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天才様の唯物論  作者: 上海X
御伽奏子と譜祇遊戯
102/116

98時限目 雪影

 AM10:00


「あ、店長さん!」

「……! キミは」


 校内を歩いていると、最初に見つけたのは喫茶店の店長さんだった。

 少し前に先生に勝てなくて相談役を兼ねてお姉さんと共に会っていた人である。

 あれからもちょくちょく通うようになり、会話もする機会が何度かあった。


 まさかこの文化祭に来ているとは思いもしなかったが、独りで回っている辺りおおよそあの先生に誘われたのだろう。神藤先生は公の場には出られないらしいから、まぁ仕方ないのだけれど。


「鬼灯さん、で合ってたかな」

「はい。店長さんは今は一人なんですか?」

「そうだね。アイツを探してはいるけど、どこに行ったものか」

「あの人は多分、学生や教員しか入れないとこに居ると思いますよ。具体的な場所は分からないですけど」

「なるほど……」


 困った様子で手を顎に添える。

 軽装の私服姿は珍しく、少し意外だった。オフモードというのもあり、眼鏡をかけていて、肉食的な人ならば声をかけてもおかしくない。肩に下げたバッグは文化祭にしては少々大きすぎるとは思うが、中身を聞くのも無粋だと思い聞くのを止めた。

 正直なところ、私はお姉さんを探していたため店長さんに用事があるかと問われれば特段ない。

 だがしかし、知っている人を困ったままにさせるのも少し気が落ち着かないのもあった。


「店長さんは、お姉さん見ました?」

「咲さんか……。見てないね」

「一応来るはずなんですけど……」


 店長さんは知らない様子で首を振る。何か知っていると思ったが、アテが外れたようだ。そもそもをお姉さんと回ることを前提としていたため、今更友人の所に行くのも惜しい。店長さんも人探しをしているようだし、ここは折角なら同行しよう。


「――――此方が一緒に? キミが良いなら喜んで付いてくけど」

「ならそうしましょう。一応先生から無線のイヤホンを貸してもらってますし、もしかしたら先生もそっちの方が気付きやすいかもしれません」

「良かった。ちょうど連絡がこなくて困ってたとこだし。アイツと咲さんを探すついでにどこか驕らせてもらうよ」

「そんなそんな! いつも美味しいもの頂いてる上に話し相手にもなってもらってるので、今回はむしろ私が出すべきで」

「いやいや、女子高生に驕らせる成人男性は……」


 なまじ顔が良い人であるため、周囲の人たちが私たちの会話を変にとらえる。

 いやいやこの人既婚者。既婚者だから。


「……ここで話しててもアレですし、どこか歩きましょう」

「うん、了解」


 ♪♪♪♪♪


 無線機を生徒たちに渡して一時間と経たぬ頃。

 早くも連絡が飛んできて驚きつつも応えると、それは零からだった。

 喫緊の用事ではなさそうだったが、俺が今どこにいるかを問われる。


『今から来てくれませんか?』


 少し怪しげだったが、そのまま了承した。

 学生や教員のみが使用できる廊下を伝って零の居るところに向かうと、屋上手前の踊り場だった。

 至って真面目な様相で、ひとりぽつんと佇んでいる。


「どうした? 咲夜と一緒じゃなかったのか?」

「咲夜は満弦さんを探しに行きました」

「……そうか」


 予定していたものか、それとも俺にサシで話す必要があるためか。

 真相は分からないが、俺は零の言葉を待つ。


「先生は満弦さんに会わなくていいんですか?」

「あぁ……折角誘ったんだから会っておくべきではあるけど、今はそれどころじゃないしな」

「それはやっぱり桜音祇さん達のことですか?」

「まぁな」


 思ったよりも無粋な質問に少し気後れする。

 だが、零は相変わらず険しい表情で俺をじっと見つめていた。


「そいえば、学校の近くの喫茶店の店長さんも来てました。小耳に挟んだんですけど、あの人先生の知り合いだったんですね」

「? あぁ拓真のことか。まぁ俺が誘ったしな。アイツもアイツでどっかほっつき歩いてんだろ」

「会わないんですか?」

「さっきも言ったとおりだ。今はとにかく無理」

「――――先生はこの文化祭、部外者とは会えないんですよね」

「まぁな。あの二人……正確には三人だが、それらは俺が居なくても何とかするだろうと思ったから誘った」


 その返しに少しずつ語気が強まっていく零は、大きなため息を吐いて髪をくしゃくしゃと触った。

 はぐらかされている(・・・・・・・・・)ことに気付いているようだ。

 直後、零は鋭い眼つきで俺を睨む。


「――――じれったいんで単刀直入に言いますね。部外者と会えない理由を教えてください」

「それは『俺が教職をしていることが世間にバレちゃいけない』ってことの方か?」

「違いますよ。てかその程度バレた所で問題ないんでしょう」

「――――まぁ流石に分かるか」


 高校生の情報網を統括できるほどこの学校のセキュリティ意識は高くない。

 しかも、実のところ教職を務めていようとプロの契約は継続されている。

 なおかつ、『採用条件』の三項目に該当していない。

『採用条件』は無響以外の生徒にはバレてはないのだが、その他は察しの良い奴はいい加減勘づいてもおかしくはなかった。


「なんで今更それを聞くんだ?」

「体のいい言い訳を立てながら部外者と極力会わないようにしている事に不信感を抱くのは当然でしょ。他に理由があると思って質問するのは悪いことですか?」

「悪かねぇけど関係ねぇ(・・・・)

「っ、そ、そうですけど」

「話がそれだけならこれで一旦終わるが」

大人ですか(・・・・・)?」

「――――――――」


 その言葉カマに一瞬でも硬直してしまった。

 その俺の反応に確信を抱いた零は、僅かばかりの安堵の様子と共に更に追及を挑む。


「高校生なら問題ないのに大人に問題がある先生にまつわる事。条件はなんだか分かりませんがそういうことですよね」

「――――誰かから聞いたな」


 詳細な情報までは知らないようで一安心したが、もし零や他の生徒があのゲームシステムに関わるようならば止めなければいけない。

 そもそも高校生はそのシステムに関与できないはずだというのに、本当にどこから知り得たのだろうか。

 零は情報源を吐くつもりはないようで、沈黙を貫き通していた。

 今度は俺が嘆息を吐いて、感情を落ち着かせる。


「どこから知ったか知らないが、それ以上の詮索は止めとけ。もし知りたいようなら、この文化祭の後で教えてやる」

「――――それまでは黙ってろと?」

「あぁ、当然だ」


 強い言葉で制すると、零は半歩引き下がる。

 大人しく聞いてくれることに内心で安堵しつつ、俺は再度嘆息を吐いた。

 零は首肯してそれ以上詮索することはなく、「また後で」と言い残して去っていった。


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