97時限目 迷走
AM9:34
学内で開催の合図が響き、生徒のみでなく保護者や他の参加者等が校内に入っていく。
開放されている屋上は今は小生達しか居ない。
「人やば……」
当然ながら屋上に出し物はないし、朝から早々屋上で休憩を取るような人間もいない。
俯瞰して見える地上の光景に、圧巻される。
その景色にいつもなら興奮するはずの世羅さんは、空虚を映したような顔をしていた。
昨晩の様子とは打って変わって別人のように見える。何かを思い出したのか、それとも文化祭に対して何か思うことがあるのか。
真相が分からず、こういった時にどう声をかけるべきか分からない小生は相変わらず黙ったままだった。
「…………あの、世羅さん」
「っ! …………なに?」
「昨日の事なんだけど……何かあった?」
「なっ……何もないよ」
「ウソダドンドコドンッッッ!!」
「えぇ……」
「し、失礼。熱盛が」
駄目だ、コミュ症すぎるだろ小生。いや世羅さんが嘘下手すぎるのもあるけど。
聞くべきか迷いながら、遠くの景色を見つめる。
生徒の母親や兄弟らしい人がたくさんやってきている。親の存在、か。
小生も世羅さんも、どちらも親に見放され、見放した存在だ。
それを今更思い起こすなんて、酷なことだろう。
世羅さんは少なくとも何かを言うつもりはないらしい。あれだけ楽しもうとしてたのだ。
喫緊の用でなければ、少し置いておこう。
「世羅さん、どこ行きたい?」
「……へ? あぁ……えと、じゃあ和風喫茶!」
「了解……って、食べられないじゃん」
「見るだけでも楽しそうだし」
「なる、ほど……?」
(傍からみれば)セルフ喫茶、決行
♪♪♪♪♪
校舎の中に戻り廊下を歩く。
人の海に揉まれながら、頑張って和風喫茶のある場所へと向かっていた。
「人酔いしそう……」
「わぁ……廊下の端まで人ばっかだよ」
浮遊している世羅さんは、少しだけ高く浮くと、進行方向の先を見ていた。生徒の制服に限らず、出し物用の衣装や大人子供が居ることを知らせてくれたが、今の状況じゃ知ったとてどうしようもない。
世羅さんの様子は幾分かマシになっているのは見て取れた。
だとしても、小生がこの状態では世羅さんを拘束させたままになってしまう。
どうにかしていい方法はないものか。
そんなことを考えていると、後ろから呼び声。
「おや、君は」
「……? ぁっ!?」
その姿を見て、思わず上ずった声が響いた。
そんな叫声を響かせたとて、祭りの中じゃ大して見向きもされないのだが……、後方にいたのは、なんと校長先生だった。
校長もこんなところをふらついているのか。と衝撃が走るも、この人の大胆さはなんとなく察しがついていたためすぐに理解を飲み込む。
「校長先生!?」
「やぁ。葛星夜くん。祭りは楽しめているかい?」
「!!!! は、はい」
「ハッハッハッ、それなら良かった。君は今からどこへ?」
「え、えと……和風喫茶のとこに」
「ほう……中々面白そうだ。良ければ僕も連れてってくれないか?」
「は、はい……っ?!」
「よし、では行こう♪」
半ば強引に連れてかれ、おかしな状況に巻き込まれる。
あろうことか校長先生に同伴している元不登校児(&幽霊)なんて学内の新聞に載せられてもおかしくない。この人は何を考えているのか。
世羅さんも最初は驚いた様子を見せていたが、我関せずと言った表情で了承。
ホントここの女の人達は……。
校長先生はずかずかと廊下を歩いていく。
ぴしっとしたスーツを着ている女性ということもあるが、生徒からは勿論名前も容姿も周知の存在だ。校長先生が「失礼するよ」と言うだけで、緊急搬送中の救急車のように道を開けてくれている。
その後ろを金魚のフンのように付いていく小生にも、必然的に目が向けられるわけで。
「あの人なにやらかしたんだろう」
「えーでもあの校長先生だし、ただの気まぐれとかじゃない?」
「まさかぁ」
そのまさかなんだよっ。
赤ら顔で付いていく小生に対し、世羅さんはけらけらと笑って付いてきていた。
前方にいる校長先生から、声がかけられる。
「実は数日前に、あの先生に隠し事をしていたのがバレてね」
「……?」
「君の知りたいことについて相談されたんだ」
あの先生……というのは、神サマのことだろう。
隠し事は何のことかはわからないが、相談のことはかろうじて理解した。
「中々公的に立ち入ることができない家だから、少し時間はかかるだろうが……。一応、こちらで調べ上げた情報を渡すことは可能だよ。聞きたいこと等もあれば、このタイミングで聞こうと思ってね」
「……本当ですか!?」「……」
むしろこれこそが本来の目的だったのかもしれない。
公衆の面前で誘うのは些か大胆だと思うが、この機に乗じて話すのは酷く合理的だった。
「まぁ細かい話はあとだ。さ、もうすぐ着くよ」
間もなく目的地としていた和風喫茶の出店へとたどり着く。
幸いなことにすぐ入れたようで、給仕の人に連れられて、小生と校長先生は中に入っていった。
「い、いらっしゃいませ。お客様」
「おおぉ。よろしく、給仕さん」
「む、無響さん……」
給仕の人はさもゲームの中に出てきそうな「和風メイド」を体現していた。
フリルのついたエプロンに、抹茶色の着物。頭にはヘッドドレスを着用して、頬をほんの少し赤らめている。
先生が見たら絶対喜ぶだろうなぁと思いつつ、どうにか平静を保つ。
世羅さんは「かわいい~~~~!!!」と店内を飛び回り、他の給仕さんの服装を見て興奮していた。本当に自由奔放だ。
無響さんは少し上ずった声で小生たちにこっそりと声をかける。
「わ、ワタシがここにいることは絶対サトル先生に言わないでくださいね」
「……? なんでですか?」
「なんでもです」
「は、はぁ……」「なら僕の口から伝えておこうか?」
「やめてください!」
校長先生がからかい気味にそう喋ると、堰を切ったように制止させる。
まだそう大して関わってはいないが、この人さては面白いな……?
小生と校長先生が注文を終えると、無響さんはそそくさと去っていった。
「さて、では色々と質問させてもらおうじゃないか」
「――――? 小生が質問するんじゃなく?」
「あぁ。なに。ちょっとしたことさ。何故君がとうに死んでしまっている世羅賽花のことについて聞きたいのか。何故君が、彼女を知ろうとしているのかを」




