?」
「いやぁ、記憶はないはずなんだけどね? なんか既視感っていうかデジャヴっていうか……まぁ気の所為かもしれないんだけど」
「(……なるほど)」
今回の騒動と世羅さんの記憶が関係している……? でも何故?
偶然にしては出来過ぎている。神サマが関与していること、というなら合点はいくが、普通の人はこの学校に神サマがいることは知らないはずだ。
どこかで情報を聞きつけたと言われれば納得だが、そんな人は近くには見当たらない。
「この下の階に、主電源が設置されてある部屋があるらしいっす」
「……本当に誰かいるんだよね」
「のはずっすけど……今何か分かるっすか?」
『いや……今は分からない』
無線機越しに店長、と言われていた人物が応答する。何かのコードネームか、と思いつつ、雷斗氏の言葉を待った。
「まぁ居たらその時っすね!」
とても楽観的な発言が飛んできて、思わず苦笑を浮かべる。
復学してきて最初に仲良くなったのがこの人で良かったとつくづく思う。
階段を下りた先に見える廊下には、誰も居なかった。
恐らく部屋の中にいるのだろう。
雷斗氏が早速部屋を見つけて、扉を開けようとするも無残に撃沈する。
「これ……電子ロックっすよ」
『電子か……なら好都合だ。物理じゃないなら突破できる』
「えぇ……マジで言ってるんすか……」
何かドン引きするような発言をしているようで、雷斗氏の顔が固まっている。
そして数分と経たぬ内に、何やら雷斗氏が電子ロック部分に対しスマホをかざす。
するといきなり「ピー」と音が鳴り出して解錠された。
世羅さんを含め三人で唖然とした表情を作る。ものの数分で本当にハッキングしたっていうのか……? そんな漫画の中の住人がまさかいるとは。
扉が開いて部屋の中に入ると、そこには一人の女性が驚いた顔で立っていた。
「うっそマジ……? 普通に開かない設定にしてんだけど。てか主電源落としてんのにどうやって開けたん??」
「あはは……」
雷斗氏が苦笑しながら女性に対して声をかけようとする。小生と世羅さんはそんな表情を作る余裕もなく、思わず叫んでしまっていた。
「あの時の!?」
「地図パクった人!!!!」
「あれ!? さっきのコじゃん! やぁやぁ、ゲームは楽しんでる?」
「迷子になったんですけど?!」
「ゆるすまじ」
「あはは~! ごめんごめん、かえそっか?」
「もう遅い!!! でも貰う」
世羅さんの声は聞こえていないのだが、それでも文句をつらつら小生とともに述べる。雷斗氏の警戒をよそに、小生は地図を返してもらった。
暗い部屋でも綺麗に光る赤い髪と八重歯。幼げな様子は最初に会った時と変わらない。本当にこの人がこの大規模ゲームを始動させた張本人なのだろうか。
危機感ゼロの様子の小生らの行動に、額を抑えて眉間に皺を寄せる雷斗氏は、咳ばらいをした後に女性に対し質問を投げかける。
「主電源を切ったのは貴女であってるっすか?」
「? うん。あってるよ」
「どうしてこんなことを」
「理由は言えないけど……ねぇもしかして君鳴上くん!?」
「へっ!? ……まぁ、はい」
「だよねだよね!? あたし覚えてる!? 大会にいたんだけど!」
「大会って……あの時の?」
警戒姿勢は解かずに、冷静な対応をする雷斗氏。
大会……というのは何のことだろうか。雷斗氏が参加した大会はクラン加入前の弾幕FPSのぐらいしか思い当らないが……その大会にこの女性がいたと……?
もしかして――――というか、なんとなくどこかでこの女性、見覚えがあるような。
「――――っ!!!!? もしかして赤羽 雲雀!?」
「「え、誰」」
「最近台頭してきたトップクラン『巫』にいる人の一人! FPSとかの大会でよく出てきてる人で、瞬発力が神がかってる超すげぇ人!!」
「ははは~~そんな褒められても」
明るい様子で後頭部をさする赤羽氏は「もっと褒めて~」と言いながら表情をゆるませている。
「前の大会で君と当たる予定だったんだけど、棄権したんだよ~」
「な、なんで棄権したんすか?」
「いやぁ君のアーツなら凪のトップを打ち負かせるかもってリーダーが言うからさぁ。でも結局凪に入っちゃうんだもん、凪ごと潰すほかなかったけど」
とても明るく振舞う赤羽氏は、雷斗氏を絶望させるに足る言葉を飄々と言い放った。
潰す? あの凪が潰されると? まさか、如何に『巫』がトップクランだとはいえ、早々容易く潰されるとは思えない。
雷斗氏は、焦燥に駆られる。
「嘘っすよね……?」
「嘘じゃないよ~。どうせ凪のメンバーも危機的状況なのを知らせたくなくて連絡しなかったんじゃない? ま、あとは君さえやれば終わりだし」
まずい、雷斗氏の怒りが完全にカンストする。
「ら、雷斗氏っお、おおおちおちおちおち」
「――――大丈夫っす」
想定以上に落ち着いていた雷斗氏が、小生にニコリとほほ笑んで赤羽氏を凝視する。それを全く気にしていないような赤羽氏は、ニッと笑って端末を取り出した。
「じゃあここはゲームで勝負つけない? あたしが勝ったら君はクランを脱退する。君らが勝ったらあたしがここを退いてあげるから主電源は回復させてもいいよ。まぁできるならだけど」
「――――――分かったっす」
雷斗氏が冷静に返答する。眼には闘志を宿していた。
だが、それを制止させるように世羅さんは小生へ声をかける。
「ダメ、あの人なんかヤバい」
「(ヤバいって?)」
「なんかこう……! なんかヤバいの!」
「(語彙力)」
「君らは二人で挑んできて構わないよ? そうだなぁ、どうせやるなら君が凪のトップを打ち負かしたアレでやろう。あたしは一人で主操縦と副操縦をやるから」
「いいっすよ」
世羅さんが焦って止めようとしていて、雷斗氏は赤羽氏の挑発に乗り応じる。
店長さんからの連絡は途絶えているようで、小生は一人大慌て。
おいおい、死んだわワイ。




