99時限目 邂逅
AM11:16
「満弦さんどこにいるんだろ〜」
「にゃ〜、今度はあそこの行列の所にせんか?」
「あ、あそこは何のお店かな……?」
かなちゃんとミミちゃんと三人で各クラスの出し物を見て回りつつ、私は満弦さんを探していた。
もう招待客の入場が始まって一時間は経っている。
連絡は通信状況が悪く、中々繋がらない。
「ここってこんな電波悪かったっけ……?」
「人がたくさんいるからじゃにゃいか?」
「ひ、人の少ない所なら繋がるかも……」
「うーん……」
スマホに頼るのは難しそうだ。
どうにかこの無数の人の中から見つけ出せないといけないらしい。
レーくんが見つけていれば、少なくとも無線機からは連絡が来るようになっているから、どうにかそちらに期待するしかない。
「咲夜〜? もうすぐ入れるからスマホ見てにゃいで行くにゃ」
「っ! ごめん。――――――って、そいえばここは何の出し物なの?」
「し、射的とか……、的当てとか……」
「私達今からそれするの?」
「ご、午後の披露の前にす、少し運動しこうって」
「まぁ今の咲夜は男装だし動きやすいにゃんか」
かなちゃんが軽快な声でそう告げる。
今の私は先生達と別れた後、男装をしていた。
今更何故男装をしているかと言うと理由は単純。
レーくんと離れて動くことが分かっていたため、少しでも周囲の男性から声がかからないようにするためだった。特別、かなちゃん達と行動していれば「そういう風」に見られて都合が良い。
レーくんからは「何かあったらすぐ知らせて」と言われている。本当に心配性だ。そういう所に惚れ込んだのだけれど。
「さ、入るにゃんよ」
そう言われて入った中には、偶然にも校内で有名な犬猿の二人がいた。
舘石巌くんと風岡颯ちゃん。どちらも燕尾服を着用していた。どこかの結婚式にでもお呼ばれしたのだろうかと言いたいほど似合っていた。
「あ、剣道と弓道の」
「っ……」
「! あぁ、卯月咲夜に、桜音祇奏。あと御霊美麗」
「まさかのフルネーム」
「三人もここに?」
舘石くんがそう告げる。が、ミミちゃんは凄い怯えていた。この二人の仲の悪さと言ったら学校中に知れ渡っているものだ。当然私達も知っている。
その二人の声の大きさと罵詈雑言を聞いていれば、ミミちゃんが怖がるのも無理はなかった。
二人はどうやら店番ではなくただ遊びに来ていたようだ。
「そうだよ。二人はなんで一緒なんにゃ?」
「もしかしてデート?」
「違うっ」「あのバカリルクに置いてかれたの!」
「リルクって、あの帰国子女の?」
「そう! 大体この格好だってアイツの悪巧みで着させられて!」
「ひっ……」「どうどう、御霊が怖がってる」
「私は馬じゃないっ!!」
その反応に余計に怖がっているミミちゃんは、私の後ろに隠れて袖をつまんでいた。かわいい。
なんというか傍から見たらただの夫婦喧嘩もとい痴話喧嘩にしか見えないのだが……。
「で、二人はなにしてたの?」
「ちょっとアレで一勝負を」
「アレって……あの的あて?」
舘石くんが指差す方向には、ボールを投げてパネルを倒す、所謂ストラックアウトというゲームが置かれていた。
二人はそれぞれ勝負をしていて、終わりがけといった所。点数は舘石くんの方が優勢だった。
「負けたら昼飯奢りなんだ」
「私絶対負けないし!」
「…………デートじゃん」
「それにゃ」「…………ぅん」
「「デートじゃない!!」」
いやいや無理がある……。二人きりで文化祭を回っておいて更に仮装して。挙句の果てにお昼ご飯を一緒に食べることまで確定しておいてそれでデートと言わないのは些か無理があるでしょうよ。
風岡ちゃんは呆れた後に的当てのゲームに戻り、最後の一投かを投げようとしていた。どちらも顔が赤らんだ状態で過ごしている。なんだよアオハルかよ。
「まぁあとはお二人でごゆっくり……」
「おいちょっと待て! 何か誤解を生んだまま去るな!」
「―――――――っし! 私の勝ち! ってねぇ! なんで見てないのよ!」
「…………にゃんだか甘酸っぱい匂いしかしにゃい」
私達は案内されるがままにゲームに参加する。
ストラックアウトはできるものの、あまり得意ではない。ミミちゃんは楽しめないだろうから、私達は射的を選んだ。
「あ、一応景品はあるのね」
「お、お菓子にぬいぐるみに金券に……旅行券!? う、嘘……」
「…………目出し帽も置いてあるのは気の所為にゃ?」
旅行券レベルの景品が置いてあるとは微塵も考えていなかった。狙えるのならば是非とも狙いたいが、早々取れるものではないだろう。
ってか、何故に目出し帽? 銀行強盗でも推奨されてる?
