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トカレスカ騎士団  作者: 観測者エルネード
第一章:騎士団設立篇
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鼠衆会との決戦Ⅳ

 ダッ、ダッ、ダッ。階段を駆け上がるエルベン隊。身体にこびり付いた血の鉄の匂いが鼻をつく。武器が掠った皮膚からは動くたびに痛みが増す。その最中でも、野盗の頭領を討たんと走っている。

「ーーーやっぱり、まだ関門はあるのな」

 階段を登りきったエルベン隊は、道を塞ぐ二人の男とまみえる。顔や背丈などが同じ双子であり、二人とも双剣を持っている。魔力量や筋力量は十傑には遠く及ばないものの、一般の兵を蹴散らすには充分な威力を放っている。

(ーーー旧エイジリア軍の百人隊長クラス、か)

 心の中でエルベンが呟いた。

「おい弟。オードルの弟子が来ると聞いていたが、あれは見たところ弱そうだ」

「うん兄貴。魔力もまだまだ追いついてないね。隊長を張っているみたいだけど、隊員全員でかかられても怖くないね」

「なんだと……と喧嘩を買ってやりたいところだが、お前たちの言うとおりだな」

 エルベンは隊員を抑えながら、素直に手を上げる。だが、続く攻撃で双子を苛立たせる。

「だが、組織としてはあんたらのほうが壊滅寸前じゃないか。偉そうにしている余裕はあるのかな?」

「「なっ……!!」」

 双子に青筋が立ったところで、また別の騎士団メンバーが現着する。ーーーレイザだ。

「エルベン、あの二人に手をこまねいているのか? ひとりは私が引き受けよう」

 光の民の強者が虹色の髪を靡かせ、クレイモアを弟の方に全力で振り下ろす。弟の方は双剣でクレイモアを受けて仰け反り、兄の方がレイザに刃を突き刺そうとする。ーーーそれを弾いたのは、ウインダムスの槍。

「もらったあっ!」

 レイザに気を取られていた兄の方の背後を取ったエルベンだが、まるで後ろに目が付いているかのようにルツェルンハンマーを避けられてしまう。避けた兄の方は地面を1回転し、呼吸を荒くしながら立ち上がる。

「……ふたり、か。いいだろう、かかってこい!」

 双剣をそれぞれエルベンとウインダムスの二方に向け、兄の方が叫ぶ。二人はじりじりと近付き、間合いで優位を取ろうとしている。二人の考えていることは同じ。

((ーーー槍を掻い潜って急接近しようとする隙を見逃さない))

 エルベンが魔法円を描こうとした瞬間、兄の方がルツェルンハンマーを剣の腹で押さえて踏み出そうとする。ーーー横からにゅっと動いた槍が兄の方の行く手を阻む。

「くっ!……あっ」

 魔法円から発動した地の魔法が石の床を這い、兄の方の片足の地面にボゴっと穴を開ける。すんでのところで足を上げた兄の方。ーーーウインダムスの槍が急襲する。

「やああああああーーーーーっ!!」

「ええい、弾いてくれるわ!」

 浮いた片足を強引に床につけ、双剣を薙いで槍を弾く。だが、空いた腹の空間にルツェルンハンマーの先端が、ずぶりと突き刺さる。ルツェルンハンマーの勢いに押されて兄の方が壁までぶっ飛ぶ。

「チェックメイト。二人で動くことは得意でも、二人を相手にするのは苦手なようだったな」

 兄の方は腹からどくどくと血が流れるのを手で拭って見、弟の方へ目を向ける。ーーーその弟の方は、レイザに頭を鷲掴みにされて全身を焼かれている。この世のものとは思えない悲鳴を上げながら、レイザの手を離そうと足掻いている。徐々に動きが鈍くなり、だらりと手足をぶら下げて一声も発しなくなる。弟の方を床に落とし、レイザもまたエルベンたちが敵を仕留めたのを認める。そのとき、弟の方の口が掠れ掠れに動いた。

「……あに、じゃ……これ、で、よか、っ、たよな…?」

「ああ、弟よ。……野に落ちたル・ラール方面軍の最期は、これ、でよい……ぐはっ!」

 兄の方が吐血したきり喉をピクピクさせながら息絶える。ピクリとも動かなくなった弟の方の焦げた匂いに辟易しながらもエルベンが回廊の先の扉を示す。

「……この先に頭領がいる。みんな、覚悟を決めろ」

 ウインダムスやレイザ、他の団員たちもそれぞれの得物を構える。固く閉じた扉に魔法をかけて腐らせ、ーーー総員で突撃して破る。

 バリイィン!!と音を立てて扉が破られ、エルベン達は執務室に躍り出る。机の向こう側にひとり、肥太った男が無防備でいるだけだった。

 エルベンは辺りを見回し、罠や他の敵などが無いのを確認してからルツェルンハンマーを床に落とし、腰に佩いた剣をするりと抜く。誰の目にも分かっていた。戦いの終わりは近い、と。

「……お前は、トカレスカ騎士団の者か?」

「ああ。副団長のエルベン•シエジウムだ。オードル•フラガラハの弟子にして、大陸の秩序の再興を目指す者のひとり、エルベン•シエジウムだ!」

 名乗りの口上をあげたのちエルベンは刃を頭領マゼランの首に添える。

「悪に名乗りは必要ない。黙したまま首を地に落とし、歴史から忘れ去られよ」

「……ふ」

 マゼランが微笑む。エルベンの首を切り落とそうとする手が止まる。

「そうか……。せいぜい、儂らみたいになるんじゃないぞ。未来は託した。……仲間を見捨てきれず、仲間と共に堕落したこの老害を今すぐ斬り落とすがいい!」

 後悔の滲み出た気迫がその場にいる全員を威する。エルベンの切っ先に迷いが出てブレるが、ウインダムスが手を添える。

「エルベンさん、僭越ながら。……このままいきましょう」

「ウインダムス。すまん、ありがとう」

 二つの手が握る剣が頭領マゼランの首を通り、頭が石床に叩きつけられるようにして落ちる。




 マゼラン死亡の報せは砦内を駆け巡り、騎士団と聖軍は歓喜した。元から崩壊していた野盗たちはマゼランの死亡を聞いて完全に戦意喪失し、残った僅かな生き残りだけが拘束された。

 歓喜ムードの中、アニールだけが喜びの輪に加わっていなかった。

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