101時限目 動乱
PM0:54
司会だけでなく、リルク達や俺達、観客全員が困惑する。
どうやら想定のプロセスではないようだ。
「あ、え、と……」
司会の人が困惑したままマイクを握っていた。
これは本当に何かがあったらしい。
生徒一同が不安な様相を見せている。拓真は俺に目線で合図を送っていた。
(分かるか?)
(いや、何も)
恐らく会場だけでなく校舎の方でも同様のことが起きているに違いない。
俺は生徒の対応を拓真に任せて雷斗と連絡を取った。
「なにがあった」
『すみません、いきなり電気が消えて……』
「そっちもか」
『って、会場の方もっすか?』
「あぁ」
どうやら本当に校舎の方でも同様の現象が起きているようだ。
昼間から照明が落ちるのは、校舎では問題はないだろう。
しかし会場内は大問題だ。それに、先ほど雷斗が言っていた大規模ゲームというのも気になる。
『って! そうっす大規模ゲームっす』
「それはなんだ? 俺は何にも予定してなかったんだが」
『なんかいきなり女の人の声が放送で聞こえてきて、この学校でゲーム乱闘の勝者になった人は優勝賞品があるとかなんとか。完全任意とはいえ、もうすでにやり出してる生徒や大人がちらほら』
「――――っ」
誰の仕業か見当が付かない。何の意図があってそれを開催しているのかも全く分からない。だが、それは明らかに誰かを意識しているには違いなかった。
それを聞いていた零が、俺に言葉をかける。
「先生」
大人の絡んだゲーム。数時間前に話していたことが、早くもここで相まみえるとは。
だが今回がそれに該当するかはまだ不明だ。確かめない限りは対策のしようがない。
それをしないといけないのは間違いなく俺である。生徒たちがいつ危険に巻き込まれるか分かったものじゃない。
俺は口火を切って話す。
「すまんが今話している場合じゃない」
「さっき言ってた話のやつ、ですよね」
「まだ判明はしてない。確かめないといけない。お前らが危険に晒されれば――――」
「危険なのは、先生の方じゃないんですか?」
はっきりとした物言いに、少し動揺を隠せずにいた。
他の生徒たちも、俺と零の会話に聞き耳を立てる。
どうやら零は隠してくれるつもりではあるが、介入するつもりのようだ。
踊り場で話していたことは、完全に的を射ている。俺がもし大人と勝負をして俺が危惧しているゲームシステムだった場合、俺は世の中に不正プログラムを使って上に立った人物として詰む。
「まだ分かったわけじゃないんですよね」
「っ。そうだがお前らを行かせるわけにはいかない。第一、今は会場の復旧を待つのが最優先だ」
『それが……未だに復旧しなくて』
真面目な表情で紡いでいる最中に、雷斗からそんな言葉が降ってくる。
『今教員たちが急いで対応してるみたいなんですけど、なんか様子がおかしくて』
「様子がおかしいって?」
『管理棟に入れなくなってるそうで、たまたまオレらは隠れて入っちゃってるんで問題はないんすけど……。多分、誰かが中からロックをかけたそうで』
「誰かって……誰だよ」
『知らないっすよ! でも、他の棟の騒がしい様子から、今は中止って雰囲気じゃなさそうっす。大規模ゲームが始まってあんまり影響がないようで』
「ってことは、電源の復旧は見込めないか……。非常電源は?」
『それは確か別の場所ですけど……むしろ会場の近くだった気がするっす』
主電源がつかなくなるのは分かるが、この様子では非常電源まで落ちているみたいだ。これは完全に計画的な犯行に違いない。
このままでは二人のゲームが遂行できなくなってしまう。
「って、電源落ちたって。それは放送前だよな?」
『っすね』
「放送室はどうなってるんだ?」
『わかんないっすけど……あれから放送がない感じ、多分放送もできない状況なんじゃないかと』
「他の教員は何してんだよ……」
『放送室も電源が落ちてれば使えないんで、後回しにされてるんじゃないっすか……?』
少なくとも放送室と管理棟の主電源。会場近くの非常電源の場所に人がいる。
教員や校長は恐らく対応はしているものの、管理棟には入れず放送室は後回し。
大方機能しないといってもいいだろう。
完全にしてやられた。誰がなんの目的で動いているのか分からない。
どうする? どうすべきだ?
ゲームに巻き込まれる生徒たちもどうにかしないといけない。
俺一人じゃどうにもできない。
このままでは何もかもが台無しになってしまう。
どうすればいい?
どうすれば――――
「先生」
「ッ…………ちょっと考えてるから――――――――」
「それは、先生一人でやろうとしてるんですか?」
「っあぁ、お前らはここで――――」
「できるんですか」
「それを今考えてるんだ」
「今は一分一秒が惜しいんでしょう? なら、僕らを頼ってくださいよ」
零がそう強く告げる。
「ダメだ。危険な目にあうかもしれない」
「そんなん分かってますよ。これまでだってそうでしたよ」
「これまでは違う。大会とか俺のセッティングしたゲームの中だったんだ」
少し例外はあったかもしれないが、それでも俺は生徒たちが安全な環境で遊べるものを選んできた。
安全な大人を、信じられる大人だけを紹介してきていた。が、今回はそうではない。
不特定多数の見ず知らずの人々に出会う。何かあっても保証はできない。特に今回は意図してゲームをしようと目論んでいる輩がいる。
それならば俺一人で何とかした方が何倍もマシだ。
「それで先生が行けば、その人の思い通りになるんじゃないですか?」
「ッ――――――――それは俺が全部倒して」
「だから一刻を争うんでしょ? 何のために僕らを育ててきたんですか? ただの仕事ですか? 違うでしょ」
その熱のこもった零の発言に、咲夜がこくりと頷く。
『オレも、死ぬほど助けてもらってるんすよ』
「私達をトップに仕立て上げたのは先生ですよ?」
『死ぬほど無理難題を押し付けられてもこなしてきたのは、神サマが言ってくれたからですよ』
「今だって二人のために動くんなら、僕らを使ってくださいよ。人手が必要なんでしょ?」
『それに、今管理棟をどうこうできるのはオレと星夜だけっすしね』
「お前ら……」
どうやら相当馬鹿な生徒を育て上げてしまったらしい。
拓真が遠くで俺を見て、呆れたような笑みを見せている。
何があるか分からない。できるならば生徒を行かせたくはない。
だが、零が告げた通り俺の存在は知れ渡っている。この場で俺が行ってどうにかなるとは到底思えない。
「――――――――分かった。雷斗と星夜は主電源のある場所に向かってくれ。ハッキングの操作は拓真に一任させる。もし勝負を吹っ掛けられたら拓真に師事を仰げ。腐ってもコイツは強い」
『了解っす』「OK。酷い言われようだけど」
「非常電源は夏燐が行ってくれ。お前なら一人で充分だろ?」
「買いかぶりすぎですよ。分かりました」
「放送室は零と咲夜で頼む。御霊と桜音祇はここで待機。いつ始めても問題ないようにしておけ。
各自。絶対に無理だけはするな、何かあったら連絡しろ」
「なんかワクワクするね」
「何て綺麗なフラグ回収……」
「臨時授業だ。汚ぇ大人をぶっ潰してこい」