ぬいぐるみとかを狙って、レーくんと共有出来そうなものは共有しよう。
「じゃあ最初はわちが行くにゃ!」
そうして、私達は楽しんだ。
♪♪♪♪♪
「ちょっと長引いちゃったね」
「ごめん。でもこれで校長先生があとは頑張ってくれる」
和風喫茶から出てきて少し。校長先生から質問攻めにあった後、小生は世羅さんが希望する知りたいことや小生が疑問に思っていることを相談した。
校長先生は怪しんだ顔をしていたものの、最終的には爽やかな笑みで了承してくれた。本当に心の底から有難い。
今は小生たちは地図を手にして次に向かう場所を探しながら、廊下を歩いている。
『間もなく12時になります! 12時より講堂にて有志のバンドが始まります! また、屋外コンサート会場では現在、最近話題の映画○○で主演を務めたあの有名人が――――――』
校内放送から流れるアナウンスを聞きながら、隣に浮いている世羅さんと話す。
「すげぇ色んなことしてる」
「うん。どこか行きたいとこはある?」
「小生は特には。――――ていうか、迷子になりそうで……」
「地図持ってるじゃん」
「今自分がどこにいるのかすら怪しいレベルだよ。正直知ってる人がいるなら付いていきたい」
神サマは無理と言えど、誰かしらの引率が欲しい。
校内マップや催し物が書かれた地図は生徒全員の手に渡っているものの、それでも自分の居場所は把握できていなかった。
頭を抱えつつ地図を見つめてどこに行こうか思案していた小生は、目の前にいる人物に気付かなかった。
直後、その人とぶつかり倒れかける。
「んぎゃっ」
「うわっ!」
「どんな叫び方をして――――ッ」
小生は倒れてはいなかったが、相手は尻もちをついていた。
私服の女性で、小生らよりもぱっと見た印象では年齢は上のようだった。
恐らくは大学生くらいの二十代前半だろう。少し大人びた印象を持ちつつも、赤い髪と印象に残る八重歯は子供っぽさも兼ね備えていた。
「っつつ……すみません」
「いてて……あぁいやぁこっちこそごめんねぇ。よっと。大丈夫大丈夫」
尻もちをついていたにも関わらず、ひょっと踏ん張ってジャンプして立ち上がる。
所作はまるで高校生のようだ。
小生を一瞥すると、気さくな笑顔で肩をぽんぽんと叩いてくる。
割と強打をしてきて痛い。
「ちょっと急いでてごめんごめん。ケガはないね! ヨシ!」
「は、はぁ……。そっちこそ、大丈夫ですか?」
「あぁあたし? あたしは平気平気! ――――あ! それよりその地図ちょっと貸してくれない!?」
「地図ですか……? いいですけど……」
「いやぁ今いる場所が分からなくて困ってたんだよねぇ」
そう言って小生が貸した地図を一目見るなり、「ふむふむ」と頷きだす。
一般人なんて見てもそこまですぐには分からないだろうというのに、その人は瞬時に理解して見せていた。
「なるほどね! ありがと! ついでにちょっとこれ借りてくね! いつか返すから!」
「はい……――――ってちょ!? マ!?」
「マ! じゃ、ありがとね~~~~~~!!!!!」
猛ダッシュで廊下の人込みを抜けていったその女性は、瞬きの後には視界から消え去っていた。
嵐のような人だったな……と思いながら、嘆息を吐いて隣を見やる。
世羅さんは呆れたような顔をしている――――――――かと思いきや、それは全くの見当違いのようだった。
「世羅さん……?」
「――――っ! あ、ごめん、なんて?」
小生の声を聞いて、数秒遅れて反応する。
世羅さんは先ほどの人が走っていった方向を凝視しながら、眉根を寄せていた。
まるで因縁の相手を見つけたかのような、そんな辛い顔をしていた。
「どうかした?」
「なんでもないよ」




