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朝の本音

読んでいただいてありがとうございます。例の夫妻の方が面白そうだったので、書いてみました。お砂糖プリーズ。

 アレイス・ワーグナー公爵が毎朝、目が覚めた時に最初に確認することは、愛する妻の寝顔だ。

 夫婦なのだから、当然、同じベッドで寝ているが、妻が寝ている間に悪夢で苦しんだ様子はないか、今日も穏やかな眠りを享受出来ているかどうかを確認するのは、夫である自分の役目だと思っていた。

 本音は、出来れば目を開けたその瞬間に妻の顔を見たい。

 だが寝るときの体勢によっては、妻の顔を見ることが出来ない。

 向き合って眠っていれば見られるが、時には後ろから妻を抱きしめて眠ることだってある。

 なので、朝一で彼女の寝顔を確認するのが毎日の日課だった。



 本日も気持ちよさそうに眠る妻を確認し、アレイスは彼女を起こさないようにそっとベッドから抜け出した。

 音をたてないように気を付けながら続き部屋に入ると、気配を察してすぐに執事や従者が部屋に入ってくるので、朝の身支度などを始める。

 服を着替えてソファーに座り、新聞を手に取った。王政府公認の新聞から民間のゴシップ新聞まで、あらゆる情報を仕入れるべく幅広く読んでいる。王政府公認の新聞には、公式発表された出来事や昨日の議会で決まったことなどが載っていて、こちらはさして面白くもない内容が多い。確認の為に読んでいるようなものだ。

 一方、民間のゴシップ新聞は、嘘か誠か分からない推測の記事が多いので、基本的に貴族はあまり読まない。だが、たまに一般民の目撃情報などで気になることがあって手の者に探らせると、けっこう面白い情報を掴めるので、案外馬鹿には出来ない。有益な情報は彼の仕事の上で役にたってくれるので、こちらも事細かに読むようにしている。

 コーヒーを飲みながらそれらの新聞を読み終えると、食事の間へと向かった。


「ココはもう少し寝かせておいてあげてくれ」

「かしこまりました」


 妻の侍女にそう言うと、彼女も心得ているので頭を下げただけだった。


 ココ・ワーグナー


 王家の末の姫として生まれ、数多くのライバルを蹴散らして手に入れた彼の最愛の妻。

 気品あふれるその姿に多くの者たちが憧れ、恋い焦がれた女性。

 幸いココ自身が彼を選んでくれて、アレイス自身が公爵という彼女に釣り合う身分だったから、国王が結婚の許可を出してくれたが、もし許可を出してくれなかったら彼女を連れて国を出て行く気満々だった。さすがにそれをやられると国力が下がりまくるからちゃんと許可を出せ、と国王は側近に怒られ、何よりココが強く望んでくれたのでしぶしぶながら許可を出したと聞いている。

 本日は久しぶりの休みだ。仕事も一段落したし、誰かに会う予定もない。

 ココの気分次第だが、公園にでも出かけようか。それともお気に入りの劇でも観に行くか。

 朝食を食べながら考えていると、扉が開いて彼の最愛の妻が現れた。


「おはようございます、あなた。起こしてくだされば良かったのに」


 ちょっとすねた顔も可愛らしい。


「気持ちよさそうに寝ていたからね。もっとゆっくりしていても良かったんだよ?」

「嫌ですわ。今日は旦那様のお休みの日ではないですか。お仕事の日は仕方ありませんが、お休みの日くらい一緒にいてくださいませ」

「もちろんだよ。本当は仕事など放り出して、ずっと君と一緒にいたいんだけどね。まぁ、君を守る為の仕事だと思えば、やる気も出るというものだ」


 ココは王家の姫。嫁いだ身とはいえ、もし王家に何かあれば彼女の身がどうなるか分かったものじゃない。最悪、国王にでも担ぎ上げられたら、思う存分愛し合えないじゃないか。

 アレイスがしっかりと仕事をして、現体制を維持している最大の理由はそれだ。

 自分と妻の為ならば、他の王族は生贄にでも何にでもする。

 身勝手と言われようが構わない。国王たちも現状維持で満足しているから問題はない。


「あなた、悪い顔をしていらっしゃるわよ。お兄様たちも大変ね」

「おや?君は国王という座に興味はないと思っていたが、欲しければ取ってくるよ?」

「要りませんわ、そんな面倒そうな地位。そういうことが好きな方に任せておいてくださいませ。うふふ、でも旦那様なら簡単に取ってきそうで怖いですわね」


 アレイスなら本気でやりかねない。ココが欲しいと言えば、国王の地位だろうが何だろうが取ってきそうだ。妻の願いを叶える為なら、能力全開でいきそうだ。


「やり方次第かな。でも君が要らないと言うのなら、放置しておこう」

「そうしてくださいませ」


 知らぬ間に王家は危機にさらされて、人知れず解決された。

 ココだって、国王という地位に就いたら最後、夫と思う存分いちゃつけないのは分かっている。もしうっかり就いてしまった日には、アレイスを宰相にして、全権を委ねて傀儡の女王になる気ではいる。


「わたくし、旦那様にいつでも甘えられなくなるのは耐えられませんわ」

「私もだよ。君に頼られるのは嬉しいが、忙しさですれ違いの生活なんてしたくない。何よりも夫婦の時間は大切だからね」

「でしたら大切な夫婦の絆を確かめる為に、本日は公園での散歩を希望いたしますわ」

「どこでどう確かめてくれても構わないよ。私は君への愛を隠すつもりはないからね。そうだ、散歩の後に最近人気だというケーキでも食べに行くかい?」

「まぁ!嬉しいですわ」


 妻の好きそうな物はちゃんと把握してある。つい先日、彼女が友人とそのケーキについて話していたと聞いたので、すぐに調べさせた。公園よりそう遠くない場所にあるので、そのまま散歩しながら行ってもいい。

 ちらりと執事を見たら小さく頷いたので、予約の方も大丈夫だ。


「あなた、本当にわたくしのことを良くご存じね」

「ふ、君のことで知らないことは何一つないと思っているよ。思っているし、そうで有りたいと願ってもいる。お願いだから、心の中に隠してしまうのだけは止めてくれ」


 それは切実なる願いだ。

 ココが少しでも感情を表に出してくれれば、その表情からいくらでも分かる。だがお互い、貴族の嫡男と王女という地位を持って生まれてきた身だ。笑顔で人を貶めるのが当り前、という教育を受けているので、表情を完璧に操ることくらい朝飯前だ。


「心配性ね、あなた。わたくしは、あなたにだけはちゃんと言うわ。ですからあなたも絶対に隠し事はなしにしてくださいませね」

「もちろんだ。と言いたいところだが、仕事関係のことは許してくれ」

「あら、それはそうね。でもそれ以外はダメよ?」

「約束しよう」


 いつの間にかアレイスはココの隣に来て、身をかがめて彼女の頬に口づけた。


「まだお食事中でしてよ」

「君はゆっくり食べていてくれ。出かける前に手紙だけ片付けてくるよ」

「ええ。わたくしも食べ終えたら仕度しますわ」


 アレイスとココはお互いに微笑みかけた。離れがたいな、と呟きながらアレイスは面倒な手紙の処理に向かったのだった。

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